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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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324.手がかり

 リエティールは魔操種シガムと目を合わせた。魔操種は一瞬怯えの色を浮かべたが、やはり暴れだす様子はなく、その向こうにある感情を読み取ることはできなかった。

 そんな魔操種に向けて、リエティールは一度深呼吸をしてから、一つの可能性を考えて念話を送った。


『あなたは何者? ササという女の子のことを知っている?』


 魔操種と人間ナムフが念話を行ったという記録は本の中にも可能性すら書かれていなかった。魔操種は本能によって生き、例え知性を持っていたとしても理性が勝つことはないためであった。理性がない相手に会話を試みることは明らかに無駄であり、例え魔操種に欠片の理性があったとして、攻撃対象である人間に対してわざわざ大量の魔力を消費して言葉をかける意味はないだろう。

 だが、リエティールはこの魔操種の中に理性があるように感じた。強力な魔操種の本能と拮抗するほどの強い理性である。

 ドライグで聞いた通り、知性のある魔操種が自らの身を守る為に逃げ出すことはあるだろう。しかし、先程実際に逃げようとするさまを見て、魔操種はそうした打算的な考えに基づいているようには見えず、寧ろ傷つけることを恐れているように思えたのである。

 今こうして拘束されている間も、普通の魔操種であれば悪あがきはするだろう。しかし、この魔操種はそうしたことは一切せず、リエティールの顔色をうかがうような視線を向けているだけであった。

 故に、リエティールは会話ができるのではないかと考えたのだ。

 念話を送られた魔操種は、驚いたようにその目を大きく見開いたが、直後激しい痛みを訴えるように顔を顰め唸り声をあげ始めた。


『……ァ……ワ、タ……ハ……』


 苦悶の表情を浮かべながら、掠れた念話がリエティールに返ってきた。今にも押しつぶされて消えてしまいそうな、人とも獣ともつかないような声であった。

 リエティールは念話が返ってきたことに対して喜ぶよりも、一つでも多くの言葉を聞き取る為に必死で集中した。


『モ、ゥ……ド……ナィ……』


 聞き取ることができたのはそれだけで、そこで念話はプツリと途絶えた。念話に使用できるだけの魔力がなくなったのだろう。

 言葉らしい言葉を聞き取ることもできず、もう手掛かりはないのかと落胆を感じたリエティールであったが、魔操種が右腕を動かそうと力を入れていることに気が付いた。しかも、無いはずの魔力が続々とそこに集まり始めていることも感じられた。

 その状況に、リエティールは魔操種が限界を超えた魔力を使用しているということに気が付いた。

 本来使用できる以上の魔力を無理に使えば、肉体が壊れて死んでしまう。それにもかかわらず、魔操種は苦しみ悶えながらも必死に腕を持ち上げようとしている。本来は意識してもこういった行動はとれない。となれば、これは無意識のうちに取っている本能的な行動の可能性が高い。

 どうするべきか、リエティールは迷い考えた末に、右腕の拘束を解くことに決めた。

 こうして油断させて襲ってくる、という可能性もないわけではなかったが、魔操種の様子を見てその可能性は低いと判断した。万一爪で攻撃を加えようとしてきても、他の手足は動かないため、距離を取れば十分安全だということもあった。

 そして何より、念話を返してきたことからも、魔操種が何かを伝えようとしていることは明らかであり、それが有益な情報であると確信をしていた。

 拘束を解かれると、魔操種は右腕をゆっくりと持ち上げた。そして、その指先で木の根元を指さした。そこは先ほどまで魔操種が身を潜めていた木の洞がある場所であった。


「あそこに、何かがある?」


 リエティールがそう呟くと、魔操種はその言葉を理解しているように頷いた。その瞬間、腕は糸が切れたように力なく落ち、魔操種は動かなくなった。気が付けは、体表はあちこちが爛れたようにボロボロの状態になっていた。


「あ……」


 突然訪れたその瞬間に、リエティールは思わず声を漏らした。そんな彼女の横を通り抜け、今まで様子を見ることに徹底していたロエトが魔操種に近づき、鼻先を近づけて状態を調べた。


『……事切れているな』


 状況で察していたとはいえ、改めてそう言われたことで、リエティールの顔に悲しみが浮かんだ。かつての氷竜エキ・ノガードの死と重なったという事もある。だがそれだけではなく、自分を襲ってきた魔操種に違いはないが、確かに理性があった。もしかすれば、わかりあえた存在かもしれない。そうした思いもあった。

 そう思うと、魔操種であってもその死を悲しまずにはいられなかった。

 しかし、こうしていても仕方がないと、リエティールは首を振って気を取り直し、魔操種が最後に示した木の洞の中を調べてみることにした。


 洞の中は外見より広かったが、リエティールが屈んで何とか動き回れる程度であり、薄暗かった。そのためロエトは入口の外を見張りつつ、小さな明かりを生み出して洞の中を照らすことにした。

 ぼんやりと照らされた洞の中で、リエティールは外から持ち込まれたのであろう石を見つけた。そこそこの大きさがあるその石は上部が比較的平らになっており、下部は土でしっかりと固めて固定され、意図的にその形に置かれているようであった。

 それが怪しいと踏み、リエティールが近くをよく調べてみると、その陰に明らかにここにあるには違和感のある物体を見つけた。

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