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氷竜の娘  作者: 春風ハル
262/570

261.研究機関へ

 トファルド一家に見送られ屋敷を後にしてから、リエティールは町を見て回り適当な宿を探して一晩を明かした。そして翌朝、いよいよ研究機関へと向かう。

 研究機関という呼び名は世間一般での通称であり、その正式名称は「国立術式研究所」といい、更にその後に部署名などがこまかく続いていく。

 それがある方向へと向かえば自ずと目に入るであろう、その広大な敷地と巨大な建物は、いかにも国の重要施設であるというような存在感を放っていた。

 城とはまた違う雰囲気に圧倒されながら、リエティールはその入場門へと向かう。門は開かれているものの、その両側には警備を務める門番がその目を光らせていた。門の近く以外にも少し離れたところに目を向ければ、巡回をしている兵の姿が目に入る。

 緊張しつつも、リエティールは門番の一人へと近付く。


「何か御用ですか」


 門番がリエティールに視線を向けてそう言う。リエティールはそっと、トファルドから受け取った紹介状を取り出し、門番に差し出した。


「これを、えっと……見学をしたいんです」


 誰に渡してほしいというべきか分からなかったリエティールは、とりあえず目的を言えば理解してもらえるだろうと考えてそう口にした。

 門番はそれを受け取ると、封蝋を見て誰か分かったのか、声は出さないがその目を少し見開く。セイネが言っていた通り、トファルドはその界隈では有名な人物である、ということが門番の態度からも読み取ることができた。


「分かりました。 少々お待ちください」


 そう言うと、門番は門の側にある通信装置らしき物に向かって話しかける。すると程なくして建物の方から一人の職員らしき人物が駆けて来た。門番はその人物に手紙を手渡すと、


「これを所長に届けてほしい」


と伝える。職員は短く返事をすると、再び建物の方へと戻っていった。

 そのまま暫く待っていると、今度は門の装置が音を発した。門番は装置から聞こえてきた声を聞いて、返事をするとリエティールにこう言った。


「許可が取れました。 どうぞお入りください。

 このまま道を真っ直ぐに進み突き当たりにある建物に入れば、案内の者が待機しています」


「あ、ありがとうございます」


 無事に見学ができることに安堵しつつ、リエティールは門番に頭を下げて礼を言うと、言われた通り真っ直ぐに進んで建物を目指す。

 そこそこに長い道を歩き終えて扉を開けると、そこには先程手紙を受け取ってもっていった職員が待っており、リエティールを見ると丁寧にお辞儀をした。


「ようこそ、国立術式研究所へ。 私は事務職員を務めております、クレルと申します」


「リエティールです。 よろしくお願いします」


 リエティールも挨拶をすると、クレルは小さく微笑んで話を続ける。


「今回の見学について簡単にご説明させていただきます。

 リエティール様は魔道具スルートにご興味をお持ちと伺っております。 そして、霊獣使い(ロノアルト)でもあられるということですので、今回は生物研究部の霊獣種ロノ課と錬成術ミクラリー部の魔道具開発課の二つをご案内させていただきます。

 それぞれの課で案内の担当を引き継ぎますので、短い間ですがよろしくお願います」


 再びお辞儀をするクレルに、リエティールも同じように頭を下げる。

 まずは霊獣課に行くことになり、クレルの後に続いて出発する。建物の内部は清潔感があり、多くの部屋が並んでいた。

 今向かっている生物研究部がある棟へ行くには別の部署を通り抜ける必要があるようで、魔法研究部の命玉サール課や魔法開発課などの札が並んでおり、リエティールはそうした名前を見るだけで心をときめかせていた。

 途中ですれ違う他の職員と何度か会釈を交わしながら、目的の生物研究部の棟へ到着する。


「到着しました。

 そしてこちらが生物研究部での案内係を努めます……」

「あっ! 君、昨日の!」


 クレルが紹介を終えるより先に、そこで待っていた職員が驚きに満ちた声でそう言った。対するリエティールも、驚きで口をポカンと開いていた。

 そこにいたのは紛れも無く、首都へ入る時の列で話をした魔術師ストラの女性であった。


「こんなところで君達にまた会えるなんて! 見学希望者って君達のことだったのね!」


 女性は満面の笑顔で、立ち尽くしているリエティールの両手を取り、喜びに満ちた声でそう言った。

 気を取り直したリエティールも笑顔で答え、肩の上のロエトも「フルル!」と嬉しそうに鳴いた。


「……コホン。 では、私はこれで失礼致します」


 盛り上がる二人と一匹の傍らで、小さく咳払いをしたクレルがそう言う。それを聞いたリエティールはハッとして、慌てて振り返ると、


「ありがとうございました、クレルさん」


と礼を言った。クレルは小さくお辞儀をすると、そのまま元来た道を歩いて戻っていった。

 リエティールが再び女性を振り返ると、女性は「悪いことしちゃったかな」と苦笑を浮かべた。そして、一つ息をついて仕切りなおすと、女性はリエティールにこう名乗った。


「改めて、私はここ、国立術式研究所の生物研究部霊獣課の研究職員、エリセです!

 ここでは霊獣種の生態の研究の他に、霊獣種が発見された土地に出向いて調査するフィールドワークもやっているわ。 昨日はその帰りだったの。

 君の名前は聞いているわ、よろしくね!」

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