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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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37.光の魔術師

 それから暫く、リエティールは流れていく景色を静かに眺めていた。とは言え、景色は殆どが白であり、目新しいものは無い。ドロクの周辺とは積もっている雪の量は違うが、それでも地面が殆ど見えない程度には深く積もっており、整備されている街道以外は何も見えない。

 そうしてぼーっとしていたリエティールだったが、ふと街道の脇に等間隔で並べられている棒状の物に意識が向いた。それの先端部分はランタンのような形になっていて、炎が揺れているように見えた。


「ソレアさん、あれはなんですか?」


 リエティールがそう尋ねると、ソレアは視線を彼女が指差すほうへ向け、


「……ああ、あれか。 あれは魔操種シガム避けの効果のある街灯みたいなものだ。

 その地域で出やすい魔操種の種類にあわせて、それが嫌う匂いだったりを発する薬草なんかを燃やしてるんだ。 町の街灯なんかも同じ仕組みが使われている」


と説明した。リエティールはへえと声を出して頷いていたが、その話をしたソレアは難しい顔をしていた。

 というのも、普通であればこの魔操種避けを見たことが無いということは有り得ないのだ。魔操種は人間を無条件で襲う、恐ろしい生き物であり、それを追い払う為に必要であるこの魔操種避けは生活の中になくてはならないものである。普通の町や街道には必ずと言っていい程存在するのだ。

 これが無い場所は二つのみ。一つは町や街道から離れた地域。もう一つは魔操種の寄り付かないドロクの町周辺である。

 そのことから考えて、ソレアはやはりこの少女がドロクの町で何か起きたことを知っているのではないかと思った。生まれも育ちもドロクの町であるならば、魔操種除けを知らないということは十分有り得る。

 だが、やはりソレアはその疑問を胸の奥にしまいこんだ。これで相手がもし気心の知れた仲であったり、あるいは捕らえたならず者だったりしたならば、彼は我慢せずに尋ねていたかもしれない。しかし相手は出会ったばかりの、世間知らずの子どもである。そんな相手から話したがらないことを無理矢理尋ねるということは、彼にはできなかった。


 それから暫くして、今度はソレアからリエティールに向かって質問を投げかけた。


「それでリー。 お前はこれから図書館に行った後はどうするんだ? 目的があるんだろう?」


 尋ねられたリエティールは、少し悩む素振りを見せてから、


「多分、いろいろなところを巡ると思います。 目的地はいくつかあるので」


と答えた。それを聞いたソレアはふむと頷き、


「つまりは旅か。 となると、クシルブのドライグでエルトネの申請をしたほうがいいかも知れん」


と言った。リエティールは疑問に思って首をかしげ、それは何故かと尋ねた。


「エルトネになれば、ドライグである程度のサービスが受けられる。 エルトネになるには名前を指定の用紙に記入して、それから似せ絵を収めれば完了だ。 特にやらなきゃいけないこととかも無い。 身元を登録しておくことで、信頼を売っておく訳だ。

 エルトネになってできることと言えば、依頼の受注もそうだが、魔操種の素材や他にも採集物なんかも他より高く買い取ってくれる。

 旅をしながら何か売れそうなものを取っておいて、旅先のドライグで売ればいい資金になる。

 一番いいのは命玉だな。 魔術師ストラ志望が多いから、需要も高くて高値で売れる。 特にエニスの属性の命玉は格別だ」


 彼はそうエルトネになるメリットを挙げていく。聞く限りでは普通に生活する限りであればデメリットは特に無いように思え、リエティールは納得する。道中で資金稼ぎができるのは大変助かることだ。

 彼女の中ではエルトネになることは決定事項と化したようで、その部分よりも命玉の売却について詳しく尋ねる。


「どうして光の命玉は高く売れるのですか?」


「光の魔術師は別名治癒術師ロトコードと言われて、特に貴重な存在なんだ。 外傷の治療はリムの魔術師でもできるが、解毒や解呪みたいなものは治癒術師しかできないし、貴族にとっては弔いに欠かせない存在だ。

 しかも光の属性を持つ魔操種は珍しい。 つまりそう簡単には入手できない。 だから光の魔術師は大体が滞在地の領主の庇護下に入って指定治癒術師になっている。

 高く売れるって言うのは、つまり領主が直接買い取るからだ。 貴重な存在をそう簡単に失うわけには行かないからな」


 その説明にリエティールはなるほどと深く頷いた。

 光の魔法は彼女も身につけたい魔法の一つである。その理由はドロクで眠る女性の弔いのためだ。今の少女が使えるのは、氷竜エキ・ノガードから受け継いだエキ時空エマイトの二種類の属性の魔法であり、そのどちらも弔いには向かない。弔いのためにはエリフか光の魔法がそれなりに使えなければならない。

 だが、火の魔法は既に望みが薄いとリエティールは考えていた。何故なら氷は火との相性が非常に悪い、相反するもの。身につけられそうにないと考えたからだ。

 となると残された選択肢は光になるのだが、今の話を聞いて、彼女はそれも難しいのではないかと考えた。唯でさえ希少な光の命玉を自分だけで集めるのは難しそうであり、かといって他者から手に入れるのも不可能であろうと考えた。

 となると、あと彼女にできることは、火か光の魔法が使える存在に助けを乞い、ドロクまで連れて行くことなのだが……。


 完全に意識が別の方向へそれてしまったリエティールに、ソレアが軽く肩をたたきながら声をかける。それにはっとして彼女は意識を戻す。


「おい、大丈夫か?」


 そう心配そうに声をかける彼に、リエティールは頷いて答える。彼女が寒さで体調でも崩したのかと気がかりに思った彼は、その様子と顔色を見て大丈夫そうだと安心し、続けて懐から布に巻かれた何かを取り出してリエティールに差し出した。


「ナイフだ。 何も身を守れるものを持たないで町の外から来るのは不自然だと疑われる可能性があるから、それを持っとけ」


 それを聞いてリエティールが「え、でも……」と遠慮がちにソレアの顔を窺うと、彼は首を横に振り、


「心配は要らない。 それは古いし、町についたら新しいものを買えばいいからな。

 お前も、取りあえず何か聞かれたら護身用にそれを持ってると見せればいいし、町についたら別の武器を見繕えばいい」


と続けて言い、彼女の遠慮を拒否した。返すのは無理だと判断し、リエティールは、


「わかりました、ありがとうございます」


と頭を下げ、コートの内側にしまいこんだ。

 ソレアはそれを見て、内ポケットにでもしまったのだろうと考えたが、実際は時空魔法で作られた空間にしまわれたなど、夢にも思わないだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ、途中までしか読んでいませんが、凄くいい感じだと思います。それで気になったんですけど、氷竜の遺体とかは時空魔法でしまったりしているのでしょうか?それともそのままですか?
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