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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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316.ウチカ

 追い風に乗り、リエティール達は順調に山を越えていった。一寸先も見えないような霧の中で、リエティールとロエトは互いに見えなくならないような距離を保つように気を付けながら横並びに飛んでいた。

 単純に視界が悪いためか、道中は魔操種シガム等に襲われるようなこともなく順調に降下地点へと到着した。

 地上に降りると、地肌が見えておりうっすらとではあるが轍があることを確認できた。どうやらウチカへ続く街道の上に降りたようだ。

 道を間違えずに来られたことへ安堵しつつ、歩き出す前にロエトはディルブの姿に、リエティールは変化ロマテムの魔法を使い姿を変えようとした。


「……うっ」


 その変化の途中、リエティールは苦し気に小さな呻き声を漏らした。


『リー? 大丈夫か?』


 いきなりのことに、ロエトは心配そうにその顔を覗き込んだ。リエティールは戸惑いを顔に浮かべつつも、大丈夫と頷いた。

 いきなり体を襲った苦しみにリエティール自身も驚いていたが、その原因にはすぐに思い当っていた。

 この苦しみの原因は、制限の解放によって扱うことのできる魔力が増えたことによるものであった。

 制限の解放によって、体内で一度に生産される魔力の量が跳ね上がり、それに伴い魔力をため込む器官の容量も押し広げられる。古種トネイクナともなれば、一段階の解放であってもその増加量は凄まじい。

 海竜リム・ノガードの解放の際はまだ問題がなかったが、今回の解放によって増加した総量は、変化で人間の体に押し込めるには無理があるものであった。小さな鞄に大量の荷物を詰め込むようなものである。リエティールを襲った苦しみはそれによるものであった。

 だが、一度押し込めて蓋をしてしまえばある程度は落ち着く。リエティールも息を整え、体が問題なく動くことを確かめる。未だ心配そうな表情をしているロエトに、リエティールはにっこりと微笑んで「行こう」と言った。


 地上に降りてからも霧はすぐには晴れなかった。それはつまり天竜イクス・ノガードがリエティールの動きを追跡していないということの証拠でもあり、リエティールの中には安堵もあった。

 道を外れないように慎重に歩いていると、やがて徐々に霧が晴れ始め、その向こうに門のような影を見つけた。

 それが入口だと理解したリエティールは、安心して歩を速めた。そして到着、というタイミングで、目前に鋭い刃が突き出された。


「何者だ!」


 その激しい声の持ち主は門番であった。すぐに霧が流れて薄くなると、門番もリエティールの顔を見て人間の少女であると気が付き、険しい顔を元に戻した。


「いきなり失礼した……何分霧が濃いもので、その中から急に人影が現れたもので驚いてしまった」


 確かに先ほどまでは動くのも躊躇われるような霧が出ていたので、普通であれば動くのを止めて霧が晴れるのを待つだろう。そんな中から何かが近づいてきたのであれば、門番の反応も無理はない。

 リエティールは気にしていないと首を横に振りつつ、エルトネであることを示すカードを門番に見せた。そこに霊獣使い(ロノアルト)と書かれているのを見てリエティールの後ろにいるロエトの存在に漸く気が付き、再び驚いたように目を丸くしていたが、特に何かを言うこともなく通行の許可が下りた。


「ウチカへようこそ」


 門番の声に迎えられ、リエティールはウチカへの門をくぐった。

 ウチカの町並みはそれまでの国とはまるで違っていた。石材やレンガではなく、木材と土を基本の材料として組み立てられた家は素朴で、自然の中に溶け込むような色合いであった。そして先ほどの門番の鎧もそうであったが、道行く人々の服装も独特で、今まで見てきたどれとも違っていた。

 そんな異国の景色に見惚れながらも、リエティールは先ほどの門番の様子に少しの違和感を覚えていた。

 驚くのは当然であり、それは理解していたが、先程の門番の様子はどこか「警戒」というよりも「怯え」があるように見えたのである。勿論未知の存在がやってきたことに恐怖を抱くのは自然なことであるのだが、リエティールが感じたのはそうした恐怖ではなく、「知っている恐ろしい何か」を待ち構えているような、そんな感覚であった。


(でも、そんな気にすることじゃないか)


 もしかしたら盗賊か何かが来たことがあるのかも、と考えて、リエティールはそれ以上考えるのはやめて初めての地を楽しむことに集中することにした。


「まずは宿を探そっか。 ロエトはオルのこと知らないよね? そのお店も探そう」


「フルッ!」


 リエティールの言葉にロエトは興味津々といった様子で嬉しそうに返事をし、二人は町の中へと繰り出していった。

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