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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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290.判決

 その場にいる全員の視線を集めながら、中央に立つ法裁司ライタルト長が話し始める。


「まずは今回の事件の概要を確認いたします。

 被告人レシンは、国立術式研究所にて保護されていたノガード類を奪取するために襲撃。 建物の一部を損壊させ、数人の研究員に危害を加えた。

 その後、連れ出された竜類を追いイギードロップ家の邸宅を襲撃、こちらでも設備の破壊及び人体への危害を加えた。

 また、確保後に被告は過去に数度の殺人を犯したことを自白している。

 これらについて、双方異議はないですか」


 そう言い、法裁司長はレシンのいる席とリエティール達のいる席を交互に見やった。お互いに「はい」と返事を返すと、法裁司長は頷いて了承の意を表すと次に指示をした。


「では次に、被告の弁明を」


「は、はい!」


 そう言われ、レシンは緊張し上ずった声で返事をする。そんな彼を落ち着かせようと、傍に立つ治癒術師ロトコードが何か優しく声をかける。

 レシンは大きく深呼吸をしてから話し始めた。

 内容は昨日リエティール達の前で話したこととほぼ同じであったが、相違点を上げるとすれば、「ご主人様」と言っていた部分が「イバルグ・ナロムロック」という名前に置き換わっている点である。

 そして、感情が高ぶらないように途中で数度の深呼吸を挟みながら、彼は自分の過去と共に今回のことはイバルグの指示を受けて行ったことであると話した。


「わかりました。 では次に、被害者側から何か意見はありますか?」


 その言葉にまず最初に答えたのはエリセであった。


「はい、まず国立術式研究所の被害ですが、生物研究部の研究棟に集中しており、それ以外の場所には目立った損壊はありません。 続いて研究員の怪我に関しては擦り傷、切り傷が主であり、重症者は出ていません。 そして、竜類に関してですが、現在の状態は安定しており、事件によって状態が悪化したということはありません。

 従って、怪我人の治療及び建物の修復に掛かる費用の相当分の懲役を希望します」


 エリセが話を終えると、次にトファルドが口を開いて話し始めた。


「当家で出た怪我人に関しては、すでに治療は完了しており命に別状はないことが判明しております。 主な被害は設備である魔道具スルートに使用していた命玉サール及び魔力ですが、こちらに関しては国立術式研究所と話が付いており問題はありません。

 ですが魔道具の修復などの手間を考えると被害は小さくはないので、同じく相当の懲役刑を望みます」


 二人が話し終え、リエティールは自分も何か言わなければならないのだろうかと、慌てながら何を言うべきか定まらないまま口を開いた。


「えっと、私は……戦いました、けど、大きなけがはしていません。 クラッドの魔道具の影響は受けましたけど、それはレシン……被告も同じです。

 それに、今回のことは彼が望んでやってことじゃありません。 過去の殺人だって、彼は命令に逆らえない状態だったはずです。 だから、その罰を受けるべきなのは、指示をした人の方だと思います!」


 レシンの過去に対して強い同情心が芽生え、言葉尻の語気を強めてそう言い切ったリエティールは、言い終えてから今ので大丈夫だったのかと不安げにトファルド達の方を向く。トファルドとエリセは、リエティールの気持ちを分かっており、安心させようと小さく微笑んで頷いた。肩の上のロエトも同意するように「フルルッ!」と力強く一鳴きした。


 こういった場において、通常被害者は被告となった被疑者に対してより厳しい罰を望む場合がほとんどである。

 しかし今回は軽い罰を提示したばかりか、庇うような発言まで飛び出した。被害者側が訴えて起きた裁判ではないにしろ、こうした事態はあまり多くはない。

 法裁司長を含め法裁司達が同判決を下すべきか討論をし始めた時であった。


「私からも発言してよいだろうか」


 その言葉に、全員が一斉にそちらへ顔を向けた。

 発言したのは国王であった。顔のあたりまで手を上げ、法裁司長の方を見ながら威厳のある声でそう言ったのである。


「はい、勿論でございます」


 突然のことに驚きながらも、声が乱れることのないように慎重に法裁司長が答える。それを聞いてから、国王は口を開いた。


「彼の話は事前の報告に遭った通り、確かに我が国にとって非常に有益なもののようだ。 この後是非、彼と直接話をして詳しいことを聞きたい。

 そして、彼の持つ能力についても、長期間の労働で拘束するには非常に惜しいレベルのものであろう。

 そこで、どうだろう。 精神面での治療を万全にした後、国に忠誠を誓ってもらい我が国の力となってもらうというのは?

 勿論、事件を起こしたことに関して罰は受けてもらわなければならない。 被害修復分の費用を給金から引く、という方法では問題があるだろうか」


 思いもよらない国王からの直接の提案に、法裁司長達は暫し驚きの表情のまま硬直していたが、やがて顔を見合わせて慌てた様子で言葉を交わしてから、


「はい、問題ありません。 では……」


 異例に次ぐ異例に、流石の法裁司長も戸惑いの様子を見せつつも、小さく咳払いをして取り繕ってから再び正面に向き直る。


「判決。 被告の身柄は国に引き渡し、生涯国に忠誠を誓い、尽くすこととする」


 それを聞いたリエティールはレシンの方を向く。彼は状況を理解できているのかいないのか、呆然としたまま立ち尽くしていたが、やがて国王の方を向いた。

 国王はどこか満足げな表情を浮かべて彼を見ており、隣に座る王妃もまた、穏やかな笑みを浮かべていた。

 レシンは自らの拳を胸に当てると、その場に跪いた。

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