350.熱い約束
茂みの陰に移動してから、リエティールは周囲の人目がこちらに向いていないことを確認する。そうしてから彼女はロエトに言った。
「じゃあロエト、お願い」
「フルル」
リエティールの言葉に一度頷いてから、ロエトは肩から地面に降りると意識を集中させる。するとすぐにその体が淡く光りだした。
「な、なんだ!?」
突然光りだしたロエトにアルモックは驚きを露わにする。そんな彼が凝視している目の前でロエトの輝きは増し、鳥だった時よりも明らかに大きさを増してゆきその姿を変えていく。
程なくして変化は終わり、光が収まった後に現れたのは狼の姿のロエトであった。
リエティールとロエトが同時に「どう?」という意思を込めた視線をアルモックに向けるが、彼は口を開けたまま完全に固まってしまっていた。
「アルさん?」
肩を指先でつつきながらリエティールが声をかけると、彼はようやく意識を取り戻した。彼はリエティールとロエトを交互に見ながら、
「どういうことだ? 変身? 変身したのか?」
と動転したように言った。
それから少しの間間をおいてようやく落ち着きを取り戻したアルモックに、リエティールはスドゥーのドライグでドライグ長に話した時と同じように、ロエトと出会った時のことを話した。
アルモックはまだ少し驚きを残しつつ、腕を組んで話を理解するように努めていた。
「つまり、この霊獣種は森でティラフローとして生きていて、リーと共闘したことで契約をしたってわけか。 しかも変身できる……信じられないけど、目の前にいる以上信じるしかないよな……」
まじまじとロエトの姿を見た後、アルモックは一つ大きなため息を吐いた。それからリエティールの方を向き、
「にしても、少し会わない間に普通の槍使いだった奴が霊獣使いになってるなんて思いもしなかったぜ」
と言った。リエティール自身もロエトとの出会いは全く予期していなかったことの為、その彼の言葉に頷いた。
「私も、旅を始めた時は霊獣種と出会って仲間になって旅をするなんて思ってませんでした」
より正確に言うのであれば、出会うことはできても仲間になるとは考えていなかった、ということである。
最初に出会ったウォラのように、会えるとすればそうして既に人間と契約しているような霊獣種ばかりであろうと思っていたことに加え、野生で出会えて力を貸してもらえたとしても仲間に引き入れようなどとは考えていなかった。
だからロエトと出会った時も、ロエトの方からの申し出が無ければそのまま立ち去り別れるつもりであったのだ。
そんな風に仲間となった時のことを思い出しながら、リエティールはロエトの頭を撫でた。
「でも、大会の最初にある乱闘だと持ち込みの武器が禁止されてるんだから、幾ら霊獣使いと言っても霊獣種を戦わせることはできないだろ?」
アルモックの言葉に、リエティールは頷いて答える。
「はい、でも私には槍もありますから大丈夫です!」
このことについては、ドライグで参加登録をした際に受付からも同じようなことを言われていた。一般的な霊獣使いの武器と言えば、勿論パートナーである霊獣種である。しかし、大会の最初にある乱闘では、一対一とは違い、思わぬ事故の発生につながる危険性が高い上、そうしたことが起こった場合途中で停止することが難しい為、大会側から支給される危険性の低い武器以外は使用が禁止されている。それは霊獣種も例外ではない。つまりリエティールの場合ロエトと共に戦うことはできない。
霊獣種を貸し出すというようなことができるわけもなく、そうした決まりがある為、基本的に霊獣使いは大会には参加しないことが多い。参加したとしても普段使わない武器で乱闘を勝ち残るのは至難の業であり、今までに勝ち残った霊獣使いはいなかった。
しかし、リエティールの場合は初めから霊獣使いとして活動していなかった分、自ら槍で戦うことがメインであるためそうした心配の必要がない。彼女にとって霊獣使いというのはあくまで形式的な肩書に過ぎないのである。
アルモックも一度彼女の戦いぶりは見ているので、自信たっぷりに答えた彼女を見て頷いた。
「それだけ自信があるなら槍の腕も上がったんだろうな。 でも油断せずしっかり勝てよ? 乱闘で負けてトーナメントに上がれない、なんてことは無いようにしろよ!
お前が霊獣種とどうやって戦うのか、俺も見てみたいしな」
アルモックからの激励の言葉に、リエティールも力強く頷く。そんな彼女に対して、アルモックは続けて指をさしてこう言った。
「俺は楽しみは後にとっておくタイプだから今は我慢するが、もしもお前が初戦で負けたら、終わった後に俺と戦ってもらうからな!」
その言葉に、リエティールは好戦的な笑みを浮かべて、
「勝ち上がります!」
と答えた。彼女の答えに、アルモックは満足そうに笑みを浮かべた。




