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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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289.裁きの場へ

 リエティールが入口へと向かうとトファルドも姿を現した。初対面の時から先ほどまで、彼は動きやすそうでラフな格好をしていたのだが、今はしっかりとした正装に身を包み、いかにも貴族然とした風貌をしている。そのギャップはリエティールも少し戸惑うほどであった。

 二人が門へと向かうと、そこには重厚感のあるフコアックが停まっており、城の使用人らしき御者が二人が来るのを待っていた。フコアックにはこの国の王家の紋章である、命玉サールと植物、風をモチーフとした図柄が描かれており、存在感を放っている。そのフコアックの他にも、護衛の兵士が乗っているのであろう別のフコアックが同じように停まっている。


「お迎えに上がりました。 トファルド様、リエティール様。 どうぞこちらへ」


 そう言い使用人はフコアックの扉を開くと乗るように促す。トファルドとロエトを肩に乗せたリエティールが順に乗り込むと扉が閉められ、御者の合図とともにフコアックが動き出した。

 王家のフコアックともなると流石に乗り心地が良く、振動は少なく座面にはクッションも取り付けられている。

 扉には窓が付いているが中が見えないように厚手のカーテンが閉められている。リエティールは好奇心に負けて、ほんの少しだけ隙間を開けて外の様子を覗き見た。すると行き交う人々が珍しそうにこちらを見ている様子が見え、視線が恥ずかしくなったリエティールはすぐに窓から離れて座り直した。


「そういえばあの子は……レシンはどうなったんでしょうか?」


 このまま城につくまで沈黙しているのもどこか気まずいと思い、リエティールがトファルドにそう話しかける。


「ん? うん……そうだな。 巡邏隊エシロップが面倒を見ているはずだからな、別口でもう城に向かっているんじゃないか? なんにせよ、彼は被疑者である以上、こうして豪華なフコアックに乗って……ということはないだろう」


「そう、ですね」


 リエティールはレシンのことを思うと心配になり、大丈夫だろうかと少しの不安を抱えた。

 自分の意思を取り戻したとはいえ、長年に渡る抑圧は彼に浅くはない傷を残しているはずである。精神的には未だ不安定だろう。

 一人になったことや裁きの場に出るということによって不安になり、昨日のように叫びだしたりしていないだろうか、とリエティールは考える。

 そんな思いが顔に出ていたのか、トファルドは彼女の肩にそっと手を置いた。リエティールが顔を上げるとトファルドは、


「少しは信用してやったらどうだ?」


と言った。同時にロエトもリエティールを落ち着かせようとしてか、そっと撫でるように身を摺り寄せた。トファルドの言葉とロエトの態度に、リエティールは少し恥ずかしそうに小さくはにかんで頷いた。


 それから時間が経ち、フコアックは法裁司ライタルトが待つ建物の前に停車した。

 使用人が扉を開け二人が降りると、そのまま建物の内部へと案内された。

 待機場所に案内されるのかと思っていると、建物内で待機していた人物からすでに準備は完了していると告げられ、問題がなければこのまま裁きが行われる法廷まで案内すると説明された。

 リエティールとトファルドはお互いに顔を見合わせた後、特に問題はないと判断し、そのまま法廷へと向かうこととした。

 ロエトも連れて行っていいのかというリエティールの質問に対して、案内人は想定していなかったのか少し悩んでいたが、ロエトもまた被害に遭った一人だというトファルドの言葉に押される形で、しっかりと管理下にあるのであれば、と連れて行くことを認めた。



「あ、トファルドさんにリエティールさん」


 部屋へ入り座るべき席へと案内される。するとそこにはエリセもおり、二人の姿を見てそう口にすると一礼をした。トファルドとリエティールも小さく礼をするとともに挨拶をした。

 今回、三人は一連の襲撃事件の被害者という立場でこの場に連れてこられた。

 リエティールは辺りを見回した。すると少し離れた場所にレシンの姿を見つける。彼の傍には落ち着かせるためか、彼の解呪をしていた治癒術師ロトコードもついている。だが心細いのか、身を縮こめて落ち着きなく視線を動かしていた。

 すると、リエティールの視線とレシンの視線がぶつかった。彼は驚きを顔に浮かべそのまま硬直する。リエティールは彼を落ち着かせるために、微笑んで一つ頷いて見せた。するとそれを見たレシンはぱちくりと瞬きをすると、同じように頷いて真剣な顔つきになり、法裁司が立つ席の方へとまっすぐに向き直った。

 緊張が解れたようだとリエティールが一安心していると、中央の席へ法裁司長が姿を現した。その後に続いて数人の法裁司も現れて席に着く。

 そして、その後方の更に高い位置に用意された席に、二人の人物が姿を現す。


「あれが……」


 リエティールの呟きにトファルドが答える。


「国王様と王妃様だ」


 国にとって重要な話が出てくると判断された場合、こうして国王がこの場にやってくるケースがある。だがそれは極めてまれであり、周囲の視線が一斉にそこへ集まると、静かなざわめきが起こった。


「それでは」


と法裁司長の声が響き渡る。その言葉によって部屋の中はしんと静まり返る。


「これより、国立術式研究所およびイギードロップ家への襲撃事件、及び被告人の過去の殺傷についての審判を開始する」


 その言葉に、全員が息を呑み真剣な顔を向けた。

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