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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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351.忘れずに

「ところで、アルさんはここで何をしてたんですか?」


 そういえば、とリエティールがアルモックに尋ねる。彼の話ぶりから既に参加登録は済ませているようであったが、それでは何故闘技場の近くにある公園でのんびりとしていたのだろうかという疑問が浮かんだのである。


「別に、この町に来るのは初めてだからさ、体を動かすために散歩を兼ねて朝早くから町を見てたんだよ。 日が登ってからだとこうして人が増えるだろうからな。

 で、一通り歩き終わって、丁度いいからここで休憩してたってわけだ。 慌てて闘技場に駆けこむやつらを見てるもの面白いぜ。 そういうお前は?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべつつアルモックはそう言い、リエティールに対して問い返した。


「あ、私も町の様子を見て回ろうと思って、会場の闘技場はどんなところなのかな、って……それで、案内板が無いかなって探してたところです」


 リエティールの返答を聞いたアルモックは「なるほどな」と言いつつ、公園の外を指さしてこう言った。


「案内板は無いが、そこの広い道に出て右の方にまっすぐ行くと案内所があったぜ。 そこなら地図とかあるんじゃないか?」


「わ、ありがとうございます!」


 教えてくれたことにリエティールが感謝して頭を下げると、彼は「いいって」と手を振った。そして、


「じゃ、俺はそろそろ行くかな。 お前も、大会までまだ時間があるからってのんびりしてないでしっかり準備しときな」


と言いリエティールに別れを告げて公園を後に歩き出していった。リエティールも「さようなら!」と手を振り、ディルブの姿に戻ったロエトを肩に乗せて、アルモックに教えてもらったように大きな通りに沿って案内所を探し始めた。

 少し歩くと「案内所」と看板を掲げた建物が姿を現した。リエティールと同じようにどこに行こうか迷っているのであろう、エルトネらしい人が多く集まっており、それぞれ受付で話をしていたり貼りだされた地図を見ていたりと混雑していた。

 受付の方の順番待ちはなかなか時間がかかりそうだと判断し、リエティールは人混みをかき分けつつ地図の方へと近づいた。

 地図の現在地を探すと、大きく描かれた闘技場がすぐに目に入った。やはり闘技場はこの町の中でもかなり大きな建物のようで、目印としてかなり目立っていた。

 そこからすぐに現在地を示す記号を見つけ、リエティールはその印を中心にしつつ周辺に何があるのかをざっと見ていった。

 このまま通りを進んでいき、途中で曲がるとドライグのエルグルトス中央支部があるようであった。北門や東門など、門の近くに構えられているドライグと見比べるとその大きさは一目瞭然であり、闘技場には及ばないものの、広い敷地を保有しているのであろうことがすぐに分かるものであった。ウォンズの王都にあったドライグのように、修練場などの設備が充実しているのであろうことは容易に想像できた。

 そこから更に先へ、通りに沿って多くの店などが建ち並んでいる。この町にも勿論一般市民が住んではいるが、そうした住宅地は闘技場から離れた、通りをいくつも挟んだ先に集まっていた。そのため、この通りに面している店はとにかくエルトネ向けの物ばかりであり、一般家庭向けの店はそうした奥まった場所の方に集中していた。

 闘技場へ来るまでの道のりと同じで、店の多くは武器や防具屋、道具や薬類を扱う店が多く、合間合間に食べ物を扱う店などが混ざっていた。よく見ると中には体のコンディションを整えるためのマッサージ店や、一つの戦術に特化した道場や教室のようなものも見られた。

 エルトネの仕上げの仕方は人それぞれあるのだなあ、などと思いつつ道を目で辿っていくと、最終的にその視線は闘技場よりも大きく立派である唯一の建物、王城へと辿り着いた。その傍には巨大なオアシスも存在している。


(そういえば、王妃様に姉妹にもよろしく、って言われてたな……)


 城を見てふと、オロンテトの王妃、シルクに言われた言葉を思い出す。このトレセド帝国にも、エクナドの三人の姉の内の一人が妃としているのである。


「忘れないようにしないと……」


 シルクとしてはできればそうしてほしい、という程度の気持ちでリエティールに言ったことではあるが、他ならない一国の王妃の頼みである以上そう軽視することはできない。リエティールとしても会ってみたいという気持ちがあり、折角ここまで来たのだから会わずに去るという選択肢はないだろう。

 自分に言い聞かせるようにつぶやいた後、少しの間考えて、今日中に王城へ向かい、会えるかどうかだけでも確かめておいた方がいいだろうと判断し、リエティールは案内所を後にすることにした。

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