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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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343.無表情な少年

 リエティールと少年は指定された二人用の部屋へと向かった。リエティール達の後にも何人かのエルトネが入ってきていたので、話をするのはとりあえず部屋についてからということにしていた。

 部屋の扉を開き壁際に荷物を置く。部屋の中には二つのベッドと椅子に机、タンスとクローゼットが一体になったものがあり、扉と反対側には大きな窓がついており、更には体を洗い流すための簡易的な浴室まであった。

 流石値段が張るだけある、とリエティールは物珍しそうにキョロキョロと見回しながらも、少年と向かい合う形で椅子に腰かけた。


「同じ部屋に泊まる以上、あなたが安心できるように僕は自らのことを話すべきですね」


 先に口を開いたのは少年の方で、その独特な言い回しで始めた後、自己紹介を始めた。


「僕の名前はエイマと言います。 ウォンズ王国の南東にあるアレネという町の出身で、エルトネとしては剣を主な武器としています。 武器は先ほど荷物と共に置いてきましたので安心してください。

 あなたに声をかけたのは困っているように見えたからであり、他意はありません。

 他に何か聞きたいことがありましたら、何なりとおっしゃってください」


 すらすらと機械的に話す彼の様子に、リエティールは若干戸惑いながらも答えた。


「えっと、大丈夫です。 その、声をかけてくれてありがとうございました。

 じゃあ、えーと……私も自己紹介します。 名前はリエティールです。 出身は私も……ウォンズ王国です。 うんと、その北の……」


 エイマが自らのことをしっかり話したのだから、自分も同じように教えなければいけないという気持ちに焦り、言葉を詰まらせながら話そうとしていると、途中でエイマが口を挟んだ。


「無理に僕に合わせなくても大丈夫です。 僕は、話していいと思ったことを話しただけですので、気を使わないでください」


 相変わらず無表情で好調も平坦だが、彼がリエティールに対して気を使ってるということは分かったので、リエティールは少し委縮しながらも、自らの名前とウォンズ王国から来たエルトネである、ということだけ話した。


「それと、この子はロエトです」


「フルル」


 ディルブの状態で肩の上に止まっているロエトを示してリエティールがそう紹介する。エイマはそれを見ても、霊獣種ロノに対して特に驚きを見せることもなく、軽く頭を下げて「よろしくお願いします」と挨拶をするだけであった。


「それにしても、出身が同じ国の方とこうして会えるとは、不思議な偶然ですね」


 戸惑っていたせいで反応ができなかったが、リエティールもその点については驚いていた。

 よくよく考えてみれば、リエティールも元々はエイマと同じ黒髪であり、肌の白さも近かった。そう思うと、リエティールからの一方的なものではあるがどこか親近感を覚える所もあった。


 それから、次の話題をどう切り出すべきか思いつかず、リエティールはエイマの顔色を窺うが、やはり無表情であるが故に、彼が今どういう気持ちなのかが全く分からなかった。

 そのせいで無駄に緊張してしまい、それが態度に出てしまう。リエティールが居心地悪そうにもぞもぞと落ち着きなく座り直すのを繰り返すのを見て、エイマは何かを察したのかリエティールに対して話し始めた。


「僕は、生まれつき表情を動かすことが殆どできないんです。 そのせいで今まで何度も誤解をされてきました。 リエティールさんも、そのせいで不安を感じていらっしゃるのでしょう」


「え、あ、えっと……はい」


 その問いかけにリエティールは動揺したが、彼自身、自分が他人からどう思われているのかを理解している様子であったので、リエティールは隠さずに素直に頷いた。

 すると、エイマの口元がわずかに動く。だがやはりそこから表情を読み取ることはできない。しかし、リエティールは恐らく、彼が微笑もうとしたのだろうと考えた。


「それは仕方のないことです。 感情のわからない相手と話すことが不信感につながることは理解していますから。 ですが、僕があなたに対して悪い感情を抱いていないという事は、どうか信じてください」


 リエティールも、彼を疑うような気持ちはないのだが、それ故に彼に対して不安を抱いてしまうことに若干の申し訳なさを感じていた。

 どうすれば気持ちが変わるだろうかと悩んでいると、ふと彼を初めて見たフコアックの中でのことを思い出す。

 あの時も、彼は無表情で口調は一切変わっていなかった。だが、一瞬目線が鋭くなった時は、まるで別人かのような冷たさを感じさせていた。

 リエティールはエイマの目を見た。口も頬も眉も、他の要素は全く動いていなかったが、目だけは穏やかな温かさを感じさせた。

 それを認識した瞬間、リエティールの中にあった不安感が和らいでいくのを感じた。そして、リエティールは微笑んで答えた。


「はい、私も、あなたが悪い人だなんて思っていません。 むしろ、とても真っすぐで素敵な人だと思います」


 その言葉を聞くと、無表情のまま、彼は小さく目を見開いた。注視していなければわからないような僅かな変化であったが、確かにそこには驚きがあった。


「……ありがとうございます」


 平坦ながらも、どこか嬉しそうに彼はそう言った。

 リエティールは彼の反応に満足げな笑みを浮かべ、それからこう言った。


「その……口調を変えたりはしないんですか? 表情が作れないなら、その分言葉を柔らかくすればいいんじゃないかなって、そう思ったんですけど……」


 その問いかけに、彼はこう答えた。


「昔馴染みにもそう言われたことが何度かあります。 ですが、染みついたものでして中々簡単には変えられないのです。 私の両親は礼儀を重んじる方々でしたので、物心ついた時にはこの口調が普通で……申し訳ありません」


「そ、そんな! 謝らなくていいんです!」


 頭を下げるエイマに、折角縮んだように感じた距離がまた開いてしまうと、リエティールは慌ててそれを止めるのであった。

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