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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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35.エルトネと魔術師

 二日酔いで体調が優れないとはいえ、根っからの商人である彼らは、商売のためなら時間を惜しまないらしく、体を休めながらできるということで、ドロクに持っていく予定であった野菜などの商品を、無駄にしないためにこの村で売ってしまうことに決めたらしく、商談をすると言い、女性とセシフを伴って別室へと向かって行った。


 残されたのは少女とソレア。軽く言葉を交わしただけの二人は何となく気まずい雰囲気になりながらも、その状態を打破する為に動いたのはソレアの方であった。


「なあ、これから暫く行動を共にするんだ。 自己紹介といこうじゃないか。

 俺はエルトネをしているソレアだ。 ああ、エルトネって分かるか?」


 その問いに少女は、うーんと首を捻った後「ちょっとだけ」と答えた。嘗て女性から聞いたのは、お金を稼ぎながら各地を旅している人達だ、という簡単な説明だけであった。当時の少女にとってはそれよりも古種トネイクナの方が興味があったため、軽く聞き流していたのだ。


「エルトネって言うのはだな、己の力を磨く為に色々な仕事を引き受けて回る、まあ言ってしまえば便利屋だったり旅人だったり、そんなところだ。

 俺みたいに護衛をよく引き受けるやつもいれば、魔操種シガムの討伐に明け暮れるやつもいるし、町中での使いっ走りなんかを仕事にしているやつもいる。

 拠点を決めてその周辺で、ってやつが多いが、それこそ旅をしながら世界中を回って、行く先々で仕事を見つけるやつも結構いる。 ま、俺は前者だな」


 ソレアの話に、少女はなるほど、と相槌を打つ。ソレアのがたいのよさから考えると、使いっ走りの様な姿は想像できず、戦闘にも長けているのだろう。腰には鞘に収まった一本の剣が携えられており、その柄の状態からは、相当使い込んだのであろうと想像できる。


「さっきの商人達とはよく一緒に行動していて、この町にも頻繁に出入りしてたんだ。 この辺りは魔操種もそれ程でないし、最近はあんまり戦闘はしてないな。 でも訓練はしてるから、それなりに腕には自信はあるぜ。

 俺の方はまあ、そんな感じだ。 お前についても聞かせてくれ。 ああ、話せる範囲で構わないが、名前くらいは教えてくれよ?」


 ソレアは少女に自己紹介を促しつつ、彼女が何か「ワケあり」なのだろうと考えていたことを思い出し、最後の言葉を付け足した。

 少女は頷き、一呼吸置いてから話し始めた。


「私は、リエティール。 ……『リー』って呼んでください。

 えっと、行かなくちゃいけないところがいくつかあるので、そこに行こうと思っているところ、です」


 少女、リエティールはそう名乗った。中々言い難いことが多いためか、彼女の話は非常にぼやけている。だが、ソレアはリエティールがぼかしたところには深く突っ込まず、一先ずそれで納得することにし、別の質問をぶつけた。


「リー、か。 わかった。

 それで、一人だって言ってたが、本当に仲間とか誰もいないのか? 言っちゃ何だが、お前はまだ子どもだろ? ここらには殆どいないが、少し進めば魔操種なんて呆れるほどいるぞ。 身を守る方法が無いまま一人でいるのは相当危険だ」


 彼からすれば、リエティールは見た目が少し変わっているだけの、普通の少女だ。華奢な体に力があるようには見えず、それに武器を身につけているようにも見えない。戦いの経験がある彼にとって、そんな非力な少女が魔物に襲われてしまえば、一たまりも無いだろうと考えるのは当然のことであった。

 その問いに対してリエティールが、


「えーと……魔法、少しだけ使えます」


と答えると、ソレアは驚愕に目を見開いた。


「おま……まだ子どもなのに魔法が使えるのか!? あー、いや……それ、どんくらい使えるんだ?」


 彼は取り乱してしまったことを少し恥じつつ、少女に続けて問う。


「うん、と……これくらい? の、氷を……」


 少女は困り気味に、自分のこぶし大の大きさを示す。本当は現時点で既に、彼女の身の丈程度の氷塊を出す位であれば、造作も無いレベルの力を身に宿しているのだが、それを話してしまうのは不味いだろうと、ソレアの様子から判断して、極めて控えめに表現したのである。

 しかし、少女のそんな考えとは反して、ソレアは今にも目を回しそうなほどに驚いていて、放心状態であった。

 少しして、ようやく意識の戻ってきたソレアは、呆れたように深くため息を吐いて、途方にくれた様子で言った。


「その見た目で魔法が使えるだけでも驚きなのに、果てには一般的な魔術師ストラと同レベルの魔力が使えて、しかも属性がエキだと……?

 俺は、夢でもみているのか……?」


 どうやら、少女のこぶし大程度は一般的な魔術師と同レベルであるらしい。そういえば、と少女は、以前氷竜が「幾日もかけて小指の先ほどの炎や水を生み出すのがやっとだ」と教えてくれたことを思い出した。継続して命玉から魔力を得てそれ程の時間が掛かるのであれば、日常的に魔法を使いながら蓄えていく魔術師の平均レベルが少女のこぶし大であってもおかしな話ではない。

 それに加えて、ソレアの反応からするに、氷の属性は珍しいのであろうことも想像できた。


 リエティールはやってしまった、と激しく後悔した。魔術師が希少な存在であることが分かっていたのであれば、迂闊に魔法が使えるなどと口にするべきではなかったし、その平均的な技量も知らずに適当なことを話すべきでもなかったのだ。


 だが、この時幸運だったのは、ソレアは非常に気遣いのできる男であったということだった。彼はリエティールに真剣な眼差しで向き合うと、


「いいか、俺はこれ以上詳しいことは聞かない。 だが、忠告はする。

 魔法が使えることはそう簡単に話すんじゃない。 お前のような子どもが魔法が使えると知ったら、よからぬことを考えている輩がお前を狙う可能性はでかい。 お前自身の力を狙うものもいれば、魔法薬スタールを狙って来る者もいるだろう。

 取りあえず、一人で行動するつもりなら、別の護身用の武器を身につけておくのが懸命だ。

 いいか、絶対に、迂闊なことで魔術師だなんて名乗るな」


と、やや低めの語調でそう言った。その剣幕に、リエティールはただこくこくと頷くことしかできなかった。

 そんなやり取りをしつつ、リエティールはソレアの話に出てきた「魔法薬」について考えた。恐らくそれが氷竜の言っていた、命玉サールから作られる薬というものなのだろう。

 少女はそのようなものは一つも持っていないが、彼の話から察するに、魔力を蓄えたり生産できない人間である魔術師にとって、ある程度の量の魔法薬を常備しておくのは常識なのだろう。そして彼は、リエティールが珍しい氷の属性の魔法薬を持っているのだろうと考えてそう言ったのであろう、と彼女は推測した。


 リエティールは、初対面の世間知らずな少女にも丁寧に接してくれる、欲が無く真摯なソレアの優しさに、心の底から感謝した。

沢山の方に読んでいただき、感謝の気持を伝えたく活動報告に記事を作成しました。

後半で主人公のビジュアルについて画像つきでお話させていただいております。

よろしければ是非、目を通していただければ嬉しいです。

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