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氷竜の娘  作者: 春風ハル
304/570

303.頂で待つ者

 徐々に暗くなる空に焦りを覚えながら、リエティールとロエトは天竜イクス・ノガード禁足地オバトへの登り方を考え続けていた。

 飛ぶこともよじ登ることもできないとなると、上から引き上げるくらいしか方法が浮かばないものであるが、そもそもそうするために上に登らなければならないために不可能であった。


『風さえなければ飛べるのだが……』


 ロエトが悔し気に唸りながらそう呟く。折角リエティールを乗せて飛べるように訓練をしたというのに、ここで立ち往生してしまっては意味がない。


「風がなければ……」


 ロエトの言葉を繰り返し呟いて、腕組みをしながら見上げる。そして、


「そうだ!」


と声を上げると、思いついたことをロエトに相談した。


「風を防げれば飛べるよね?」


『ん? うむ……』


 突然尋ねられて戸惑いつつも答えるロエトの言葉を聞いて、リエティールは自分の考えを説明する。


「なら、壁を作ればいいんだよ! 私が氷で壁を作って、ロエトがその中を私を乗せて飛ぶの!」


 その内容にロエトは成程と納得を示す。リエティールは早速ロエトと自分を囲むように筒状の氷の壁を作り出す。そしてロエトが姿を変えて、その背にリエティールが跨ると、少しずつ上昇するように頼む。

 高度の上昇に合わせて取り囲む氷も伸びていき、塔のような形状になる。先を見るために上部には氷を作っていないため、吹き降ろす風は防げないが、それだけであればロエトの力で対抗することができる。

 この方法ならば上まで飛ぶことができるだろうと予感していたリエティールであったが、途中から急激に負担が増え、それが難しいことを理解する。

 原因は高度が上がるにつれ、氷が受ける風の影響も増加していることであった。リエティールはできる限り強度を高く保つようにしているが、移動しながら次々に氷を生み出していく関係上、完璧に頑丈な氷を作るのは難しい。それ故に上へと伸びるたび塔がしなり、抵抗してもしきれない影響が出てくる。

 壊れこそしないものの、このまま続けて行けばリエティールの負担が上昇し続け、ロエトもまっすぐ飛ぶことが困難になる。

 そう判断し、リエティールは一度下へ戻るように指示し、氷を消して再び頭を悩ませた。


「これじゃダメか……どうしよう」


 いい考えだと思ったのに、と残念そうに首をひねるリエティールに、今度はロエトから提案ができた。


『この山肌を利用するのはどうだろうか』


「どういうこと?」


 垂直な壁を示しながら言われた言葉にリエティールが疑問を返すと、ロエトは説明を始める。


「……つまり、さっきの氷を作るのと同じ要領で、今度は壁にくっつけてやってみればいいってこと?」


『そうだ』


 リエティールの解釈にロエトは頷いて肯定する。

 ロエトが言ったことはつまり、山肌に沿ってアーチ状のトンネルを作るように、先程と同じように氷の壁を作る、というものであった。

 この激しい風の中にあって微動だにしない山と接着していれば、風の影響で大きく揺れる心配はないだろう。更に、一方向分氷を作るための魔力の消費が減り、その分リエティールの負担も減る。壁伝いであればロエトが飛ぶ方向に困る心配もない。


「それならできるかも! やってみよう!」


 リエティールは再びロエトの背中に乗ると、壁に近寄ってから氷を作り出す。そのままロエトの上昇に合わせて氷の壁を作り続ける。

 今度は先ほどと同じ高さまで来ても氷がしなるようなことはなかった。吹き付ける風の力も、山の方へと受け流されていくため抵抗するために余計な魔力を消費する必要もない。

 途中で足場を作って休憩を挟みつつ、リエティール達はぐんぐんと上昇を続けた。完全に日が暮れて僅かな月明かりだけが照らす闇の中でも、眠ることなく登り続け、その内雲の中に至った。

 視界が霞んでも山伝いに飛び続ければいいため、ロエトが困惑することもなく順調に進み続け、やがてリエティールは山肌が徐々に反り返り始めていることに気が付いた。


「もう少しだ!」


「ホロロッ!」


 ゴール地点が近づいてきていることに興奮を覚え、リエティールもロエトも声を上げる。ラストスパートだというように上昇速度を上げ、垂直から水平へと角度を変えていく山に沿って飛び続ける。

 そしてついに、山肌が途切れる地点へと飛び出した。


「着いた……!」


 達成感に目を輝かせながら、リエティールとロエトは自分たちの目の前に現れた山の頂上の姿を見た。

 円形に広がったその場所には、植物などはなく岩だけが存在しているが、その中央には夜空と同じ色をした巨大な存在が鎮座していた。

 その姿はまるでディルブの姿のロエトを巨大にさせたようにも見えたが、体つきや部位の形、そして何よりその圧倒的な存在感が、ただの生き物ではないということを嫌でもわからせていた。

 感動から一転、緊張感に息を呑むリエティールに対して、その存在は太陽のように明るいオレンジ色の瞳を向けてこう言った。


『ようこそ、待っていたわ』

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