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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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382.踏み越えて

 石斧のエルトネに弾かれたエイマは、それでもすぐに体勢を立て直し、依然他の選手達には目もくれずにいた。

 当然、無視していようと攻撃の手が止められることなどは無く、弾かれた後方にいた選手たちは一斉に武器を振るうが、エイマはまるで見えているかのように身を捻るだけでそれらを躱していた。

 地面を蹴り、再び石斧のエルトネに向かって跳び込む。先ほどと同じように向かってくる攻撃を、エルトネは斧を構えて迎え撃つ。

 一撃目は正面から石斧と衝突する。続く二撃目に対しても、石斧は角度を変えて対応する。


(軽い……っ!)


 攻撃を受けながら、石斧のエルトネは今回の攻撃は何か違うと感じていた。しかし分かりながらも対処しきることはできなかった。

 先程はこの時点で力強く押し返され、エイマは弾かれていた。だが今回は一撃、二撃目はダメージを与える目的ではなかった。敢えて少し力を抜き、待ち構えられた石斧の上を滑らせる。そうすることで衝突の反発力を逃がし、自らの体が押し戻されることを防いでいた。つまり、腕をクッションのように働かせたのだ。

 本命はそこから先。一撃目で石斧を構えさせ、二撃目で更にそれを誘導させる。そこへ三撃目、防ぐことが難しい胴体に急接近した下から斬り上げる攻撃。


「ぬぅっ!」


 石斧を使っての防御が追いつかないとすぐに判断すると、エルトネは革の鎧で覆った腕を捻って何とか攻撃を受け止める。腕で受け止めようと強い衝撃を喰らうことは間違いないが、胴体を狙った攻撃の最高威力が出るタイミングは勿論胴体である。そう考えれば胴体で受けるよりも未然に腕で防ぐ方がダメージは少ない。

 今回の攻撃は軽くはなかった。明確にダメージを狙った攻撃であったことは明らかであった。石斧のエルトネはそのまま受け止めた腕を振るって反発させようと試みる。

 切り上げ攻撃を跳ね返せば、その方向は当然地面である。エイマはそれを予測していたかのように綺麗な体勢で足から地面にぶつかる。同時に膝を曲げ衝撃を受け止め、次の瞬間にはそれをバネにして今まで以上の速度で地面を蹴った。


「なん、ぐふっ!!」


 最高速度で石斧のエルトネの背後に回ると、そのまま前方にいた大勢のエルトネの内一人の顔を踏み台にして方向転換、振り返りが間に合わなかったその背に強烈な一撃を叩きこんだ。

 確かな手ごたえを感じる一撃であったが、石斧のエルトネは怯むことなく反撃に石斧を振るった。エイマは咄嗟に片方の剣を構えて防御姿勢を取るが、今度は衝撃を受け流しきれず吹き飛ばされる。


「「うわぁぁっ!!」」


 吹き飛ばされた方向にいた選手達を巻き込み、エイマはその群衆の中で止まる。


「一瞬のうちに行われた立体的な四連撃! 対する選手も強烈な反撃をお見舞いしたぞっ!

 選手達の中に吹き飛ばされたが、果たして無事なのかっ!?」


 一連の出来事をまとめる司会の声がこだまする中、今がチャンスとエルトネ達がそれぞれの得物を振るう。

 エイマは背後にいる一緒に吹き飛ばされたエルトネを振り向きもせず押しのけ、立ち上がった姿勢に戻りすぐに腕を動かして攻撃を防ぐよう試みるが、流石に二本の剣だけでは防ぎきることができず、数発の攻撃を体で受ける。

 流石にこれはノーダメージと言うわけにもいかず、その目が少し細められる。しかしなお怯むことは無く、エイマはこの群衆の中から抜け出す手立てをすぐに考える。

 そして、目の前にいた一人のエルトネに狙いを定め接近すると、その膝裏に剣を差し込み、そのまま素早く手前に引く。


「なぁっ!?」


 膝裏に剣がぶつかり一瞬力が抜けると、そのエルトネはなされるがままに膝をつき、四つん這いの形になる。エイマはその背に乗って更に近くにいた別のエルトネの肩に飛び乗った。

 そのまま頭上に飛び出すと、選手たちは呆気にとられながらもそれぞれの武器を頭上に差し出す。剣が多い中、幾ら刃を潰しているとはいえ先端はそれなりに鋭い。傍から見ると剣山のようなその様に、観客たちは息を呑む。

 空中に飛び出せば後は落下するのみである。どうあがいてもその中に再び落下するしかない状況でどうするのか、皆息を呑んで目を凝らしていた。

 エイマは空中から狙うべき敵を探し、前方にその姿を捉えた。石斧のエルトネは上空に現れたエイマに驚きつつ、すぐに油断なく武器を構えていた。

 それを見て小さく頷きながら、エイマの体は落下に入る。そのまま剣に刺さるのか、うまく躱してまた群衆の中に呑まれるのか、そのどちらかと予想されていた中、エイマはそのどちらの選択肢もとらなかった。


「うあっ!?」


 目下にいた剣を見据えたエイマは、その剣の先端の側面を踏み蹴り、前方斜め上に向かう推進力を得た。剣を蹴られたエルトネはその衝撃に声を上げてよろめいた。


「ぐぇっ……」


 続けて、エイマが飛び出した方向にいたエルトネは、まさか自分の方に跳んでくるとは思っていなかったため、慌てて思わず剣を引っ込めてしまった。その結果として剣を蹴られることはなかったが、代わりに頭部を思いっきり踏まれ、あまりの力強さに情けなく倒れるのであった。


「な、なんということだ! 不安定な剣を足場にして宙をかけているっ! 判断力、脚力、身軽さ! それらが合わさって予想外の動きが生み出された!!」


 流石の司会も興奮の中に驚きを交え、同じように観客も奇想天外な動きに熱い歓声を上げ、リエティールもまた目を丸くしていた。

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