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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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359.早朝を行く

「フルル」


「んぅ……」


 ロエトに優しく額を小突かれ、リエティールは小さな呻き声と共に目を覚ました。ゆっくりと上体を起こし、眠い目をこすり、まだぼんやりとした表情で外を見せる窓を見た。

 空はまだ薄暗く、しかし遠くに朝日の光が漏れ出ており、建物の陰を濃く浮かび上がらせていた。丁度夜明けというのにふさわしい時間であった。


「ふあぁ……ロエト、ありがと……」


 大きくあくびをし、うとうととしたままロエトにそう礼を言い、無理矢理ベッドから立ち上がって伸びをし、眠気を覚ますように自らの頬を軽く叩く。まだ喧噪の無い静かな朝に、パチパチとその音が軽快に響いた。

 もう一度大きく背を伸ばし、ようやくある程度目が覚めたリエティールは、ロエトを肩に乗せて早速部屋の扉を開ける。

 それと同時に、すぐ隣の部屋の扉も開いた。それに気が付いたリエティールは驚いて思わず「あっ」と小さく声を上げた。

 隣の部屋と言えば、そこにいたのはエイマであった。向こうもリエティールが出てきたことにすぐ気が付くと、軽く頭を下げて、


「おはようございます、リエティールさん」


と挨拶をした。つられてリエティールも挨拶をし返すが、続けて尋ねた。


「エイマさん、もしかして昨日もこれくらい早く起きてたんですか?」


 尋ねつつ、まさかと内心思っていたリエティールであったが、そんな疑念を一切打ち払うように彼はすぐに頷いて答えた。


「はい、大会までの間はコンディションを整えるため、朝は闘技場の周りを軽く走り込み、日が昇ってからはドライグで訓練をすることにしています。 日が落ちる時間には就寝し、明日に備えています」


 その話の内容から察するに、昨日リエティールが部屋に戻ってきたときにはすでに眠っていたのだろう。

 あまりにもストイックな彼の行動に、リエティールは苦笑しそうになるのを顔に出さないように抑えてただ一言「すごいですね……」とだけ返事をした。行き当たりばったりな行動をしがちなリエティールにはとても真似できそうにはなかった。


「それでは、僕はもう行きますね。 リエティールさんも体調にはお気をつけて」


 彼はそう言うとすぐにその場を立ち去った。あとに残されたリエティールはその後ろ姿の影を見て立ち尽くしていたが、暫くして、


「私たちも行かなきゃ」


とすぐに気を取り直し、後を追うようにして宿を出た。


 今日のリエティールの目標は、受注した魔操種シガムの討伐を達成することである。そのためにはまずこの首都から出なければならない。しかし、来た時と同様に歩けば、着く頃には確実に昼は過ぎているだろう。さらにそこからまた戻るとなれば、今日中に宿に戻ってこられない可能性が高い。

 依頼を選ぶ際、リエティールもその点に頭を抱えており、中々すぐに決めることはできなかった。そうして悩んだ末に、採取依頼を受けると同時に、受付嬢にそれとなく都合のいい討伐依頼が無いか尋ねてみたのである。

 リエティールは特段意識していなかったが、その申し訳なさそうに委縮した話し方と上目遣いの視線で見上げられた受付嬢は、心底親身になってアドバイスをしてくれたのであった。

 そうして、微々たる差ではあるが西門が一番ここから近いという事、その周辺に生息している魔操種の大まかな種類、そして何より一番有益な情報であったのが、この中心地と各門を定期的に行き来している乗り合いフコアックがある、ということであった。

 初めて来たときにもそのことを知っていれば、とリエティールは思ったが、エイマもこの町は初めてだと語っていたため詳しい交通事情までは把握していなかったのだろう、と考え今更思案しても仕方がない、と納得させていた。

 ともあれ、そうしたアドバイスがあってリエティールは今回の依頼を受注したのである。フコアックは短い距離を往来しているものを乗り継ぐ形になり、西門までも四度の乗り継ぎがあるが、それでも大幅な時間短縮になる。魔操種の討伐時間を考慮しても、今日中に戻ってくることができるだろう。


 宿を出て、ドライグで教えられた最寄りのフコアック乗り場に向かう。早朝と夜中は数が少ないとも説明されていたためすぐに乗ることができるか心配もあったが、幸いなことにタイミングが良く、乗り場についてからそう待たないうちにフコアックが到着した。

 他の乗客もほとんどおらず、少しずつ日が昇り徐々に人通りが増えていく街の中を、リエティールはフコアックの窓から眺めながら西門へと揺られていった。


 西門へ到着したときにはまだ昼前であった。方向だけを頼りに寄り道を挟みながら歩いた時とはその所要時間は段違いであった。

 相談してよかった、と昨日の自分をほめつつ、リエティールは早速門を通り外へ出る。

 宿を出たばかりの時は涼しいほどであった気温も、ここにつくまでの間にどんどん上昇し、今は熱さを感じる程度になり、まだ昇り切っていない太陽の光を受けて砂漠の大地は眩しく照っていた。

 リエティールは早速指定された魔操種の目撃が多い場所へと向かう。とは言え、砂漠では目印になるような物もほぼなく、与えられた情報は「西門から出て右手方向に進んでいった辺り」というようなかなり大雑把な情報であったが、少しの不安を覚えながら進むと、無事にその姿を視界に捉えることができた。

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