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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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269.襲撃者

更新をお待たせしてしまいすみませんでした。以降は通常のペースに戻ります。

 その後、他の研究員の作業風景も簡単に見て回り、魔道具スタール開発課の見学を終えることとなった。


「満足いただけましたか?」


「はい! たくさんのことを知ることができてとても楽しかったです」


 クラエスの問いに、リエティールはそう元気よく答える。見たこともないような魔道具や、戦闘用の最新のものの開発の裏側まで見ることができたのは、彼女にとって、魔道具に興味のある者にとって非常に興味深いものであることには違いなかった。


「では、今回はこの辺りで終了といたしましょう。 霊獣種ロノ課までお送りしましょうか?」


 その言葉に、リエティールは首を横に振ってこう答えた。


「大丈夫です、ここに来るときにちゃんと道を覚えておきました」


 そうした理由があることもそうであったが、開発の現場を見てクラエスも忙しいかもしれないと考えたことも、断った理由の一つであった。

 自分の急な申し出を、わざわざ時間を割いて受け入れてもらった状況であるため、あまり迷惑をかけたくないという気持ちがあった。

 クラエスも、リエティールが自分のことを気遣ってくれているのだということを瞬時に悟り、頷くと、その場で礼をし、小さく手を振って見送った。

 長い廊下を歩き、生物研究部がある棟へと向かっている途中、もうすぐで着くという時に、彼女の耳になにやら騒がしい音が響いた。ガラスが割れるような音と、それに伴って人々が慌てふためくような音であった。

 それがすぐに異常なものであると、そして霊獣種課の方から聞こえてくるものだと気が付いたリエティールは、その歩みを速めた、肩の上のムブラも何かを感じ取ったのか、手足に力を入れ尾を腕に絡め、怯えたように身を縮こまらせていた。

 そして、曲がり角を曲がろうとした瞬間。


「ホロロッ!」


「わっ!」


 突然、黒い何かが目の前に飛び出してきたと思えば、それはフローの姿をしたロエトであった。その顔は険しく、明らかに何かを警戒している。


「ロエト? どうして……」


 いきなり現れたことに驚いてリエティールが歩みを止めていると、すぐ後からエリセが慌てふためいた様子で追いついてきた。


「はぁっ、き、君! その子、ムブラを連れてここから逃げて!」


「えっ? あの、どうしたんですか?」


 尋常ではないことを理解しつつも、いきなりの展開についていけないリエティールはそう尋ねる。エリセは後ろを気にしつつ、早口でこう言った。


「その子の元の持ち主が、取り戻そうとして襲ってきたかもしれないの! まだ見つかってない今のうちに逃げれば、ここにはいないって思って手を引いてくれるはず……。

 と、とにかくっ! 詳しいことは後でっ! 今は早く、見つからないようにここから安全な場所まで逃げてほしいの!」


 それを聞いて、リエティールは驚き、肩の上で小さくなっているムブラを見る。元の持ち主ということは、この目を見えづらくした犯人の可能性が高いということだ。

 なんにせよ、こうして乱暴な手段で無理やり取り戻そうと考える人物である以上、ムブラにとって良い主人ではないだろう。


「わかりました! ロエト!」


「フルルッ!」


 エリセの言葉に頷きを返し、そのままロエトの背に飛び乗り跨る。ロエトも一つ鳴いて返事をすると、出入り口を目指して廊下を走りだした。


「あ、待って! 正面からだと目立っちゃう……」


 正面玄関のほうに向かって走っていくリエティールの背に向けてエリセは慌てて声をかけるも、一目散に駆けていくその耳には届くことはなかった。

 途中でまだ事態を把握していない研究員が、ロエトの姿を見て驚き、何事だとさざめきだす声も聞こえたが、それに構うことなく駆け抜ける。

 この時、正面玄関以外の選択肢を知っていれば、まだ安全に身を隠すことができたであろう。だが、リエティールもロエトも正面玄関以外の出入り口の場所を知らず、エリセもまた伝える余裕がなかったため、そうなることはなかった。

 正面玄関から飛び出し、門へと続く道を全速力で駆ける。イクスの魔法を纏い、速度を底上げして可能な限りの最高速度を出す。空を飛ぶこともできるが、かえって目立ってしまうと思い、ここを出るまでは地上を走ったほうがいいだろうと考えてのことであった。

 しかし、その考えもすぐに改めることとなる。


「……! ロエトっ!」


「ホロッ!」


 何か、鋭い物を突き付けられたような、そんな視線を感じたリエティールはすぐにロエトに合図を送る。ロエトもまた同様のものを感じ取り、すぐさまその場の地面を蹴って宙へ駆けあがった。

 その直後、本来そのまま走っていたならば通っていたであろう箇所に、鋭い針のようなものが飛んできた。明らかにリエティールとロエトを狙ったものであった。


「バレてる……!」


 正面玄関から門までの道は距離があり、障害物も少ない。襲撃者にそれなりの能力が備わっていれば簡単に攻撃をすることができる場所であった。エリセの懸念通りのことが起こってしまったのだ。

 狙いを定められた以上、しつこく追い回されるであろう。そう考え、リエティールはどこへ逃げるべきかを必死に考える。

 町の外へ行けば誰かに迷惑をかけることはないが、周辺は身を隠せるような場所が少ない。隠れてもすぐに見つかってしまうだろう。逃げ切るのは難しい。

 しかし、人の多い市街地まで逃げ込んでしまえば、被害が周囲にも及んでしまうかもしれない。加えて、ムブラの目撃者が増えれば隠れるのも難しく、別の人物からも目を付けられる可能性がある。

 何より襲撃者の詳細が不明であることが決断を鈍らせていた。人数が多ければ、広い場所では囲まれる可能性が高く、入り組んだ路地では回り込まれる可能性が高い。警備員に気が付かれなかったのは、投擲武器で遠い所から攻撃できる為かもしれないが、隠密行動に長けているからかもしれない。いずれにせよ、迂闊に動けば危険が高まる。

 ムブラを隠すのに安全で、市街地から離れた場所。ムブラのことを知っても秘密にしてくれるであろう信頼のおける協力者。

 そう考えた末、リエティールは申し訳なさに悩みつつも、ロエトにこう伝えた。


「……トファルドさんのお屋敷に向かって!」

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