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氷竜の娘  作者: 春風ハル
301/570

300.山道を行く

 小さな窓が朝日に明るくなる頃、リエティールは目を覚ました。同時にロエトも頭を上げ翼を伸ばす。


「おはよう、眠れた?」


「フルル」


 短い会話を交わしつつ、ベッドから起き上がって服を払う。狭い部屋ではあったが質は悪くなく、しっかりと睡眠をとることができた。

 荷物をまとめる必要もないため、鞄を確認して部屋を出る準備を終えたリエティールの肩にロエトが飛び乗る。

 部屋を出ると、他の部屋に泊まっていた宿泊客もちらほらと外に出始めていた。その疎らな流れに乗って階段を降り、受付で鍵を返して外に出る。

 山岳方面の町の出口に向かって歩きながら、道中に出ていた屋台でワルクの串焼きを朝食として買う。

 門の付近には、同じく山岳地帯を目指すのだろうエルトネが集まっていた。近くには大きな看板が設置されており、そこには山岳の中を歩くための地図が描かれていた。まっすぐに通り抜ける大きな街道を中心に、主な魔操種シガムの生息地や素材の採取場、それに伴う迂回ルートなど、重要な情報が分かりやすく示されている。

 その中に、リエティールは目的のルートを発見した。


 天竜イクス・ノガード禁足地オバトは、その特徴的な地形の影響により、その他の禁足地とはやや事情が異なる。

 古種トネイクナの住み家を中心として、その魔力の影響範囲が広がっている、ということはどれも同じであり、範囲も大差がない。

 だが、天竜の場合、その住み家の位置が塔のような形状をした山の上という、かなり高い位置に存在するため、地表付近はほとんど影響がない。

 便宜上地図ではその山を中心に禁足地と記されてはいるが、すぐ近くまで魔操種がやってくることも通常通りあり、魔力の影響を受けて激しく環境が変化しているということもないのだ。

 そのため、山の麓までは誰でも許可なく近づくことができる。申請が必要になるのは山に登る場合のみである。

 行けるようにはなっているものの、別段珍しい何かが存在しているというわけでもなく、稀に興味本位で近づいてみようと思う者以外には、好奇心により登頂を目指す探究者が年に数度挑戦しては諦めて帰っていくことぐらいしかない。

 そんな状態ではあるが、最低限の道は整備されており地図にも記されている。リエティールが見つけたのはそれであった。


「行こうか」


「フルッ!」


 リエティールの言葉にロエトは元気よく返事をし、二人は町を後にした。途中他の町へ続く道もあったが、そちらへは行かずにまっすぐ山を目指す。

 数度の小休憩を挟みながら歩き続けていると、初めは遠くに見えていた山々が徐々にはっきりとその姿を顕わにしてきた。ごつごつとした山々の向こうには、雲を突き抜ける山の姿も見えている。

 近づくにつれ湧き上がってくる緊張感に唾を飲み込み、リエティールは立ち止まってそれを見上げた。ロエトも同じようにまっすぐな瞳で山を見ている。ロエトにとっては後継者であるリエティールを除けば、現役の古種に会うのは初めてのことである。自分にとって至上の相手と対面し、そして戦うのだとなれば、その高鳴りは収まることを知らない。

 リエティールとロエトは不意にお互いの方へ目を向ける。そして覚悟を決めた顔で一つ頷くと、再び歩き始めた。


 山岳を通る街道はまだ朝も早い時間であるにも拘らず、行き交う人は少なくはなかった。エルトネもさることながら、商人達を乗せたフコアックもあちらへこちらへと走っている。南北で大きく環境の変わるこの大陸では、こうした商人の行き来は人々の暮らしにとっても重要な役割を果たしている。

 そんな人々を横目に見ながら、リエティールは頭の中で地図を思い出しつつ分かれ道を探す。山の中に入ると流石に高いものとはいえ、近くの山肌に遮られてその姿は隠されてしまう。故に感覚で向かうことはできない。


「そろそろあると思うんだけど……」


 暫く道を歩き続け、リエティールはそう呟いて道の脇をキョロキョロと見回し道を探す。歩いた距離を考えればそろそろあってもおかしくはないのだが、ぱっと見ただけではそれらしいものが見当たらない。


『リー、あれではないだろうか?』


 ふと、ロエトがそうリエティールに話しかけ、翼で前方の茂みの一角を示した。リエティールが小走りで近寄り確かめてみると、確かにそこには道があった。

 だが、あまりにも長い間誰も立ち入っていないのか、通り道には雑草が生え、伸びた左右の茂みで細くなり、目印の看板もボロボロになっており、かろうじて「禁足地」の文字が読めるか読めないかという状態であった。


「多分、そうだよね……?」


 想像以上のありさまに困惑をしつつも、こうなるのも無理はないだろうと自分を何とか納得させ、リエティール達は意を決してその道へと踏み入った。

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