311.眩む閃光
太陽の光のまぶしさに、天竜は一瞬視界を奪われて怯んだ。だがすぐに上空を睨みつけると、
『舐めないで! 私は空を司るのよっ!』
と感情に任せて叫ぶ。するとどこからともなく湿った風が吹き始めると、見る見るうちに空を黒い雲が覆いつくしていき、すぐに太陽が隠されてしまった。それと同時に、天竜の体も雲と同じく鈍色に変化していった。
「まだまだいくよ……っ!」
逆光がなくなりロエトの姿を視認した天竜が再上昇を始めると、ロエトの背にいるリエティールがそう口にする。その言葉と同時に、今度は上空に無数の氷の礫が出現し、それがまるで巨大な雹のように降り注ぎ始めた。
一つ一つの威力はそこまで高くはならないものの、流石にこれは避けきれないだろう数の氷が天竜目掛けて落下をしていくが、それらが到達するよりも早く天竜が動いた。
天竜の鋭い鳴き声が響き渡ると、上空の暗雲が更に色を濃くし、そこから重々しい轟が鳴る。その直後、空気を引きちぎるかのような激しい雷鳴と共に数えきれないほどの落雷が発生し、細いそれらは無数の氷を一人残らず貫き、一つ極めて太いものがリエティール達の元へと落ちたのだ。
『……防いだの、やるわね』
「はあっ……はあっ……」
どうなったかと上を見上げる天竜の先には、上空に手を向けて息を荒げるリエティールがいた。雲間を走る雷の音を聞いたリエティールは、頭上から攻撃がくることを瞬時に悟り、咄嗟に氷の盾を頭上に作ったのである。氷の盾は砕け散り破片となって零れ落ちたが、雷を逸らすことには成功していた。
だが、恐ろしい轟音に耳がダメージを受け、ロエト共々苦し気にしていた。
『もう、一気に行くわっ!』
今こそが攻め時と、天竜はそう宣言して今度こそ上昇を再開する。その身には鋭い風と雷を纏い、さながら巨大なランスのような状態になってロエト目掛けて飛び上がる。
主属性ではない雷属性の大技を放った天竜も、余裕ではありながらどこか焦りを感じていたのだろう。その目はロエトだけを見ており、形振り構わないといった様子で、今までのどの攻撃よりも素早かった。
頭の中の痺れに頭を垂れていたロエトであったが、まさに天竜が自らを貫く目前に、
「ホロロロッ!!」
と高らかに鳴くと、その体を瞬間的に光らせた。以前植物の魔操種、アイゼルファに使ったものと同じ目眩ましである。
その光に、天竜は反射的に目を閉じてしまうが、すぐに開いてキッと睨みつける。
『その程度で止まると思ったら……!』
目は閉じたが天竜のスピードは一切衰えることなく、直後、鋭利な風はロエトの体を貫き、大ダメージを受けたロエトは叫び声をあげる隙もなくその半身を消し飛ばされた。
見事に攻撃が決まり勝利を感じた天竜であったが、直ぐに違和感に気が付く。
『リエティール……!?』
ロエトの背にいるはずのリエティールはなぜかどこにもおらず、困惑しつつもすぐに気配を探る。
そして気配を察知したのと同時に、自らの背に重さを感じて驚きに目を見開いた。天竜が背後を振り向くよりも先に、巨大な氷の楔が二つ、その翼を貫き、
「墜ちてっ!」
と言うリエティールの声と同時に、天竜の体は高速で地面へ向かって落下し叩きつけられた。
舞い上がる土埃の中心には、翼を氷で貫かれ、地面に磔にされた状態の天竜と、その背に乗って槍を首筋に突き付けているリエティールがいた。
『……私の負けね』
動けない天竜がため息交じりにそう言うと、リエティールは突き付けていた槍を離してほっと息を吐くと、すぐに天竜から降り、氷も消した。
「はあ、はあ……えっと、大丈夫……?」
天竜の正面に跪きながら、自分の疲労よりも優先してそう心配するリエティールに、天竜は呆れたような笑みを見せる。
『勝ったんだから、もっと素直に喜べばいいのに……。
これくらい平気よ。 ちょっと大人しくしておけばすぐに治るわ』
天竜は起き上がり、翼の様子を確かめるように動かす。氷が貫いたのは主に羽根だけの部分であり、怪我自体はほんのかすり傷程度のものだったようで、天竜の言葉通り大した傷ではなさそうであった。
それを見て大怪我になっていないことに安堵するリエティールに対して、天竜は先ほどの戦いについて尋ねた。
『それにしてもさっきのは……あの光で目眩ましをした瞬間に私の背後に飛んだのね?』
ロエトの目眩ましは天竜を怯ませるためのものではなく、正しく指摘された通り、リエティールが動く隙を作るためのものであった。
天竜の接近を見越して、リエティールは事前にロエトに作戦を指示していた。あの僅かな瞬間に、リエティールは自らに時空魔法をかけて動きを加速させ一瞬でロエトから前方、天竜の背後に向かって飛び出した。そして行き過ぎる前に氷で足場を作り動きを反転させ、天竜の背に飛び乗ったのだ。その後の氷の楔も、落下速度を加速させていた。
「うん……そうだ、ロエトっ! ロエト、どこ!?」
自分の勝利に多大なる貢献をしたロエトの、姿を消す直前の行動を思い出したリエティールは、血相を変えて周囲を見回す。
「フルル」
慌てる彼女の目の前に、優しく鳴きながらロエトは上空から舞い降りた。その体は半分ほど透けていたが、攻撃を受けた直後の状態からすると、すでに幾分かは回復しているようであった。
「ロエト! よかった……」
涙目で駆け寄り、ロエトに抱き着くリエティールに向かって、天竜は優しい笑みを向ける。
『言ったでしょ。 風の魔力は豊富にあるから大丈夫だって。
……貴方も、ロエトと一緒に暫く休んでいた方がよさそうね』
魔力を大量に消費したことと、緊張の糸が切れたことが重なり、リエティールはロエトに抱き着いたまますやすやと寝息を立てていた。




