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氷竜の娘  作者: 春風ハル
375/570

374.熱い歓声に満たされて

 試合開始の合図があってからと言うもの、闘技場の周辺は増々盛り上がりを見せていた。

 内部の様子はうかがえないため、今誰がどのように戦っているのかという事は想像する以外に無いが、外まで響いてくる司会の声がそれを手助けしていた。

 司会の声だけではなく、中にいる観客の声援等も盛り上がりに拍車をかけ、その熱気は景色を揺るがすのではないかと言うほどであった。

 リエティールはそれを聞きながら、空いていた手ごろな壁に寄りかかり、以前依頼をした時に貰っていた完熟のストッキャの実を取り出した。ナイフで半分に切り、中の赤く熟れた果肉を掬って食べる。淡白だがほんのり甘く、瑞々しい果実は火照った体を落ち着けるには丁度良かった。


「凄いね、ロエト。 なんだか……よくわからないけど、ドキドキする……!」


「フルルゥ!」


 リエティールが果実を分けながらロエトにそう語りかけると、自分も同じだと言うように元気よく返事をした。


「ロエトの為にも、最初の試合は絶対勝ち残らなくちゃね」


「フル」


 乱闘ではロエトは参加できない。やる気に満ちているロエトの活躍の為にも、とリエティールがそう言うと、ロエトは信じていると、あるいは当然だと言うように、頷いて一鳴きした。

 そうしてゆったりと時間を過ごしていると、会場から聞こえてくる声は増々ヒートアップしていく。人数が徐々に減り、一体誰が勝ち残るのかと、司会の興奮した実況に観客のボリュームも増し、それを聞いている外の人々もいよいよかとざわめきを大きくする。

 リエティールもまた、誰がどのような戦いで生き残っているのか等全くわからない状況でありながら、決着が近い雰囲気に一層胸を高鳴らせていた。

 暫くすると、一時的に歓声が静まった。急に静かになり、自身の鼓動の音が反対に大きく聞こえる。闘技場の中の様子は分からないが、この場にいる誰もが状況を悟り息を呑んだ。

 そして、静寂を破る司会の声。


「大武闘会、初日第一試合、勝者は……トラッツ選手!!」


 わあああぁぁっ!!!!


 その宣言の後、試合中にも負けない轟くような歓声と割れんばかりの拍手が沸き起こった。

 リエティールも、勝ち残った選手が誰かわからないながらも、周りに釣られるようにして闘技場に向けて拍手を送った。

 その後も、何かを言っている司会の声をかき消すほどの歓声が暫く続き、数分の後に漸く落ち着いた。


「はぁ……」


 リエティールは大きく息を吐き出すと、ロエトと顔を合わせて小さく苦笑した。

 まだトーナメントにもなっていない初戦でこれ程ならば、決勝戦では一体どれ程の盛り上がりを見せるのだろうかと考えると、今から疲れてしまうような、そんな感覚がするのであった。


 それから試合場の整備を挟み、程なくして第二試合が始まることが告げられる。

 第一試合の時と遜色のない人々の声、司会の実況、激しい戦いの音に辺りが包まれ、試合の合間の落ち着きを忘れるほどの熱気がまた姿を現しだす。


「……あ! 闘技場の入口に向かっておかないと……」


 周りの雰囲気に呑まれ、再度試合を聞くことに夢中になっていたリエティールであったが、ふと我に返ってそう言った。

 第二試合が終われば昼休憩の時間が来る。会場に入るためにはそのタイミングを狙って置かなければ難しい。そのことをうっかり忘れていたリエティールは、慌てて今いる場所から闘技場の入口へと向かった。

 闘技場の周辺は人で溢れかえり、もはやどこが道かもわからない状態であった。休憩にはもってこいであった公園も、今ばかりは休むことができない程に人で満たされていた。

 そんな中を、リエティールはロエトを抱えながらなんとか合間をすり抜けていく。この状況では、出入り口近くにいなければ人波に流されてしまう。皆がその場に立ち止まって夢中になっている今が何よりのチャンスであった。


「ぷはっ……! ふぅ、とりあえず、この辺りまで来れば……」


 人と人の間の空間に顔を出し、息苦しさから解放されたリエティールは、目の前を見上げて呟いた。周囲は人ばかりであるが、そのすぐ先に闘技場の出入り口があるのは見えていた。ここまで来れば無理やりにでも中へ入ることができるだろう。

 リエティールが一息つく暇もなく、周囲からは湧き上がるような歓声が上がる。闘技場に近づいたことで聞こえてくる中からの音声は大きくなっており、先程よりもさらに増して熱狂の渦ができていた。


「立ってるだけで、なんだか疲れちゃいそう……」


「フルル」


 辺りの空気が痺れるように震え、リエティールは思わずそう呟いた。氷竜エキ・ノガードの魔法がかかった衣服を身につけているため、殆ど暑さを感じない彼女であったが、それでも辺りを満たす熱気に飲み込まれて汗をかきそうだと感じる位の盛り上がりであった。


 それから暫くして、再び湧き起こる歓声の熱気に包まれながらリエティールも一緒になって盛り上がった。そうして第二試合の勝者が決定し、一際大きな歓声が上がった後、リエティールの周囲の人混みが動き出す。

 人の出入りが始まり、リエティールは外へ押し出されないように注意しながら闘技場の中へと入っていった。

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