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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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373.始まりの合図

 宿泊施設についてからすぐに部屋に入りベッドで横になったリエティールであったが、今日見た模擬戦のことを思い返し、明日いよいよ大会での戦いが始まることを思うなどしていた結果、気持ちが高ぶりなかなか寝付くことができなかった。その結果、翌朝はすっかり朝日が昇ってからロエトにつつき起こされることとなった。


「エイマさんの試合が午後でよかった……」


 身だしなみを整えながら、窓の外へちらりと目をやり、リエティールはそう呟いた。

 開会式であの盛り上がりを見せた大会で、試合がいよいよ始まるとなればその熱狂ぶりは参加が初めてであっても容易に想像できる。窓の外には観客かエルトネか、とにかく大勢が興奮した面持ちで歩いているのが見えた。

 簡単に身支度を終えてロエトを肩に乗せ、部屋の扉を開くと、廊下にも大勢のエルトネがどこか慌ただしく歩き回っていた。早くしないと試合に間に合わない、席が埋まる、と言った声が飛び交い、リエティールと同様思っていたよりも起きるのが遅くなってしまった者が他にもいる様子であった。

 リエティールが宿泊施設を出ると、窓から覗き見た通り人々が溢れていた。闘技場に向かう人々だけではなく、そうした観客をターゲットにした露店や歩き売りの商人なども、昨日には姿が見えなかったにもかかわらずどこからともなく現れては、その騒がしさに加わっていた。

 人混みに流されないよう、リエティールは道の端に身を寄せつつ、昨日の開会式で聞いた一日の流れを思い出していた。

 試合は一日に午前と午後それぞれ二試合、合計四試合行われ、午前と午後の間には昼休憩が挟まれる。その時に人の出入りが多くなると考えられるため、リエティールはそのタイミングで闘技場に入るつもりであった。とにもかくにも、試合を見るには立ち見であれ闘技場の中には入らねばならない。

 大会参加者は控室に入ったり、専用に設けられた観戦スペースに入ることもできるのだが、それはあくまでもその日に試合がある者のみに限られているため、今日リエティールが入ることはできない。理由は単純に人数が多すぎて、そうでもしなければ収まりきらないためであった。


「お昼までは……結構ありそうだね」


 昼休憩は丁度太陽が真上に登る頃であり、まだ東の空にある太陽を見上げてリエティールは言った。午前の試合もどのような結果になるか気になりはするが、メインは午後のエイマが出場する試合である。今から無理して混んでいる闘技場に入り一日中そこにいるのも窮屈だろうと、リエティールは流れていく大量の人を眺めて思った。

 朝食代わりに何かいいものは無いかと露店を品定めしながら歩いていると、会場に向かう人々の期待に満ちた会話以外にも様々な話し声が耳に入って来る。

 それによると、どうやら前回大会の優勝者はラノーネという名前らしく、詳しいことは分からないが「様」や「姫」といった敬称が必ずついて呼ばれており、どうやら知っている人からすればかなり尊敬されているようであった。

 しかしその人物はどうやら今回の大会に参加していないらしく、「開会式に参加したけど、見つからなかった」というようなやや残念そうな声も聞こえた。

 この巨大な大会の優勝者ともなればかなりの実力者なのだろう。そうなればまた戦う姿を見たいと思うファンが多くいてもおかしくはない。リエティールも噂話を聞いただけでどんな戦いをするのか気になり、いつの間にかそれを見られないことを残念に思っていた。

 他にも参加者と思われる名前がいくつか聞こえてきたが、ラノーネと言う名前ほどよく聞こえてくるものはなかった。

 それと言うのも、現時点ではだれが参加していて、していないのかというような正確な情報が、本人から聞くか自分の目で見るか、という手段程度しかないのである。膨大な参加者を全員把握する、というのも一般人には無理だろう。

 そうした理由もあって、観客たちの楽しみである優勝予想という行為も、基本的にはトーナメントの出場者が出そろってから行われるものとなっていた。


 露店で串焼きや飲み物を買い、人混みから少し離れた場所で腰を落ち着かせ、リエティールが一息ついていると、外まで大きく響く司会の声が聞こえてきた。


「皆々様! 大変長らくお待たせいたしました! ただいまより大武闘会、初日第一試合を開始いたします!」


 その声の直後、闘技場の方から何やら破裂音が鳴り響いた。

 初めは何事かと驚いたリエティールであったが、上空を見上げ、そこに色付けされた煙のようなものが漂っており、破裂音はそれが弾けるのと同時に鳴ったことに気が付き、開始の合図であることを理解した。

 試合が始まると、割れんばかりの歓声が闘技場内、それに限らず外にいる人々からも湧き上がり、辺り一帯が熱狂に包み込まれた。

 その激しさに圧倒されて呆然としていたリエティールも程なくしてその雰囲気にあてられて、ほんのりと気分が高揚し、笑みを浮かべて煙の流れる青空を見上げていた。

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