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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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323.奇妙な魔操種

 ラエビィラクスが現れた方向へ向かうと、一本の巨大な木が姿を現した。幹は太く根元には草が生い茂っているが、一部に焦げた跡のようなものが見える。

 リエティールがそこが怪しいと踏み、もう一度簡単な探知を行う。すると読み通り、その木の根元の辺りに一つの魔操種シガムの反応を捉えた。先ほどのラエビィラクスと似たような気配をしており、どうやらその場でじっと身を潜めている様子であった。


「行ってみよう」


「フル」


 小さな声でお互いに声をかけ、頷きあってから静かに接近を開始する。草が生い茂っているためかなり気を付けなければ不自然な物音を立ててしまう危険があり、動くにはかなりの神経を使うこととなった。

 時折吹く風によるざわめきに合わせつつ、順調に木へ接近すると、その根元には大きな洞があり、気配はその中にあるということが分かった。

 その魔操種が果たして探している噂の魔操種であるのかどうか、その姿を確認するために草むらの中からそっと覗き込もうと動いた時。


 パキッ。


「あっ……」


 一瞬の集中力の途切れにより、リエティールは足元に落ちていた木の枝を踏んでしまった。そして思わず声を漏らし、更にまずいと血の気が引ける思いをした。

 額に冷や汗を浮かべ、ぎこちなく顔を上げると、そこには洞の中からこちらを見ている魔操種の姿があった。

 全身を鱗に覆われた獣、ラエビィラクスであることは一目で分かったが、その頭部に髪のような毛が生えているのが目に入り、リエティールは半ばパニック状態の思考の中でも、それが探していた魔操種であると瞬時に理解した。


「……グ、オォォッッ!!!」


 リエティールと目が合ってから数秒の後、魔操種は雄叫びを上げて洞の中から飛び出してきた。


「ホロロッ!」


 咄嗟に、ロエトは魔操種の足元に風を放って足止めをし、その隙にリエティールを半ば強引に自らの背に乗せて間合いを取った。


「っ! ロエト、ありがとう」


 慌てて姿勢を正し、槍を構えて魔操種と向き合う。落ち着いて正面から観察すると、やはり先ほど見た通常のラエビィラクスとの違いがよくわかる。

 頭部から生える黒い毛は髪のようで、体型は噂に聞いた通り細身、というよりも小柄であるように思えた。筋骨逞しい獣の肉体というよりも、人間の若者の体に筋肉が付いたような、そんな体型である。

 手には鋭い爪を持ち、牙を剥いて威嚇しているその様は紛れもなく魔操種であるが、リエティールはエルトネの男が言っていたように、どこか人間ナムフのような雰囲気を持っているその魔操種に、どこかやりづらさを感じていた。


『リー、どうする? ここで仕留めるのか?』


 一方のロエトは、襲い掛かってきた時点でそれを完全に敵とみなし臨戦態勢に入っており、リエティールに戦闘指示を仰いできた。

 ロエトの言葉に迷いを断ち、今はとにかく戦わなければならないと自分に言い聞かせて気持ちを切り替え、返事をする。


「噂通りなら、攻撃したら逃げようとするはず。 何か手掛かりを持っているかもしれないし、逃がさないように動きを止めよう」


『わかった』


 リエティールの言葉に頷き、ロエトは激しい風を起こして魔操種を包み込むように取り囲んだ。


「グ、オォ……!」


 魔操種は風に包まれ、身を守るように両腕で頭を抱えるが、その直後に様子が変わり、辺りの様子を窺うように視線をあちこちに向け始めた。どうやら隙を探して逃げようとしている様子であった。


「はぁっ!」


 逃がすまいと、リエティールはロエトの風に乗せて氷雪を送り込む。細かな氷の粒を巻き込んだ風は魔操種を中心とした局地的な吹雪のようになり、やがて収縮して傷を与えながら魔操種の体に張り付いた。


「グゥ、ゥオオッ……」


 張り付いた氷雪により体の一部が凍り付き、魔操種は動きづらそうにしつつも、リエティール達に攻撃しようとはせず山奥へと顔を向けて走り去ろうとした。

 しかし、動きの鈍った状態で逃げられるはずもなく、ロエトはすぐさま正面に回り込み風の刃を叩きつける。


「ガアァッ!!」


 それを胸部にまともに受け、魔操種は仰向けに倒れる。すぐさまリエティールがその手足を氷づけて地面に磔の状態にする。

 流石に身の危険を感じたのか、魔操種の爪と牙が赤く発熱する。そして爪の周囲から徐々に氷が溶け始める。


「グガァッ!!」


 吠え声と共にその口から火球が飛び出し、リエティール目掛けて襲い掛かった。それに対してリエティールは咄嗟に氷の盾を作り出し受け止める。いくら炎が氷に強かろうと、魔力量に歴然の差がある両者では、リエティールの氷を魔操種の炎が通り抜けることはできず、小さな音をたててむなしく蒸発してしまった。

 拘束する氷を溶かそうとしていた爪の方も、リエティールが改めて魔力を込めると溶かすことができなくなり、魔操種は完全に動きを封じ込められた状態になった。

 普通の魔操種であれば、それでもなお攻撃の試みを諦めることはなかっただろう。しかし、この魔操種は苦し気に顔を歪め、唸り声を上げつつもリエティール達の方を見ているだけで、暴れだすことはしなかった。


(やっぱり、何か変……)


 リエティールはそう思いながら、動きを封じた魔操種の傍へと近づいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しく読ませてもらっています。 とてもとても面白いです。 個々のキャラクターもすごく素敵だと思います でも、キャラクターが覚えられなくなってきてしまったので、人物紹介を作ってくださ…
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