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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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361.動く岩場

 その大きさにリエティールは思わず立ち尽くし、ロエトはその傍で只管警戒の眼差しを向けていた。

 砂の向こうに姿を現したのは、巨大な岩山、そのように見える甲羅を背負った巨体のクコルエルトルトであった。

 体を起こした衝撃で砂が舞い、背中から零れ落ちる砂もまた舞い上がり、吐き出した砂が地に落ちてからも煙たい空気がそこに充満していた。

 なぜこれほどの巨体にリエティールが気が付けなかったのかと言うと、それは砂の下に下半身を埋めており、さも岩場であるかのようにじっとしていたためであった。先ほどまでリエティールが岩場だと思っていた一部分が、丸々一体の魔操種シガムの甲羅だったのである。

 そして通常のクコルエルトルトとの違いはその大きさだけではなかった。甲羅から出た脚や首の皮膚が甲羅同様に硬質化しており、弱点として露出している部分も減少していたのだ。

 通常の個体とは大きく異なる体格差、そして弱点を守るように変化した身体的特徴。それらを踏まえてリエティールはこう判断した。


上位種ロイレプス……!」


 口にし、戦慄しつつも戦意は失われない。手に持った槍を力強く握りしめ直し、好戦的な視線を向ける。

 そんな彼女の視線に対し、上位種らしきクコルエルトルトが睨み返すように首を向けるよりも先に、リエティールはロエトに声をかけた。


「ロエト、乗せて!」


「フルルゥ!」


 呼びかけに対してロエトはすぐに応じ、その姿をディルブからフローへと変化させると、リエティールの元へと駆け寄る。そのまま立ち止まることなくリエティールを背に飛び乗らさせると、クコルエルトルトから距離を取るように走った。

 リエティールがその場から離脱した直後、その場所に再び砂の息が吐きだされた。そのまま、クコルエルトルトは首を動かしロエトの走った後を追いかける。


「フルル……」


 避けることはできているものの、通常の小さな個体とは違い、少し首を動かすだけで大きく動く砂の息は、少し走るだけではなかなか引き離すことができない。そこへ更に、砂地で足を取られ走りづらいという条件も加わり、ロエトは煩わしそうに声を漏らした。


「大丈夫?」


 砂の息が一度途切れたタイミングで、リエティールは心配そうに背中からロエトに問いかける。ロエトは問題ないというように目線を送って返事をするが、すぐに再度の砂の息が吐きかけられ、走るのを再開する。


「フルゥ……ホロロッ!!」


 砂の上を走りながら、ロエトは意を決したように鋭く鳴くと、砂を蹴って上空へ向かって飛び出した。同時に体が輝きだし、前脚部分の変化が始まる。

 リエティールが思わず目を閉じ、次にそれを開いた時には、ロエトは翼の生えた前脚で砂につくよりも先に宙を蹴っていた。


「早い……!」


 今までは、この姿に変化するには通常の鳥と狼間の変化よりも長い時間を要していた。しかし今回はそれらに負けず劣らず、寧ろ早いスピードで変化を終えていた。今まで数度この姿を使ったことで慣れてきていたのだろう。

 リエティールの驚きに、ロエトもその口元に若干の喜びを浮かべていた。ロエト自身も変化が上手くいったことに満足をしている様子であった。

 砂に足を取られなくなったことでロエトのスピードは大幅に上昇し、あっという間に砂を引き離し背後へ回ることに成功した。


 死角を取ることで何か有効な攻撃を加えられるかと考えていたリエティールであったが、後ろから伸びる尻尾までもが岩のように固くなっていることに気が付くと、再び頭を悩ませた。


「こうなったら、やっぱり頭を狙うしか……」


 そう考え、リエティールはロエトに甲羅の上を通って頭部まで近づくように指示を出す。そうすれば砂の息を吐きかけられることもなく、脚や尻尾も届かないため問題なく頭部に近づけると考えたのである。

 ロエトもすぐに頷き、その指示に従って甲羅の上を飛んだ。しかしその直後。


「グァァァアアア!!!!」


 クコルエルトルトが大きく吠えたと思うと、同時に甲羅から上空へ向けて無数の石の礫が飛び出してきたのである。


「フルッ……!」


 下からの思わぬ攻撃に数発の被弾をしたロエトは堪らず甲羅の上から離脱する。


「ロエト!」


 痛みに声を漏らしたロエトに、リエティールは悲痛な声を上げる。そんな彼女に対してロエトは先ほどと同じように大丈夫だと目線で訴えながら、少し離れた場所へと着陸する。


「ごめんね、ロエト……まさかあんな攻撃方法があるなんて」


 ロエトが甲羅の上から離脱してすぐに、石の礫の発射は止まっていた。通常の個体にそのような攻撃手段があるのかどうか試してはいないが、ドライグの情報にもそのような特殊な攻撃をすることは書かれていなかったため、恐らく巨体を持ったことで自身の死角を減らす為に編み出した攻撃方法なのだろう。


「甲羅の上はダメ……じゃあやっぱり正面に回るしか……でも、そうしたら砂が……」


 どうにか攻撃を加える方法が無いか考えている間にも、クコルエルトルトはゆっくりとその体を回転させてリエティール達の方へと頭を向けていく。


「……そうだ!」


 焦りの中、リエティールは一つの方法を思いついた。それから、


「ロエト、まだいける?」


と声をかける。その言葉にロエトは、


「フルルゥッ……!」


と鳴き、痛みを吹き飛ばすように頭を振るうと、クコルエルトルトに向き直り力強い眼差しを向けた。

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