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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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260.トファルドとダムイス

 そうして、ロエトを中心として話が盛り上がっていると、廊下へと続く部屋の扉が開いて、そこからルディカが姿を現した。その片手には何かが乗っている。

 彼女はそのままリエティールに近付くと、何かが乗った手を差し出してこう言った。


「リエティールちゃん、はい。 これ、大したものじゃないけど完成したから、記念に持っていって頂戴」


 手の上にあったのは、先程リエティールが選んだ花で作られた花飾りであった。綺麗に並べられた花の裏には金具がつけられており、ピンになっていて好きなところへつけられるようだ。

 花自体は透明な薄い膜のようなもので覆われており、それはどうやらルディカがつけていた液体が固まったものであろうことがわかった。これも魔道具スルートなのだろう。


「かわいい……ありがとうございます!」


 リエティールはそれを優しく受け取ると、どこにつけようか少し悩んだ末、鞄につけることにした。落ち着いた白色の上に、ピンクや紫の小さな花が鮮やかに映えて見える。


「ルディちゃんはお花のアクセサリーを作るのが本当に上手ね」


 それを見ていたフルールが温かく微笑んでそう言う。


「お母様、勝手に摘んじゃってごめんなさい」


「いいのよいいのよ。 お花もそんな風に可愛くしてもらえたならきっと喜んでいるわ」


 ルディカの言葉に小さく首を振り、にこやかなままそう言うフルールは、本当に気にしていないようで、こうしたことに慣れている様子であった。ルディカもまた、そうした反応が返ってくることをわかっていたためか、表情に不安などは一切無かった。

 和やかな空気になったところで、リエティールはふと大事なことを思い出した。それと同時に、その顔には深刻そうな色が浮かぶ。

 それにいち早く気がついたのはルーフェカであった。


「どうかしたのかしら?」


 彼女がそう言ったことで、トファルドを初めとしたほかの面々もリエティールの様子に気がつく。


「えっと、何か気になるところがあった?」


 ルディカは自分が渡したものに何か問題があったのかと思い、酷く不安げな様子でそう言う。フルールもずっと穏やかだった表情を曇らせて心配している。

 それを受けて、リエティールは慌てて首を横に振り否定する。


「違います。 ただ、トファルドさんにお話ししておいたほうが良いと思うことがあって……よくない話なんです」


「遠慮は要らない。 話してみなさい」


 表情を曇らせたまま悩んだ口調でそう答えるリエティールに、トファルドも真剣な顔つきでそう声をかける。

 リエティールは覚悟を決め、小さく頷くと、センクラの町での出来事、ダムイスという錬成術師ミクラルトが禁忌を犯し、スラムの人間ナムフを使って人体実験をしていたことを話した。

 それを聞いた面々は皆驚きや恐怖、怒りの混ざった顔をしていた。中でも特に強い反応を示したのはやはりトファルドであった。


「ダムイス……そいつは確かにダムイスと名乗ったんだな?」


「はい、その……知っているんですか?」


 重々しく尋ねるトファルドに対して、リエティールはそう聞き返す。練成術師として長く生きてきたトファルドなら、ダムイスのことを何かしら知っていても不思議ではない。

 トファルドは複雑そうな顔をしながら「ああ」と頷いて肯定すると、深く悩むように頭を抑えてから、ダムイスについて話を始めた。


「ダムイスは昔、ある日突然現れた、稀代の天才とも呼ばれていた錬成術師だった。 どこから現れたのかも、本当の名前もわからない謎の若者だったが、兎に角才能だけは飛びぬけていて、あらゆる魔道具スルートの改善案を提出して名を上げていった。

 その時はまだ私が判別機を発明する前だったが、もし完成した後だったら、セイネよりも先に彼女が改良して名誉錬成術師になっていたかもしれないな……いや、アイデアさえあったならば、彼女が私よりも先に判別機を作っていたかもしれない」


 その言葉は聞きようによっては冗談のようでもあるが、トファルドの顔は真剣であり、それが本当にそう思っているのだという事は明らかであった。

 一つ、深いため息をついてトファルドは続きを話す。


「だが、ある日突然、彼女はイコッサから脱退して姿を消してしまった。 ある情報は彼女が大量の命玉サールを買い集めていたということだけ。 どこに行ったのか誰もわからず、結局死亡したという扱いになっていたが……まさか、センクラで生きていたとはな。

 ……残念だ。 何故彼女が禁忌を犯したのか理由は分からないが、あのまま真面目に活動を続けていれば、必ず歴史に名を残すような立派な錬成術師になれただろうに……」


 そう言うと、彼は再び大きなため息をついた。その顔には本当に悲しい色を浮かべており、酷くショックを受けている様子であった。

 沈黙の中、口を開いたのはセルフスだった。


「だが、そんな重大な事件が起こったことなど、噂にも聞いていないが……」


「実は、センクラの領主はこの事件を揉み消そうとしていて、私にも誰にも話すなと言ってきたんです。 途中で逃げてきましたけど……」


「……それは、確かに……あのトルスか。 それならやりかねないな。 隠した方がより悪いということぐらいは気づいて欲しいものだが」


 リエティールの答えにセルフスもため息をつく。どうやらトルスが領主として今までやってきた悪評は中々に有名なことのようだ。フルールでさえそれを知っているのか、呆れ顔になっている。

 すると、トファルドが顔を挙げ、リエティールにこう言った。その顔は怒りも含んだ真剣なものであった。


「頼む。 この話は必ずイコッサまで伝えてくれ。 禁忌が犯された事は錬成術師全体の問題だ。 必ずその領主を罰し、事の顛末を記録しなければならない」


 その言葉に、リエティールもまた真剣な表情で頷いた。

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