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氷竜の娘  作者: 春風ハル
338/570

337.騒がしい現場

 その轟音と共に、街道には前方を塞ぐ大きな岩がいくつも落ちてきた。先ほど二人の耳に聞こえてきていたのはこの岩が斜面を滑り落ちる音であったのだ。

 ロエトに一歩遅れて先頭に到着したリエティールは、飛び上がっては槍を懸命に振りかざし、小さな落石を弾いて人々に当たらないようにしていた。ロエトもそれに合わせて風の魔法を放ちサポートをする。近くにいたエルトネも驚きつつ状況を理解し、立ちすくむ旅人を後ろへ押し戻すなどして協力に努めた。

 そうして、全てが地面に落ちきるまでなんとか怪我人を出さずに済んだ。


「大丈夫ですか!?」


 呆然と立ち尽くす旅人達にリエティールは呼びかける。突然の出来事に固まっていた旅人はその声で我に返り首を縦に振る。

 フコアックの御者は興奮して暴れるエスロに引っ張られて前のめりに倒れながらも、なんとか御者台から落ちずギリギリのところで踏ん張っており、リエティールの声にはっとして慌てて身を起こし、エスロを宥めた。

 ふう、と大きく息を吐いてから、御者はロエトがリエティールと共にいるところを見てそちらに声をかける。


「ありがとう、先程は怒鳴ってすまなかった。 フコアックを止めていなかったら、私たちは今頃……」


 言いながら視線を大岩に向け、口を噤んで身震いをする。起こり得た悲惨な未来を想像したのだろう。

 一先ず誰も怪我をすることがなく無事に終わったことに胸を撫で下ろしつつ、リエティールは道を塞ぐ岩石の山を見上げて悩んだ。


「これ、どうしよう……」


 見上げるほど大きな岩石の山はものの見事に街道を塞いでいた。谷になっているため横に避けていくこともできない。

 ある程度体力のあるエルトネなどであればよじ登って乗り越えることができるだろう。そうでなくても、ロエトが力を貸せば背に乗せて一人ずつ向こう側へ連れていくことも手段としてはある。

 しかし、それではフコアックは向こうへ運ぶことができない。商人や荷物は運べたとしても、フコアックが無ければ先へは進めないだろう。

 とはいえ、フコアックが通れるように岩石をどけるのには骨が折れる量である。力を合わせて岩を砕き、持ち運べる大きさにして脇に避ける、などとしていれば確実に時間がかかるのは間違いない。

 同じ時間をかけるにしても、ここにいる人々だけでどうにかするよりも、戻って休憩所の人々に助力を求めるなどした方がいいだろう。


「だいじょぶ?」


 リエティールが意見を伝えようと口を開きかけたところで、どこからともなくそんな声がかけられた。

 一体どこから?とリエティールがキョロキョロと見回すと、続けて「こっちこっち、上だよ」という声が聞こえてきた。

 上?とリエティールが岩石の山を見上げると、いつの間にかそこには一人の人物が立っていた。

 その人物は軽鎧を纏い、背には巨大な鎚を担いでいた。肩ほどまでの短めの髪と、フードのついたマントを靡かせていた。フードは顔を隠すように被っていたが、すぐ下にいるリエティールにはその中に輝く朱色の瞳が見えた。

 その人物は大きく伸びをしてから、担いでいた鎚を下ろして足元の岩石を見下ろす。


「後ろの方を歩いてたらさ、突然前の方が騒がしくなったもんで来てみたら、こりゃまた見事な落石だこと」


 一体何をするつもりなのかと見つめるリエティールに対し、その視線を合わせると唐突にウィンクをしてこう言った。


「でもまあ、私がいて良かったね。 ちょっと危ないかもだからさ、君たちは後ろに下がって離れててくんない?」


 いきなり現れたかと思えばそうして急にこの場を仕切りだした謎の人物に皆困惑を表しながらも、あまりに自信たっぷりなその態度に何か策でもあるのだろうかと思い、リエティールも含めて素直に後ろへと下がり始めた。

 ある程度距離が離れると、その人物は満足げに大きく頷いた。そして、


「じゃあ、いくよっ!」


という掛け声とともに、足元を軽く蹴って飛び上がる。それと同時に巨大な鎚を頭上に振り上げ、落下と同時にそれを道の向こう側の方角に、勢いよく岩石の山へと振り下ろした。直後、


ドゴオオオオォォォォォンッッ!!!


という、先程の岩が落ちた轟音とは比べ物にならない程の、まるで何かが爆発したような爆音が鳴り響いた。

 激しい砂埃が舞い上がり、思わず目を閉じて顔を腕で覆う。人々の咳込む声があちこちから聞こえる中、リエティールはそっと目を開いて前方を見た。

 少しずつ砂埃が収まる向こう側に、うっすらと人影見える。その人物はやり切ったというように鎚に体重を預け腰に手を当てている。

 そしてようやく細かい部分まで視認できるようになると、人物はリエティール達の方へ振り返って得意げに言った。


「どう?」


 そこには岩石の山はどこにもなく、代わりに細かく砕け散った石の欠片が転がっていた。

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