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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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379.湧き上がる喝采

「何という事だ! たった一人で一気に三人を倒したぞ!

 さあ、残るは二人、剣士対剣士の一騎討ちだぁっ!」


 興奮した司会の実況に、会場中もわあっと声を上げて湧き上がる。リエティールもその中で身を乗り出し、一瞬たりともその活躍を見逃すまいと目を見張っていた。

 今舞台の上で立っているのはイップと、先程まで武闘家と戦っていたもう一人の剣士である。武闘家相手に剣で畳みかけ、怯んだところを一気に押し切り倒していた。


「このままお前も倒すっ!」


 武闘家を倒した勢いのままそう強く意気込んで、剣士はイップに向かって駆け出した。そして繰り出された叩きつけるような一撃を、イップは剣で受け止める。ガキンッという大きな金属音が鳴り、歓声で満たされた空気に罅が入るように鋭く響いた。

 イップは受け止めた剣を弾き、再び距離を取って相手の出方を窺う。一方で剣士はその隙すら与えるまいとすぐに次の攻撃を仕掛けようと踏み込んだ。

 再度の衝突音。その鋭い音もこの場においてはいつ決め手が放たれるのかと、観客の興奮を煽る音となり熱を帯びていた。

 数えきれないほどの人数の中からここまで生き残った者同士、お互い確かな腕があり互角の戦いが繰り広げられていた。


「なんとなく掴めたっす」


 何度も剣をぶつけ合う中、不意にイップがそう呟いた。剣戟の音でかき消され、相手の剣士は聞き取れずただ何か言ったという事だけ気づき、訝し気に眉を顰める。

 イップが剣を弾き再び距離がとられ、その僅かな隙にイップは続けて言った。


「力を込めた、正面からの攻撃……」


 その間にも剣士は話の内容に等興味ないと言うように剣を振り上げ跳びかかる。だがイップは慌てず闘志の宿った目で相手を見据えていた。

 そして、剣士が力を込めて腕を振り下ろした瞬間であった。


「消えっ……!?」


 剣士の視界からイップの姿が消えた。

 彼はその場から消えたのではなく、実際には一瞬にして素早く身を屈め、視界から外れただけであった。しかしそれによって一瞬姿を見失い、また何が起きたのかを理解するまでのわずかな隙が生まれたことは、イップにとって十分なチャンスであった。


「見切ったっす!」


 ギインッ、と、一際鋭い金属音と共に、剣士の持っていた剣が宙を舞った。潜り込んだイップが下から掬い上げるように切り上げ、剣を弾き飛ばしたのである。

 くるくると宙を舞った剣が舞台上に落下し、一瞬会場は静まり返る。剣士は自らの得物を失い呆然と立ち尽くし、イップはそこに剣を先を突き付けた。


「──勝負ありっ!!」


 わああああぁぁぁっ!!!

 司会の言葉と同時に、会場中から歓声が再び巻き起こる。


「やった……!」


 リエティールも思わずそう声を漏らし、両手を握り締め立ち上がった。

 声と拍手に満たされる中、イップは疲労で肩を激しく上下させながらも、応えるように大きく手を振っていた。

 舞台上で倒れている他のエルトネ達が救護班に寄って運ばれていく中、司会が舞台上に上がり、イップを中央に呼び寄せる。

 そして司会はイップの手を取ると高く掲げ、こう言った。


「大武闘会、初日第三試合、勝者は……イップ選手!!」


 その宣言によって、再度拍手喝采がボリュームを上げる。リエティールも興奮に身を任せて両手を打ち鳴らし、割れんばかりの拍手を送った。




「うーん……」


 試合が終わって一通り落ち着いた後、リエティールは唸りながら席を立とうとしては深く座り直す、という行為を繰り返していた。

 というのも、先程の試合を見ていたことをすぐにでもイップに伝えたいという気持ちと、ここで席を立ったらエイマの試合を見られないかもしれない、という気持ちが互いに競り合っていたためであった。


『リー、そう悩まずともよいのではないか?』


 何度も試案を繰り返すリエティールに、見かねたロエトがそう声をかけた。その言葉にリエティールが首をかしげると、ロエトは続けてこう言った。


『今ここで席を立ったとして、先程の者に確実に会えるとは決まっていないだろう。 ならばこのまま次の試合を見て、全て終わった後にまた探せばよいだろう』


「うーん……」


 それを聞いてなお悩み続けるリエティールであったが、ロエトの言うことは正しく、試合が終わったからと言って会場を出るとは限らず、勝ち残ったことで何かしらある可能性もあり、それが終わっても次の試合を見るために闘技場内に残っているかもしれない。

 そう考えると、今席を立って探すことも、後で探すことも同じかもしれないと、リエティールはロエトの考えに納得し始めた。


『何より、リー。 次の試合を見るためにここに来たのだろう? 本来の目的は果たすべきだ』


「……! そっか、そうだよね、うん……そうする」


 ロエトのその言葉が決定打となり、リエティールはこのまま席に残ることに決めた。見られなかったと言ったところで、エイマはそこまで気を悪くすることはなさそうであったが、簡単な口約束であったとしても破ったという事実は気持ちの良いものではない。


「エイマさんの戦うところも見てみたいし……」


 そうした好奇心も相まって、リエティールは一先ず次の試合の観戦に集中することにした。

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