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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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348.開催まであと

「おーい、お二人さん! 終わったぞ!」


 店に並んだ武器を眺めながら暫くすると、店の奥から店主の声がかかった。二人が行くとカウンターにはメンテナンスが終わった武器が並べられていた。


「坊主は銅貨五枚な。 嬢ちゃんの方は研ぐ作業も込みで七枚だ」


 言われた通り代金を支払い武器を受け取ると、硬貨を数えた店主は、


「よし、二人とも大会に出るんだろ? 頑張れよ!」


と激励し二人を見送った。

 店を後にし、再び宿泊施設のある場所を目指して歩き始める。エイマの見立てではメンテナンスにそう時間がかからなかったため、まだ日が落ちるまでには到着できるだろうということであった。


「それにしても、武器屋さんが多いですね」


 建ち並ぶ建物を見て、リエティールは思ったことを口にする。先ほど偶然にも近くに武器屋があったことを幸運に思っていたが、先程の武器屋から数歩歩いただけで別の武器屋があり、見渡せば更にたくさんの武器屋が存在していることに気が付いた。中には向かい合っていたり隣り合っていたりする店もある。普通の町であれば競合を避けるために少し離れた場所に店を設けるであろう。


「僕らのように、大会に向けて訪れるエルトネの為である、という他にも、この国は元々エルトネの数が多いですから、武器屋にとっては客の取り合いに熱を入れる場所なのでしょう。 武器屋の他には、雑貨屋も多いようですね」


 彼の言う通り、武器屋の他は殆どがエルトネ向けの雑貨屋であった。他には食べ物を売っている店が数件混ざっている程度である。少し視線を動かせば、エルトネが店を出入りしている姿が目に入る。中には複数の店から同時に声をかけられて戸惑っているエルトネの姿もあった。


「でも、こんなにたくさん同じ店が近くにあって、喧嘩とかにならないんでしょうか?」


 リエティールの疑問に、エイマはどう答えるべきか数秒悩んだ後にこう言った。


「彼らにとっては、これもある種の戦いであるのかもしれません」


「戦い?」


 エイマの答えにリエティールは不思議そうに首を傾げた。それから少し考えて、成程、と一人で頷いた。


「戦いなら、正々堂々としてなきゃいけないですね」


「はい」


 戦いに明け暮れてきた歴史を持つ人々にとって、戦いというものには誇りあるべきだ、ということなのだろう。それが武器を交えることであれ売ることであれ、自分の実力での勝負であり、いがみ合うことなど言語道断、ということである。

 リエティール達は自分の店を自慢する声や、時折混ざるライバルを挑発するような言葉に耳を傾けながら、活気あふれる道をまっすぐ歩いて行った。


 数時間後、途中で足を休めながらも、リエティール達は無事に目的地である宿泊施設のある場所まで到着していた。

 太陽は建物の合間に姿を消し、空は燃えるような赤から徐々に深い青紫へと染まりつつあった。

 リエティール達は受付で証明書を提示し、部屋を案内される。この日はほとんどの部屋が既に埋まっていたようで、二人が案内されたのは一番遠い棟の端の方にある部屋であった。


「それじゃあ、おやすみなさい」


「はい、おやすみなさい」


 そう短い挨拶を交わし、二人はそれぞれの部屋に入っていく。

 部屋の中は聞いていた通り狭く、一人用のベッドが一つと枕元に小さな机が一つあるだけで、寝るくらいしかできることがないほどであった。

 リエティールがベッドに腰掛けると、それまでずっと肩に乗っていたロエトはひょいと机の上に飛び降りた。


「ちょっと疲れたなあ」


「フルル」


 ふう、と息を吐きながら倒れ込むようにベッドに横になると、ロエトはその顔の傍に寄って、お疲れ様と言うように額を優しく翼で撫でた。


「えへへ、ありがとう。 ロエトもじっとしてて疲れたでしょ? しっかり休んでね」


 お返しと言うようにリエティールもロエトの背をそっと撫でると、ロエトは気持ちよさそうに目を細めた。


「あと……あれ、何日だろ?」


 眠る体勢に入りながらリエティールは呟く。

 町で大会を知った時はあと六日、その翌日に二日をかけてここエルグルトスに到着した。そして今日一日かけて闘技場の近くまでやってきた。翌日になれば大会の開催まであと二日、と考えていたのだが、よくよく考えればそれは受付の締め切りであった。受付を締め切ると同時に大会が始まるわけではないだろう。

 やっぱりちゃんと調べておけばよかった、と後悔に苛まれつつも、今日はもうどうしようもない、と諦めて眠ることにした。


 次の日の朝、目が覚めたリエティールはエイマのいる部屋を訪ねた。


「あれ?」


 しかし、尋ねた時にはすでにエイマは部屋を出ていたのか、部屋の中には誰もおらず、仕方がないのでリエティールはそのまま宿泊施設を後にすることにした。


「すみません、あの……」


 建物を出る前に、リエティールは受付に大会の開催日がいつなのかを尋ねた。こんなことも知らずに登録してしまったという事を悟られることに恥じらいを感じていたが、受付は特に気にした様子もなく普通に答えた。どうやら締め切りから二日間はグループ分けと会場の最終準備があり、開催日はその後、つまり今日から五日後であるそうであった。

 受付は説明をしてから恥ずかしそうにしていたリエティールに気が付いたのか、こっそりと、


「毎年同じような方が数人現れるんです」


と言った。それを聞いたリエティールは自分だけではなかったという安心感と、やはり恥ずかしいという気持ちで、


「あ、ありがとうございました!」


と言い足早に外へと去ることにした。

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