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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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375.初日第三試合開始

「順番に! 押し合わないでくださーい!!」


 闘技場の出入り口では誘導担当の警備員が声を張り上げていた。出ようとする人々と入ろうとする人々の間で揉まれながら、幾人もの警備員が必死の形相で人混みの流れを抑え込んでいた。

 そうした人波の中で、リエティールは最早流されるままでいるほかなく、ただ転ばないように足元にだけ気を付けていた。

 人の流れはそのまま、以前来た時とは反対方向、控室ではない方向に向かって流れていく。そして更に数十秒程続くと、リエティールは漸く窮屈さが和らいだ。


「ぷはっ……」


 思わず大きく息を吸い、リエティールは顔を上げた。建物内の通路から観客席まで到着し、人々は前と左右それぞれに散っていき、観戦場所を求めて我先にと早足で進んでいった。

 こうしてはいられないと、リエティールも慌てて早足になり席を探す。しかしやはり入口周辺の席は全て余すことなく埋まっており、到底空きそうにもない。

 早くこの周辺を抜けたいという気持ちはあれど、席間の通路が狭い為無理やり追い越すようなこともできない。もどかしさを感じつつも、今はただ流れに従って歩くしか選択肢はなかった。


「フルッ!」


 視界の先に捉えた空席も、辿り着く前に先を歩く人にとられ、このままでは立ち見するしかないという状況で、不意にロエトがリエティールの肩を小さくつついた。


「ん?」


 リエティールがロエトを見、その嘴が示している先を見ると、客席の中ほどで動いている一人の姿が目に入った。見ていると、どうやら荷物を片付けている様子であった。

 リエティールの前を行く人々はまだそれに気が付いていないらしく、リエティールは運よくその席のある列に入ることができた。リエティールが入ると同時にその人物も席を立ち、遂に席へ座ることができた。


「ロエト、ありがとう!」


「フルル!」


 リエティールが感謝すると、ロエトは誇らしげに一鳴きした。

 そうして無事に席を確保した後、リエティールはパンや果実を取り出して簡単に昼食を取り、その後は会場の賑わいに耳を傾けたりボーっとしたりと、しっかりと休みながら時間を過ごした。


「皆さま! 間もなく休憩時間が終了いたします! 会場の出入りはお急ぎください!」


 ふと、司会の声が響き渡り、リエティールは顔を上げて周囲に目をやった。席を求めて歩いていた人々の数は随分と減っていたが、そうした人々もその言葉に諦めたのか立ち見をするために席の後ろ側にある通路へと歩いて行った。

 そうして数分後、再び司会の声が会場中に響く。


「これにて昼休憩は終了です! 間もなく第三試合の開始となります! そのままお待ち下さい!」


 それを聞いた人々は、興奮気味に騒めく。リエティールもエイマの試合ではないとはいえ、初めて観る大会の試合が一体どのようなものなのか、期待で目を輝かせていた。


「お待たせいたしました! それでは初日第三試合、選手入場です!」


 程なくして聞こえてきた司会の声に、会場がわっと盛り上がり歓声で満たされる。そうしてその声に包まれながら、入場門からぞろぞろとエルトネ達が姿を現した。

 エルトネは誘導員に導かれながら、舞台の上に等間隔で並んでいく。


「凄い、やっぱりいっぱいいるんだ……」


 続々と現れるエルトネを眺めながら、リエティールはそう呟いた。

 開会式の時は間隔を詰め端から端まで並んでいたが、それでも舞台をすべて埋め尽くすほどの人数であった。それだけの人数を五日間の試合で二十人まで減らすとなれば、やはり一試合ごとに割り振られている人数もかなり多いことになるだろう。

 これだけの人数がいる中で、生き残るのは一人だけ。リエティールは明日にはあの中の一人が自分に置き換わるのだと思い息を呑んだ。


「試合開始前にルールのおさらいをします。

 試合は最後の一人が決定するまで続きます。 使用武器はこちらで用意した物のみで、それ以外の武器などを使用した場合は即失格となります。

 脱落の基準は、気絶など戦闘不能状態に陥った場合、こちらで戦闘続行が危険と判断した場合、自ら降参した場合、となります。 また、脱落条件を満たした選手に対して攻撃を加えた場合も失格となります」


 そう説明を終えた後、司会は舞台上の選手たちを目で追い、その全てが並び終え、誘導係が脇へと降りたのを確認してから再び口を開いた。


「選手の整列が全て完了したようですね。 それでは! ただいまより初日第三試合、開始です!」


 司会の言葉の直後、一発の煙玉が高く打ちあがる。そしてそれが鋭い破裂音を上空で鳴らしたと同時に、一際大きな歓声が沸き上がり、並んでいた選手たちが一斉に動き始めた。

 戦いの舞台上ではあちらこちらでエルトネ同士がぶつかり合い、武器同士のぶつかる音が鳴り渡り、振動が観客席まで伝わっていた。


「凄い……!」


 それを見たリエティールは、一体何と言うべきかわからないまま、ただ気持ちのままにそう言葉を漏らした。

 「行けー! やれー!」「がんばれー!」という激しい声援にかき消されながらも、リエティールと同じように感動に言葉を漏らす人々も大勢おり、この場にいる全員が目前の戦いに夢中になっていた。

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