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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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369.目指すもの

 一人残されたリエティールは、これから何をして明日を迎えるか、ぼんやりと立ち尽くしたまま漠然と考えを巡らせていた。

 時刻は昼頃、とりあえず何か昼食でも食べるべきだろうと考え、そのばから立ち去ろうとした彼女の背中に声がかかった。


「リー!」


 最近聞きなれた声に、リエティールはすぐに振り返って応えた。


「アルさん?」


 そこにいたのは、人混みから逃れられて漸く清々した、という顔をしたアルモックであった。彼はリエティールの傍までくると、一息ついてから改めて口を開いた。


「ここにいたんだな。 リーはいつになったんだ?」


 リエティールが手に持っているバンドに目を向けながら彼はそう問いかけた。その視線を追いかけて気が付いたリエティールは、それを広げて見せながら答えた。


「二日目の二試合目です。 アルさんは?」


 応えつつアルモックに問い返すと、彼は既に自身の腕に巻いていたバンドを見せて答えた。


「三日目の一試合目だ。 リーの試合、見に行くからな」


 二っと笑ってそう言うアルモックに、リエティールは少しの恥ずかしさと緊張を感じながらも頷き、


「ありがとうございます。 アルさんも頑張ってください!」


と返した。

 それから、リエティールがバンドを持っていた手を下ろそうとすると、その直前にアルモックが引き留めるようにこう言った。


「バンド、腕とかに自分で結ぶのちょっと難しいだろ? なんなら結んでやろうか?」


「あ、そっか……じゃあ、お願いします」


 アルモックの言葉に頷き、リエティールはバンドを手渡して左腕を差し出した。

 バンドは身につけていればどこでもいいのだが、一番便利なのは手首などであった。自分で腕に結ぶとなると片手で結ばなくてはならないためやや手間がかかる。特にリエティールは不器用である為、簡単に結ぶだけでもかなり時間がかかるだろう。

 自分で結ぶ場合は足首や、人によっては髪を結い上げるのに使用することもあるが、リエティールの場合は大きめのブーツであるため足首は結びにくく、髪もそう長くはない為結べない。

 となると、ここでアルモックに結んでもらえるというのは都合が良かった。


「……よし、きつくないか?」


 結び終え、そう確認するアルモックに、リエティールは手首を何度か曲げて、


「はい、大丈夫です。 ありがとうございます」


と返事をした。リエティールの答えにアルモックは満足げに頷くと、「それじゃ」と短く言ってその場を立ち去ろうとした。

 その背に、今度はリエティールが声をかけて引き留めた。


「あ、あの、お昼一緒に食べませんか? せっかく会えたので……」


 リエティールがそう言うと、アルモックは振り返り、腰と顎に手を当ててわざとらしく考えるそぶりを少し見せた後、笑いながら頷いて、


「そう言えばそんな時間だったし、それもいいかもな」


と答え、二人は共に昼食を取る店を探しに出かけるのであった。


 闘技場付近の店は案の定、闘技場から出てきたエルトネや観客で溢れかえっており、リエティール達は結局大通りをそこそこの距離歩き、ようやく見つけた余裕のありそうな店に立ち寄って腰を落ち着けることができた。


「ところで、リエティールは何で大会に参加したんだ?」


 食事をとりながら、リエティール達はお互いの参加理由などを話した。


「えっと、腕試し……です。 その、乱闘の形式は経験がないので、丁度いいかなって思って」


「確かに人間ナムフ相手の乱闘なんて大会でもない限りそうそう経験することないもんな」


 リエティールの答えに納得するように頷き、アルモックが相槌を打つ。


「アルさんは?」


 リエティールが問い返すと、彼は当然決まっているだろう、というような得意げな顔で、


「そりゃ勿論、修業の為だろ! 俺は師匠の後を継ぐんだぜ? でかい大会でいい成績を残すぐらいはしとかないとな。 誇れる成績がないと上には立てないだろ?」


と、自分の言葉にうんうんと相槌を打ちながらそう答えた。


「目標は優勝ですか?」

「当然だろ!」


 リエティールの問いかけに間髪入れずアルモックは身を乗り出して答えた。しかし、すぐに体勢を元に戻すと、困ったように視線を逸らし、


「でも、まあ……目標は目標だが、難しいだろうな。 やれることはやるつもりだが、今の俺だとまだ厳しいだろう」


と、急に弱気なことを言い始めた。先ほどまでの気概に満ちた自信あふれる姿とは打って変わったその様子に、リエティールは一体どうしたのだろうかと心配をした。

 その気持ちが表情に出ていたのか、アルモックはリエティールの顔を見ると、再び笑顔に戻り、


「自分の実力は弁えてるつもりだ。 強くなりたいからっていきなり最強になれるもんじゃないだろ? 努力と無茶は違うぜ。

 そりゃ、優勝できたら最高だけどよ。 修業っつったろ? あくまで今回の大会は一つの通過点ってわけだ」


と言った。その言葉に、リエティールは彼が自信を無くしてしまったわけではないと理解し、一安心して微笑んだ。

 そうして話しながら食事を終え、二人は席を立つ前にお互いに激励の言葉をかけ合い、店を後にするのであった。

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