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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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344.急がば回れ

 話題を逸らそうと、リエティールは何かを探して部屋の中を見回す。すると先ほど部屋の隅に置いたエイマの荷物が目についた。少し大きめの鞄があり、武器はその後ろにあるのだろうかよく見えないが、それ以外に目立つ荷物はなかった。鞄の見た目に差異はあれど、リエティールの物と近い体に密着するような、エルトネ向きの動きやすい形のものであった。


「あ、えっと、エイマさんもエルトネなんですよね。 あのフコアックに乗ってここまで来たってことは、武闘大会に参加するんですか?」


 丁寧で淡々とした喋り方をする為、受ける印象からだけでは繋がりづらいが、彼自身も先ほど言っていた通りエイマはエルトネであった。

 案の定彼はリエティールの問いかけに頷いて肯定した。


「はい、最も、目的は勝ち上がる為ではなく自分の腕試しのためです。 普段は事前に計画を立てて実行する依頼を多くこなしている為、特に乱闘と言った形式の戦いは経験がなく、いい機会かと思いましたので」


「あ、私も……ここに来るまでの途中で偶々大会のことを知って、やってみようって思って」


 何とか話を逸らすことができたことにほっとしながら、似たような目的をもっていたことに再び小さな驚きを得る。


「そのためにも、大会への参加登録を済ませなければいけませんね。 リエティールさんは、どこで受付があるかご存じですか」


 そう聞かれ、リエティールはそういえばそれは知らなかったと思い返す。張り紙を最後までしっかりと見ていなかったため、首都で開催されるということと、声をかけてきた女性が直通のフコアックを進めていたことから、漠然と首都に来ればいいとだけ考えていたが、肝心の登録できる場所がどこにあるかを知らなかった。

 リエティールが「あ……」と口を開いたまま固まったので、エイマはそれを理解してこう言った。


「ご存じないのでしたら、僕と一緒に行きませんか。 僕も行くことは初めてですが、場所は知っているので」


「あ、じゃあ……お願いします」


 若干の恥ずかしさに目を泳がせながら、リエティールはぺこりと頭を下げてそう言った。エイマも頷き、そこで話を切り上げた。

 リエティールとエイマは順番に浴室を使って体を洗い流すと、明日に備えて眠ることにした。


 翌朝、リエティールが目を覚ますとエイマはとっくに起きていたようで、大きく伸びをするリエティールに対して彼は声をかけた。


「おはようございます。 簡単な朝食を用意しておきましたので、よろしければどうぞ」


「ふぇ……?」


 眠い目をこすりながら、まだ回らない口で声を出す。ぼんやりとしたまま数秒が経ち、漸く頭が活動を始めて状況を理解し始めた。

 エイマはすっかり身だしなみを整え、食事もすでに終えているのか、テーブルの上にはリエティールの分だけのヒドゥナスが置かれていた。中身は魔操種シガムのものであろうかという燻された肉と、調味料が挟み込まれていた。


「え、あの、これは……いいんですか?」


 リエティールの場合は時空エマイト魔法があるが、普通のエルトネにとっては持ち歩ける荷物には限りがある。こうした食材も最低限の物だけを持ち歩くもので、あまり数は多くないはずである。肉の加工にも時間はかかるだろう。

 戸惑いながらリエティールが尋ねると、彼は頷いた。


「魔操種はまた狩ればいいですし、この町で色々買えるでしょうから、遠慮せず召し上がってください」


「あ……い、いただきます」


 エイマに促されるまま、リエティールはそれを口にした。特別なものではないが、朝食としては十分なボリュームがあり、リエティールは満足感と共に朝食を終えた。

 その後すぐに身だしなみを整え、荷物を持ってエイマと共に宿を出た。


「参加登録を受け付けているのは会場となる中央闘技場です。 ですが、他にも周辺のドライグでも登録は可能だそうです。 なので、ここから二番目に近いドライグまで向かいましょう」


「二番目? 一番目じゃないんですか?」


 エイマの言葉にリエティールは首をかしげる。普通であれば一番近いドライグへ行こうというはずである。それなのに二番目とはどういうつもりなのだろうか、と疑問に思うリエティールに、エイマは前方を指さして言った。


「あの人混みの先です。 あれではいつドライグにたどり着けるかわかりません。 なので、ここから離れていてもなるべく人の少ないドライグへ向かう方が良いでしょう」


 彼の示す先には、大勢の宿から出てきたエルトネが我先にと急ぎ歩く姿が見えた。昨日の夕暮れにこの町へ着いたエルトネ達である。確かに、あの人数ではドライグが大きかろうと時間がかかるであろう。人数が多い分、先日あったようなトラブルが起きる確率も高い。


「あちらは北門のドライグです。 僕達は東門へ行きましょう。 そちらの方が入ってきている人も多少は少ないはずです」


「わかりました」


 エイマの機転に感謝しつつ、リエティールは東門を目指して歩き始めた。当然ながら同じことを考えてそちらへ向かっているほかのエルトネもいたが、北門のドライグに向かう大群と比べれば随分と少ない。

 東門までの道のりは大分長時間になったが、先を急ぐ人々に揉まれることもなく、二人は落ち着いてドライグへと向かうのであった。

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