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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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309.熱狂する旋風

 天竜イクス・ノガードは再び風の刃を放つ。高揚感に影響されているためだろうか、それは先ほどよりも強力な魔力が込められており、数も威力も増していた。

 先程までであれば焦りで全てを対処できるかわからなかっただろう。しかし本調子に戻ったロエトは戸惑うことなく、冷静に全ての風の刃へ対処をしていく。その際もただ無暗に対抗する風を放つだけではなく、どれくらいの魔力で打ち消すことができるか、どの角度から当てるのが一番有効かを探ることができる程度には、精神的に安定していた。

 ロエトが移動と防御に徹している一方で、リエティールは果敢に攻撃を試みていた。最初に試みた鏃の攻撃も交えながら、より重く大きな一撃を繰り出したり、反対により細かくした氷の礫を使い手数で攻めたりと、様々な方法で天竜にアタックを繰り返していた。

 そうした状態の中で、天竜は風の刃を放ちながらリエティールの攻撃にも全て対処していた。その顔には笑みが浮かんでいたが、それは余裕ぶったものではなく、戦いを楽しんでいる笑みであった。

 だが、リエティールはそれでは駄目だと考えていた。ロエトと力を合わせて漸く天竜が想定していた実力と見合うレベルでは、天竜が戦いを楽しんでもリエティールが十分な実力を持っていると認めてはもらえないだろうと思ったのだ。


(何か考えなきゃ……何か、意表をつけるような……)


 自らにできる攻撃手段を次々に試しつつ、必死に思考を巡らせる。そんなさ中であった。


『守ってばかりもつまらないし……ちょっと攻めさせてもらおうかなっ!』


 ここまでずっと中距離を維持してきていた天竜は、そう言い放つと同時に加速し、一気にリエティール達のもとへと距離を詰めてきたのだ。

 急激な変化に驚愕しつつもロエトは後退するが、流石に天竜の速度には敵わない。

 天竜はリエティールの目前、至近距離で風を放つ。それは爪撃のように鋭く叩きつけるような一撃で、リエティールは咄嗟に氷の盾を作り出したが、強度が足りずに砕け散り、打ち消しきれなかった攻撃をその身に受けた。


「っぅ!」


 反射的に前に出した左腕には、コート越しに強い衝撃が伝わり、鱗で覆われていない部分の頬には一本の赤い線が走った。

 怯みそうになりつつも、右手に握った槍を反撃に突き出す。同時にロエトも後退から反転し、天竜に向かって風を纏い突進した。

 結果として、槍は天竜に到達し左胸の上部に切り傷を付け、ロエトの暴風は天竜を突き飛ばした。しかし、大きなダメージとなるようなものではなく、お互いに同程度のダメージを受けた、という結果となった。


『ふふ、やっぱりこれくらい激しい戦いの方が私好みだわ! 少しくらい危険に自ら突っ込む方が燃えるってやつよね!

 さあ、どんどんいくわよ!』


 興奮気味にそう宣言し、天竜は再び急接近をする。リエティールは先ほどの攻撃を踏まえ、より強力な氷の盾を構えて迎え撃った。

 先程攻撃を放った距離に到達する目前、天竜は攻撃を放たずその身を反転させた。一瞬呆気にとられたリエティールであったが、すぐさま今回の攻撃が違うものであると気が付き、緩んだ気を引き締める。


「踏ん張って!」


 ロエトに向けてそう言った直後、天竜の巨大な尾がリエティールに叩きつけられる。同時に強力な風圧が襲い掛かるが、ロエトはリエティールの言葉に従い、その場から動かないように全力で抵抗する。


「やあぁっ!!」


 尾が氷の盾と衝突し、ほんの僅かに勢いが殺された瞬間に、リエティールは自ら盾を壊し、そこへ目掛けて槍を突き出した。

 頑丈な鱗に覆われている尾だが、殺しきれていない勢いのまま槍の穂先に触れたことで通常想定されるよりも深く突き刺さる。そのまま振りぬかれた尾には、はっきりとした切り傷が残され、軌跡から血が舞った。


『っ! 初めての技にいきなりカウンターで返すなんて、凄いことするわね……! 今のは効いたわ!』


 痛みに顔を顰めながらも、益々面白いというように天竜は称賛を口にする。


『甘く見すぎたかしら……? 油断したつもりはないんだけど、なら、もっと張り切ってもいいってことよね!』


 そう言うと、天竜は周囲を取り囲む程の巨大な竜巻を生み出した。激しく渦巻く風を打ち消すには集中力と技量が試される。更にその大きさも、大きければ大きいほど対抗するのは難しい。

 今目の前に現れたそれは禁足地オバトの地表から、天竜とリエティール達がいる更に上空まで到達するサイズであり、そう簡単に消せるものではないと一目で分かるものであった。また、見上げても先が見えず、抜け出すことが容易ではないことも想像できた。

 更に、砂が巻き上がり視界を悪くする。ロエトは砂を防ぐために自らとリエティールを覆う風を作る方を優先し、竜巻に対抗することは諦めて戦う方がいいと判断した。

 砂で霞む視界の中で、リエティールは目を凝らして天竜を見る。天竜も同じように自身の周りを風で覆っているようであり、霞んでいれど姿を捉えることはできた。


『これで逃げ場はなし! ふふっ! 私ってば、過酷になればなるほど燃えちゃうみたい!

 さあ、まだまだこれからよ! 全力で来なさい!』


 翼を大きく広げ呼びかける天竜の言葉に、リエティールとロエトも同様な高揚感を覚えた熱い瞳で応える。


「言われなくても!」


 釣られるように言い返し、リエティールは力強く槍を握り締める。そんな彼女の体からひんやりとした魔力が漏れ出ているのを、ロエトは熱い背中で感じ取っていた。

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