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氷竜の娘  作者: 春風ハル
313/570

312.二度目の解放

 リエティールがはっと目を覚ますと、目の前には夕日を背に鮮やかな朱色に染まった天竜イクス・ノガードの姿があった。そして、抱きしめていたロエトは眠る前と同じ体制のまま、すっかり回復した姿でリエティールに優しい眼差しを向けていた。


『漸くお目覚めね。 よく眠れたかしら?』


 微笑みながらそう言う天竜に、リエティールは慌てて姿勢を正して恥ずかし気に顔を俯けながら「うん……」と頷いて答えた。そんな彼女の様子に、天竜は面白そうにクスリと笑う。


『ぐっすり眠れたのは頑張った証拠よ。 恥ずかしがることないわ』


 そう言って天竜は、翼を伸ばしてリエティールの頭をそっと撫でた。リエティールはまだ恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうに目を細めながらそれを静かに受け入れた。


『眠っている間にロエトから話を聞いてたの。 あの短い間に、貴方は自分たちにできることを瞬時に判断して、私の考えを上回って見せた。

 貴方はとっても賢いわ』


 天竜がそう言うと、傍らのロエトはどこか誇らしげにリエティールを見ていた。

 一方、その話を聞いたリエティールは急に何かを思い出したように目を大きく開くと、すぐにロエトの方を向いて申し訳なさそうに眉根を下げてこう言った。


「ごめんなさい。 他に思いつかなかったといっても、あなたを囮にするような、あんな危険なことをさせてしまって……痛かったでしょ?」


 天竜の背後を取るために、天竜の意識をギリギリまでロエトに引き付けた結果、リエティールは天竜の背後からロエトの半身が消し飛ぶ瞬間を見ていた。その瞬間、耐えがたい苦しさを感じたリエティールであったが、折角ロエトが作ってくれた絶好のチャンスを逃すわけにはいかないと、なんとか声を上げずに耐えたのであった。

 今回は天竜の禁足地オバトという、イクス属性の魔力に溢れた場所で戦っていたため回復が早かったが、もし他の、特に風の魔力が少ないような場所で同様の傷を負っていれば、ロエトはかなりの長期間に渡って苦しみ続けることになっていた可能性がある。

 それを思うとリエティールは自分の作戦の無謀さと、それに文句の一つも言わず黙って従ってくれたロエトに対して、申し訳なさばかりが湧いていた。

 弱弱しく顔を俯けるリエティールに、ロエトはそっと顔を寄せて優しくすり寄った。


『焦りで自暴自棄になり、一人で先走ってしまった私を正気に引き戻してくれたのは他でもない、リーだ。 今回の戦いでリーの言葉が無ければ、私はもっと早くに果てていただろう。

 私はリーの頼みであればどんなことだろうと従う覚悟がある。 だが、間違っていると思えばそれを正そうとも思っている。

 この場において、リーの判断は間違いではなかった。 そう断言しよう。 ……だから、どうか悲しまないでほしい』


 ロエトの言葉に、リエティールは顔を上げ、潤んだ瞳でロエトの顔を少しの間見つめた後、その胸元にギュッと抱き着いた。


「ありがとう……」


 涙をこらえ、汚さないようにしながらその首元に顔を埋める。ロエトはその背中をいとおしそうに見つめながら、尾を左右に振っていた。


『いい雰囲気のところ悪いんだけど、ちょっといいかしら?』


 暫しの間を開けてから、天竜が困り顔で気まずそうに声をかける。その声にリエティールは今の状況を思い出して、飛び跳ねるようにロエトから離れた後、姿勢を正して天竜に向かい合った。


「ご、ごめんなさい……」


 縮こまるリエティールに天竜は苦笑をしてから、


『いいのよ、別に。 でも、早いところ制限の解放をしてあげた方がいいかなと思って』


と言った。制限の解放は、ここへ来た目的そのものである。忘れるわけにはいかない。

 リエティールは真剣な顔つきになり、天竜の顔を見つめた。


「……お願いします」


 リエティールの言葉に天竜は頷くと、目を閉じてゆっくりと深呼吸をした後、真っ直ぐに見つめ合って言葉を紡ぎ始めた。


『天竜、タミルクの名において、リエティールを、新たなる氷竜として、ここに認める』


「っ!!」


 その言葉を聞き終えた瞬間、海竜リム・ノガードの時と同様に体の奥底から熱いものがこみ上げる感覚に襲われる。

 その激しい魔力の奔流に負けないように、リエティールは体を抱いてその場で耐え忍ぶ。

 湧き起こった熱は全身をめぐりながら、主に背中に集まっていった。


「ぐうぅっ……」


 その熱さは焼けるようなものを通り越して感覚を奪い、リエティールは激しくなる動悸に周囲の音も聞こえなくなりながら必死に耐える。息苦しい中、溢れ出す強大な魔力に飲み込まれないように意識だけは必死に保ち続ける。

 熱く滾る魔力は彼女の背から解放されるように大きく広がっていき、激しく光りながらその形を作っていく。やがて、光が弱まって収まるのと同時に、全身を襲う激しい熱も引いていき、彼女の変化は止まった。

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