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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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381.反撃の雄叫び

 その後もエイマは飛ぶ鳥を落とす勢いで他のエルトネ達を次々に倒していった。

 彼の身のこなしは先ほどのイップにも負けない程身軽であり、かつ戦闘スタイルは敵を誘い込むカウンターを中心としたイップとは違い、自ら次々に攻めていくものであった。

 自らの周囲にいる敵を視界に捉えると、一瞬にしてその中で誰を攻めるべきか判断し、相手に身構えさせる隙を与える前に飛び込んでいく。二振りの剣の連撃はまた速く、的確に弱点を狙ってくる。

 相手を見定めた一瞬で、エイマは自らと相手の位置関係、体勢等を考慮し、弱点を複数認識した上で更にその中から一番攻撃しやすい箇所を選んでいた。

 そして攻撃の際は二つの剣の速度や角度を精密に調整し、時にはフェイントも交えつつ相手に防がせない、防がれても怯まず動けるように考えられていた。


「──一人、二人、三人っ!! 次々に並み居る強敵を倒していく! まさに圧倒的だっ!!」


 司会が煽るようにそう叫べば、観客たちも乗せられて増々熱くなる。「いいぞ!」「もっとやれー!」という声と共に拳が付きあがり、熱気によって浮かんだ汗があちこちで光る。

 中には応援していた選手が倒されたのか、悔し気に拳を握り締めている観客の姿もあったが、そんな観客も暫くすれば、半ばやけくその様な状態でエイマを応援し始めた。


「エイマさん……こんなに強かったんだ……」


 そんな熱狂の中、リエティールはエイマの圧倒的な強さを見てただ驚いていた。初めに大勢の観客の中からリエティールをすぐに見つけた時から、彼がかなり鋭い感覚の持ち主だとは気が付いていたが、まさかここまで群を抜いているとは思っても見なかった。

 無表情のまま次々に敵を打ち破っていく様は、殺戮や蹂躙というような言葉を連想させるが、実際には相手の一点をついて綺麗に撃破しており、むごたらしいというよりは却って綺麗すぎて恐ろしい、という印象を与えていた。

 先程のイップの試合では会場のあちこちでそれぞれ戦いが起き、バラバラと脱落者が出ていたが、今回はエイマが端からどんどんと倒し続けており、全く違う様相を呈していた。勿論、エイマとは関係のない場所で戦いも起こっているのだが、時間が経つにつれエイマへの警戒心が高まり、殆どのエルトネがエイマの動きを気にしていた。


 しかし、流石に戦い続けて多少の疲労を感じたのか、粗方倒されたところでエイマが動きを止めた。剣はしっかりと構えたままであったが、静かに深呼吸をしながら休めるように目を閉じた。

 次に倒されるのは自分かと戦々恐々としていたエルトネ達は、一先ず猶予ができたことに安堵していた。

 そんな群衆の奥から、エイマを取り囲むように一斉に臨戦態勢のエルトネが姿を現した。その全員は今がチャンスとばかりに目をぎらつかせ、雄叫びを上げてエイマに向けて駆け出した。

 その中の一人、石斧を手にした一人のエルトネが周囲に言い聞かせるように叫んだ。


「てめぇら! それでも大会に参加した戦士か!? こんな一人に怯えて情けねぇ!」


 それは恐らく今動き出したエルトネ達と裏で話を合わせていた、即席のリーダーのような位置づけだったのだろう。鼓舞する言葉が辺りに響き、怯えていたエルトネ達も一部奮起して後に続いて駆けだした。


「これはっ! 一人に対して他全員の殆どが一斉に牙を剥いたっ! 流石にこれは多勢に無勢かっ!?」


 一気に変わった展開に司会は興奮気味にそう言った。ここまでエイマは圧倒的な強さを見せていた。その強さは会場にいる誰もが理解していた。

 しかしそれはあくまでも各個撃破している時のことである。いくら能力が高くても大勢に囲まれてしまえば流石に厳しいだろう。リエティールを含め、観客たちはそう考えて息を呑んだ。


「っ……!」


 リエティールは両手を固く握りしめ、エイマを見つめて強く祈った。先程、イップが狙われた時も危険だと感じたが、今回はそれの比では無い人数である。いくらエイマが強くても明らかな劣勢にならざるを得ない状況を見て、リエティールは不安を感じずにはいられなかった。

 彼の周囲を取り囲むようにして一斉にエルトネが迫る。少し前までエイマの活躍に対してあげられていた歓声に負けるものかと言うように、力強い雄叫びが舞台上を埋め尽くした。

 そんな状況の中、中央に囲まれたエイマは落ち着いた様子でじっとしたまま、閉じていた目をスッと開く。そして目だけで周囲を一瞥すると、その中から先ほど鼓舞の声を上げた男、先陣を切って走って来る石斧のエルトネに目を留めた。

 そして、一瞬の間の後。


「──っぐぅ!?」


 エイマは地面を蹴って猛スピードで男に突っ込み、二つの剣で切りかかった。石斧のエルトネは驚きつつも、今まで誰も捌ききれなかったその連撃を石斧で受け止め、追撃が来るよりも先に腕力に物を言わせて押し返した。


「流石ですね」


 押し返されながらもエイマは一切目を離さずにそう呟いた。先陣を切って来るだけのことはある、と、エイマは心の中でそのエルトネが周囲より頭一つ抜けた実力があると認めていた。

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