264.魔道具開発課
多少のハプニングはあったものの、リエティールは霊獣種課の見学を終えた。
霊獣種がいる部屋を何度か覗く機会があったが、一度中にいた水の霊獣種と目が合ってしまい、驚いて意識が逸れた霊獣種の魔法があらぬ方向へ飛んでいき、計測をしていた研究員がびしょ濡れになるという事態が起こったため、それ以降はまともに霊獣種の姿を見ていなかった。
それでも様々な霊獣種の姿を見ることができたことは、リエティールにとって非常に良い体験となった。
肩にムブラを乗せ、ロエトを預けて礼を言う。短時間ではあるが、ここでロエトのことについて新たにわかることがあればリエティールにとっても嬉しいことである。ロエト自身もそれを分かっているため、受け渡しはスムーズに済んだ。
霊獣種課での案内をしていたエリセが引き続き、錬成術部の魔道具開発課まで案内を続け、廊下を歩いていた。
「それにしても、ムブラは君によく懐いてるわね。 あの、ロエトもここに来る道中で仲良くなったんだっけ? 君って生き物に好かれやすいのかな。 羨ましい……」
肩の上でリエティールの髪先にじゃれているムブラを見ながらエリセがそう言う。それに対してリエティールは微笑んで曖昧に返事をする。
実際のところは、ロエトの場合はリエティールが氷竜の力を持っていることで巡りあったようなもので、ムブラも先程の推測が恐らく当たっているだろう。と、そうした理由が存在するのだが、傍から見ればエリセのように考える方が自然であろう。
そうこうしている間に、二人は錬成術部の研究棟に辿り着き、待っていた一人の男性研究員と対面した。
「お疲れ様です、エリセさん。 ここからは私が」
「ええ、よろしく頼むわね」
そう言葉を交わした後、研究員はリエティールに向き直ると一礼して自己紹介をした。
「こんにちは。 私は国立術式研究所、錬成術部魔道具開発課の研究員クラエスと申します。 ここでは私が案内を務めさせていただきますので、よろしくお願いします」
暗めの灰色の、肩辺りまで伸びた髪を短く結い、眼鏡をかけたクラエスは、口調も相まってやや堅そうな雰囲気を持っていたが、柔和な笑顔がそれを中和していた。
「リエティールです。 よろしくお願いします」
リエティールも名乗り、それを見届けたエリセは手を振って生物研究部の棟へと戻っていった。
暫くその後姿を見送った後、リエティールはクラエスの方へと向き合う。すると、クラエスはリエティールの肩にいるムブラを見て、不思議そうにこう尋ねた。
「その肩にいるのは……生物研究部の研究員が保護したという竜類ではないですか?」
「ピャアウ?」
自分のことを話していることが何となく分かったのか、ムブラはなあに?とでも返事をするように鳴き声をあげた。
そんなムブラの頭を指先で優しく撫でながらリエティールが答える。
「はい、その、懐かれちゃってなかなか離れてくれなくて……見学中だけ一緒にいることになったんです。 えっと……あんまりよくないですか?」
エリセは一緒にいても問題ないだろうというように話していたが、やはり別の研究棟にパートナーではない生物を連れ込むのはよくないのだろうかと思い、リエティールは不安げに尋ねる。
そんな気持ちを読み取ったのか、クラエスは小さく首を横に振ってこう言った。
「いや、大人しくしていてくれるのなら問題は無いですよ。 ただ、ここには色々研究資材などが保管されていますから、触ったりどこかへ行ったりしてしまわないよう、くれぐれも注意していてくださいね」
「はい」
そう言われ、リエティールは返事をしてムブラに目を向ける。それから小さく「わかった?」と問いかけると、ムブラは首をかしげて「ピャア?」と鳴いた。知能はあれどやはり言葉を理解するのは難しいらしく、恐らく分かってはいないのだろう。しかしリエティールの肩から離れたがる素振りは全く見せていないため、大丈夫だろうと考えたリエティールは、再び優しく頭を撫でた。
そんな様子を微笑ましく見守っていたクラエスだったが、案内役として気持ちを切り替え、リエティールに再び問いかける。
「ここ魔道具開発課では魔道具に関して様々な研究を行っていますが、何か興味のある分野などはありますか?」
それに対してリエティールは悩む。魔道具に興味はあれど、特にどういうものに、という特定の分野は考えたことがなかった。
うーんと唸るリエティールを見て、クラエスも少し何かを考えた後、
「それでは、まずは紹介状をくださったトファルド様の関わった魔道具を見てみますか?」
と提案した。関わりのある人物の名前が出てくれば興味を持ちやすいだろうと考えてのことだったのだろう。特にトファルドは名誉錬成術師であり、案内もしやすい。
案の定リエティールもその提案に乗り気になり、「お願いします」と頷いて返事をした。




