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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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357.気合を入れて

 ドライグを後にしたリエティールは、今日中に終わらせられそうだと考えて選んだ植物の採取の依頼をこなす為、教えられた目的地へと向かった。

 最初に依頼を選んでいた時、リエティールはここから町の外へ行くには歩いて何時間もかかることを思い出し、そんな状況ですぐにできる依頼があるのだろうかと不安に思っていたが、今回選んだ依頼は町の中で栽培されている植物を収穫するというものであった。

 自然の中での偶発的な出会いという可能性は低いが、それでも知らないものと触れ合えるのであれば、と妥協して選んだ結果であった。

 一方で、魔操種シガムの討伐依頼に関しては当然のことながら町の外でこなさなければならない。明日は早く起きるためにも今回の依頼は早くこなさなければ、とリエティールは気合を入れた。

 ドライグから数十分歩いて漸く目的地に到着する。そこにあったのは裏手に大きな庭の見える一見の建物で、


「こんにちは、依頼を受けてきました」


とリエティールが中に向かって声をかけると、奥から「どうぞ」という男性の返事が返ってきた。

 中に入ると、すぐのところで椅子に腰かけた初老の男性がリエティールを出迎えた。男性はリエティールに対してにこやかに微笑むと、


「腰を痛めてしまいまして、いやはや、座ったままで申し訳ありませんね。 お受けいただきありがとうございます」


と申し訳なさそうに言った。リエティールは首を横に振りつつ、受けた依頼内容の確認をする。


「依頼は『畑の植物の収穫』と聞いたのですが……」


「ええ、普段は自分で採るのですがね、今申し上げたように腰を痛めてあまりできんのです。 早く依頼を受けてもらえて助かりました。

 収穫の仕方を説明しますから、どうぞこちらへ」


 男性はそういうと、立てかけてあった杖を手に立ち上がると、裏手に続く扉へとリエティールを案内した。

 そして扉が開かれると、そこには一面に青々と育ったリエティールが見たことのない植物が立ち並んでいる光景が広がっていた。

 それらは今までリエティールが見てきた草や木とは姿が全く違い、彼女が物珍しそうに眺めている間、男性は扉の近くにある戸棚から道具を取り出して準備を進めた。


「まずは、これを。 手袋はお持ちのようですが、こちらの都合で汚してしまっては悪いですから、どうぞこちらをお使いください」


 そう言い、男性は太い糸で編まれた厚手の手袋を差し出した。リエティールの手袋は余程のことがない限り傷つくようなことはないのだが、ここは厚意に甘えることにして「わかりました」と言い受け取ると、手袋を付け替えた。

 それから小型のナイフを手渡され、近くにあった一つに近づく男性の横で話を聞いた。


「これが、収穫していただきたい実です。 大きさは、これくらい……拳と同じくらいで、色は少し赤みが……そう、これくらいですね」


 いくつか実っている中から一つを選び出し、それをナイフで切り取って見せる。そして、それを参考にと手渡される。


「後は……そうだ、これくらい赤くなってしまったやつは熟れすぎです。 うまいけど売り物にはならないんでね、もしよかったら持って帰っても構いませんよ。

 実以外の部分と、未熟なものは傷つけないように、それだけ気を付けていただければ。

 全てを収穫するのは大変でしょうから、あの籠一杯くらいで十分ですので、ええ。 それでは」


 最後にそう言い残し、男性はリエティールに後を託して家の中へと戻っていった。

 手渡された実を見つめ、それからリエティールは目の前に立ち並ぶ奇妙な植物を眺めた。

 一般的な、幹が伸び、枝が分かれ、そこに葉や実がついている、という植物ではなく、見た目は肉厚になった巨大な葉が、枝分かれするようにいくつも連なって空へ伸びているような姿をしており、先端にはそれを丸く太らせたような小ぶりな実が実っていた。そして、手袋を手渡されたのは、それに小さなとげが等間隔に並ぶようにして生えているためであろう。

 そして、リエティールが背伸びをしても届かない場所にも実が付いていた。道具置き場には足場に使う為であろう踏み台が置かれている。


「これ……結構かかりそう……」


「フル……」


 リエティールの呟きに、肩のロエトも頷く。高い所にある実をロエトが収穫できれば話は早いのであるが、流石にそこまで器用なことはできない。ナイフを持つにも足では繊細に動かすことができず、風の魔法では近くの他の部位も傷つけてしまう可能性がある。

 今この場でロエトにできるのは、せいぜい籠を掴んで運ぶことぐらいだろう。


「……受けた依頼は頑張らなくちゃ! さ、やろう!」


 少しの間唖然としていたリエティールであったが、ぼうっとしている時間も惜しいと気が付き、気合を入れるために握りこぶしを作り声を出す。

 それに応えるようにロエトも「フルルッ!」と力強く鳴いて籠を持つと、二人は実の採取に集中して取り組み始めた。

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