表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷竜の娘  作者: 春風ハル
300/570

299.活気にあふれる町

 夕暮れ前に次の町へとたどり着いたリエティール達は、泊まることのできる場所を探しつつ町の内部を歩いた。

 町の規模はそこまで大きくはないが、山岳地帯を目指す、あるいは帰ってきたエルトネや、素材を仕入れるために訪れた商人、そうした他所からの来訪者をターゲットにした店など、様々な要因が集まって活気づいていた。

 ここよりもさらに山に近い場所にもいくつかの町が存在するが、それでもこれほどの人が集まっているということは、このルートが人々の往来に非常に重要なものとなっているということであろう。

 ヘテ=ウィリアップ大陸の中央を覆うように存在するこの巨大な山岳地帯は、南部と北部を綺麗に分断している。しかし、行き来をするには迂回して海を越えるかその険しい山を越えなくてはならない。

 海を越える方法は時間も手間もかかり、船も必要になる。だが、山を越える方法も劣らず危険なものである。そのため、昔の人々は安全な行き来を可能にするために山間を切り開き、フコアックのような乗り物も通ることのできる街道を作った。

 道は東西に分かれて幾つか存在するが、その中でも主要な一つがこのルートである。

 東西の丁度中央辺りに位置するこの道は一番最初に作られた道と言われ、規模が最も大きい。それに伴い来る人も多くエルトネも集まるため、安全性が最も高い。

 そういった要因があって、その道の近辺には町が集中しているのだ。リエティールが来たこの町も、山に一番近くはないにしろ、拠点とするエルトネは多い。


「あ、あそこなら泊まれるかも」


 人が多く中々空いている宿に目星をつけられておらず探し続けていたリエティールは、店先で呼び込みを行っている人を見つけ、そちらを指さしながらロエトにそう言った。ちなみに町に入る前にロエトはディルブの姿になっており、今は肩に止まっている。


「あ、こんにちは! 宿をお探しなら是非ご利用ください、一人部屋が一部屋だけ空いているんです」


 リエティールが声をかけようと近づくと、その呼び込みを行っていた店員の方から、いち早く気が付いて声をかけられた。


「えっと、この子も一緒で大丈夫ですか?」


 肩のロエトを示しながらリエティールがそう尋ねると、店員はそちらに目を向けて少しだけ首をひねると、


「ええと、うちは特にこれといった制限はかけていないので……空いている一人部屋、ちょぉっと狭いんですが……その子のサイズなら大丈夫だと思います」


 リエティールの肩に止まれるサイズのロエトを見て首をかしげる程なのか、と若干の不安を抱きながらも、泊まれるに越したことはないだろうと思い、リエティールは承諾して部屋を借りることにした。

 店員に連れられて中へと入り、受付で手続きを済ませて部屋の鍵を受け取る。

 指定された部屋へ向かうまでに、廊下にずらりと並んだ扉をリエティールは見た。宿は二階建てになっており、指定された部屋は二階の部屋である。一階は複数人で泊まるための部屋だったのだろう、一見何の変哲もない様子であったが、二階は驚く程、とにかく扉の数が多かった。

 どことなく心配になりつつも、指定された部屋に到着して扉を開く。

 その部屋は、ベッドと小さな机が一つ、そして空気を入れ替えるための小窓が一つという、とにかく狭い部屋であった。寝て起きる以外のことはほぼ何もできなさそうなくらいで、先程店員が少し首をかしげたのも頷けるほど、足の踏み場も少なかった。


「確かに……これじゃ仕方ないよね」


「フルル」


 もしもロエトがフローの姿であったならば、泊まれないときっぱり言われていたことだろう。

 扉がずらりと並んでいたのも、この部屋の狭さなら納得できる、とリエティールはベッドに腰掛けながら考えた。泊められる人数と快適さを天秤にかけた結果なのだろう。

 机の上に布を取り出して敷きロエトの寝床を用意して、リエティールは、


「まだ少し時間があるし、町の中を歩いてからご飯を探しに行こっか」


とロエトに言うと、そのまま宿を出て再び町の中を歩き始めた。



「お嬢ちゃん、もしかしてエルトネかい? 山に入るならうちの道具を見ていきなって!」

「この薬、どうだい? 疲労回復にいい成分がたくさん入ってるし、今ならサービスしとくよ!」

「山に行くなら精をつけないと! うちの料理を食べていきな!」


 店を見て回っていると、どこからともなくそんな声がひっきりなしにかけられる。行き交う客を一人でも多く自分の店に取り込もうと、せわしなく宣伝文句が飛び交い、派手な看板が掲げられている。

 そんな雰囲気に圧倒されて、何度か店に誘い込まれながらも、リエティールは散策を楽しんだ。そして最終的に呼び込まれた店で、山で採れた素材を使った料理を満腹になるまで食べたリエティールとロエトは、少し苦しい思いをしながらなんとか宿に戻り、倒れこむようにして眠りにつくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ