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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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356.燃える心

 腹ごしらえを終えたリエティールは店を出て、昼食を取る前のエルトネと昼食を取った後のエルトネがひしめく広場を何とか抜け出す。

 人混みから離れたリエティールは、日が暮れるまでにはまだ十分な時間があると判断して次はドライグを目指して通りを進んでいく。通りにはある程度人の流れができており、ドライグまでの道のりはさほど大変なものではなく、程なくして到着した。

 通りに並ぶ他の建物と同様、砂色の外壁は太陽の光を浴びて白く光っている。その規模は地図で見た通り大きく、左手を見ると裏へ続くのであろう通路があることが窺えた。

 一先ず中の様子を見てみようと考え、リエティールは正面入口へ向かい中へ入る。外観に違わず中も広く、正面の受付も広い。まだ参加受付期間であるので勿論大会用の受付増設されているが、ここまでくると闘技場の方にも人が流れるためか、その数は門近くのドライグと大差はなかった。

 朝や夕方と言ったピークの時間ではないが、昼時という事で中々の人数のエルトネがおり、広場の人込みを避けるためかここで食事をとり、ゆっくりと休憩している人の姿も多く見られた。中にはそれを狙ってきたものの一足遅かったのか、仕方なさそうに壁際に持たれて食事をしているエルトネの姿もあった。

 一通り内装を見回した後、リエティールは依頼が張り出されている掲示板の方へと向かった。

 オロンテトで錬成術師ミクラルトからの依頼が多く張り出されていたように、依頼の内容にはその地域の特色が強く反映されやすい。特にここは砂漠地帯であり環境が大きく異なる。

 どんな依頼があるだろうかと考えつつリエティールがそちらへ向かうと、複数ある掲示板の中でも特に目立つ中央の掲示板には何やら大量に紙が貼られており、それらは近くにいるエルトネに寄って次々に手に取られていく。


「……?」


 何やら普通の依頼とは様子が違うそれが気になり、リエティールは紙を手に取ったエルトネの一人を目で追った。

 そのエルトネは専用の受付へ向かうと紙を提出する。それを受け取った受付嬢は内容を確認すると、置かれていたベルをカラカラと鳴らし、番号が書かれた札を高く掲げた。するとすぐに別のエルトネが現れて、二人はお互いに言葉を交わした後入口から外へ出て行った。


「なんだろう?」


 それを見ていたリエティールはやはり普通の依頼とは少し違うと思い、その目立つ掲示板へと近づいてみることにした。

 紙に書かれた文字が読める程度に近くに行くと、それがエルトネによる模擬戦相手を募集するものであるということが分かった。

 紙には募集しているエルトネの名前と使用武器、それから簡単な誘い文句、ものによっては希望する相手の条件などが書かれていた。

 どうやらこの掲示板はエルトネ同士のマッチングを補助するための役割を持っているようであった。エルトネが多いこの町では恐らく普段から模擬戦を行いたいエルトネが多いのだろう。特に大会目前ともなれば、自分の実力の最終確認を兼ねて仕上げておきたい、というエルトネも多くいて不思議ではない。

 こんなものもあるのか、とリエティールは感心してそれを眺めつつも、通常の依頼が貼られている方に目を向ける。

 オアシスの水汲みなど、日常的な依頼にも特色がある中、彼女が気にしたのはやはり討伐や採取などの依頼であった。魔操種シガムを見れば見たこともない姿や聞いたこともない名前や生態をしたものが様々に貼りだされている。採取の方にも、初めて見聞きする植物等が記載されている。

 大会を前に模擬戦を行い少しでも練度を高めておく、というのも悪くはないが、好奇心の強いリエティールにとっては未知の魔操種や植物といったものの方が心を引くものがあった。

 エルトネが多く厳しい気候という事もあってか、ざっと見ただけでも様々な種類の依頼が並んでいたが、リエティールはその中から今日中にできそうな植物の採取と、明日取り掛かれそうな魔操種の討伐と素材の納品依頼の二つを受注することに決めた。

 受注の手続きを終えてドライグを出たリエティールは、町の外へ出る前に少し見ていこうと、ドライグの裏手側に回った。

 そこには広い修練場があり、大勢のエルトネが思い思いに鍛錬に励んでいた。更に奥を見てみると、高めの柵で囲われたスペースがいくつかあり、その内部は模擬戦場となっているようで、そのどれもが使用中であり、中ではエルトネ同士で戦っている様子が遠目にも伺えた。柵の外側には順番を待っているのか、あるいは見学しているのか、ある者はその様子を眺め静かに観察し、またある者は声援を送るなど、一際賑やかになっていた。

 その様子を遠巻きに見ていたリエティールも、大会が始まったら自分もあのように戦うことになるのだろうと思いを馳せ、静かに闘争心を燃やしていた。


「……よし、行こう!」


「フルルゥ!」


 気合を入れるようにそう声を出したリエティールに、ロエトも応えるように鳴き声を上げる。お互いに頷きあった後、リエティール達は依頼をこなす為町の外へと出て行った。

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