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氷竜の娘  作者: 春風ハル
309/570

308.本調子

 天竜イクス・ノガードとロエトは何度も衝突を繰り返していたが、誰の目から見てもロエトが圧倒的に不利であることは明らかであった。

 油断をすることなく冷静に動きを見るようになった天竜は、先程のように隙を見せることもなく余裕をもって攻撃を防いでいる。それに対してロエトは一撃を防ぐので精いっぱいであり、防ぎきれずに余波を受けている場面もある。

 そもそも、イクス属性を司る存在である天竜と、一介の霊獣種ロノであるロエトとでは能力に歴然の差がある。仮に相性があったとしても同属性同士であればそうした差も生まれない。例え手加減をしていたとしても、単純な力比べでロエトに勝ち目はなかった。

 その差を覆せる要素があるとすれば、それは相手の思考を上回る策や手段を思いつけるかどうかであろう。

 しかしその点についても、目に見えて焦っているロエトでは思考が追いつかずにいた。攻撃をまともに食らわないように努力することや、ダメージを与えることのできない焦りから、ロエトにはもはや考える余裕は微塵も残ってはいなかった。


『私……こんなことしたかったわけじゃないのよ』


 怒りとも呆れともとれる、つまらなさそうな冷ややかな目でロエトを見てそうこぼす天竜。そして、もう飽きたというように投げやりな動きで翼を大きく羽ばたかせると、そこから放たれた風がつむじ風のようにロエトの周囲を取り囲んだ。


「フルル……!?」


 突然動きを封じられ混乱状態に陥るロエトに、天竜は一つため息をつく。続けてその両翼の前に雷の塊のようなものが生み出される。


『貴方とはおしまい。 私が戦いたいのは……』


 言葉と共に、今にも雷撃が放たれそうになった瞬間であった。


「私っ!!」


 鋭い声と共に、天竜の腹部目掛けて槍が突き出される。穂先は浅いながらも見ごとに刺さり、天竜は言葉と動きを止め、驚きに目を見開いてその主を見た。

 暴走したロエトの行動に、リエティールは暫し呆然としていた。だが、このままではロエトが危険だと不意に我に返ると、体がまともに動くようになったことを確認し、意識が逸れている今がチャンスとばかりに天竜目掛けて飛び上がり、槍の一撃を繰り出したのである。

 勿論、幾ら脚力が普通よりも強化されているとはいえ、ただ跳躍しただけでは到底届かない高さである。氷で足場を作り駆け上がるように飛んだ上、更に槍の穂先も延長するように氷の刃を作り出していた。

 天竜の切り替えがもう少しでも早ければ、今回の攻撃は上手くいかなかったであろう。無謀であったことは違いないが、ロエトが持ちこたえてくれていたおかげで通ったとも言えるだろう。


『判断が遅かったみたいね……!』


 距離を取りつつ悔し気にそう言う天竜であったが、その表情は先ほどまでのつまらなさそうなものではなく、待っていたとばかりに不敵な笑みを作っていた。

 天竜を警戒しつつ、リエティールは叫ぶ。


「ロエト! 早く来て!」


 リエティールに名前を呼ばれたことで漸く落ち着きを取り戻したロエトは、自分の状況を理解する。そして取り囲んでいるつむじ風とは逆回転の風を自分の周囲に生み出す。そうすることで風の速度が打ち消しあって弱まり、ロエトは突っ切ってリエティールのもとへと一直線に飛んだ。

 飛んできたロエトの背に乗り、リエティールは天竜と再び対峙する。


「ロエト」


 ロエトの背に向かって、リエティールは真剣に、諭すような声で語りかける。


「貴方が私のために強くなりたいって、必死に頑張ってることは分かってる。 全部私のためを思ってのことだって、理解してるつもり。

 でも、一人で勝手に行かないで。 これは私の戦いなの、私が戦わなくちゃダメなの。

 だから……一緒にいて。 貴方の力を私に貸して」


『……ああ、勿論!』


 ロエトは力強く頷く。そして、迷いの消えた瞳で天竜を正面から見る。リエティールもまた、すっきりとした表情で頷き返すと、天竜に対して鋭い目を向けた。

 そんな二人に対して、天竜は満足げに微笑む。


『漸く本領発揮って感じかしら? いいわね、貴方たちの力、見せて頂戴!』


 そう言って、再び雷が出現する。


「さっきはダメだった……けど、もう失敗しない!」


 雷撃が放たれると同時に、それを迎え撃つように氷の塊が生み出される。衝突と同時に氷は砕け散り、太陽に光を受けてキラキラと輝く。

 続いて、今度は雷ではなく風の刃が放たれる。


「ホロロッ!」


 先ほどは避けていたその攻撃を、ロエトは同じく風を放って迎撃する。単純な威力ではロエトが押し負けるものの、風同士がぶつかり合うことでその鋭さは失われ、少し強い風が届くのみであった。無理に避けて動きを変えられるよりも、こうして受け切った方が自由に動けると判断したのだ。


「いいよロエト! 雷は私、風は貴方が!」


「フルルゥッ!」


 同意するように高らかに鳴くロエトは、先ほどまでかなり押されていたにもかかわらず快活な動きで空を駆ける。心持の問題もあったが、潤沢に風の魔力が満ちている状況故に回復速度も上がっているのだろう。

 二人の様子を見て、天竜も興奮を抑えきれないといった様子で朗々と雄叫びを上げた。

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