259.セルフスと霊獣種
部屋に戻ると、すでにトファルドとルーフェカは戻っており、リエティールを待っていた。
「ごめんなさい」
「何、そんなに待っていないから気にする事は無い。 ほら、これが紹介状だ」
待たせてしまったことを謝るリエティールに対して、トファルドは全く気にも留めていない様子で紹介状を手渡す。しっかりとしたつくりの封筒にはトファルドの名前のサインと、セイネのものとはまた違う封蝋がされていた。
「ありがとうございます!」
いよいよ見学の準備が整ったという高揚感に胸を躍らせながら、リエティールはお礼をいいつつ紹介状を受け取り、それを大事そうに仕舞いこんだ。言わずもがな、万が一にも失くさないように、鞄の中に作った魔法の空間の中にである。
「ところで、いろいろと話を聞きたいんだが、構わないか?」
トファルドにそう問われ、リエティールは「はい」と頷いて答える。その間で、フルールが冷めたエートを淹れなおす。
「そうか、それではセイネの様子を聞かせて欲しい。 あいつは元気でやっていたか?」
「はい、魔道具を沢山作ってました。 ……ちょっと、寝不足みたいでしたけど……」
シワだらけの服で欠伸をするセイネの姿を思い出しながらそう話すと、トファルドは笑いながら、
「相変わらずだな」
と言う。すると、隣で静かにエートを飲みながら話を聞いていたルーフェカがこう口を挟んだ。
「本当、貴方にそっくりですね」
そして視線をリエティールに向けると続けてこう尋ねる。
「部屋の中も物で溢れ返っていたでしょう」
その問いにリエティールが頷いて肯定すると、ルーフェカはふう、と小さくため息をつき、流し目でトファルドを見る。するとトファルドは気まずそうに苦笑いをして視線を反対側へ逃がす。
そんな彼の内心を知ってか知らずか、フルールとセルフスが言葉を交わす。
「私もお義父様のお部屋のお掃除だけはお手上げだわぁ」
「うっかり何か触って大変なことになっても困るからね」
ルーフェカの視線が更に鋭くなり、トファルドは必死に目を合わせないように顔を逸らす。そんな様子を見ていたリエティールだったが、トファルドの部屋が物で溢れかえっている様子は不思議と容易に想像することができ、小さく笑った。
「あ、あの、この衣はセイネさんが作ってくれたんです。 命玉は無いですけど」
そう言ってリエティールが風圧の衣を見せると、トファルドは違う話題が出たことでほっとしたのか、安心を顔に浮かべてリエティールの方へ向く。そんな彼のことを呆れの目で一瞥してから、ルーフェカは再びカップを手にとってエートを一口飲んだ。
その後、風圧の衣の話に始まり、イザルの話や今までに見た魔道具の話をし、話題はリエティールの肩でじっとしているロエトに移った。始まりはフルールの一言であった。
「それにしても、その肩の子……ロエトちゃんと言ったかしら? 本当に大人しくていい子ね」
「フルル」
自分の話題が上がったことに反応し、今まで静かにしていたロエトは小さく首をかしげて反応する。
改めてロエトを紹介するために、リエティールはロエトを肩から腕に移動させる。羽ばたくと黒い羽毛が夜空のように煌く。
それを見たセルフスが不思議そうに尋ねる。
「とても綺麗な羽だけど、そんな特徴を持った鳥は聞いたことが無いな。 その霊獣種とはどこで?」
「えっと、スドゥーの森です」
リエティールが答えると、セルフスは驚いて目を丸くし、
「スドゥーの? ということは、もしかしてその霊獣種はティラフローの姿ももっているのかい?」
と尋ねる。リエティールが肯定すると、セルフスは身を乗り出す勢いで是非見たい、と頼んだ。その勢いに若干気圧されつつも、リエティールはトファルド達に目線を送る。その結果、どうやら他の面々も興味津々である、ということがわかった。
「ロエト、お願い」
「フル」
短く返事をし頷いたロエトは、リエティールの腕から飛び立ち少し開いている場所へ降り立つと、その身を淡い光で包んだ。徐々にその体は形を変え、光が収まるとティラフローへ変化したロエトがそこに佇んでいた。
それを見て一番反応したのはやはりセルフスであった。彼は席を立ち上がるとロエトの側まで駆け寄り、その姿をじっくりと目に焼き付けるように観察する。
「姿を変える霊獣種を直接見られるなんて……ああ、凄いな。 確かにティラフローそっくりだけど、鳥の特徴もしっかり出ている……」
夢中になっているセルフスを見て、フルールが微笑みながら言う。
「この人、霊獣種が大好きでね、元々研究機関で働いていたの。 でも、私と長く一緒にいたいからって辞めちゃってね。 感謝はしているけれど申し訳なく思ってて……。
ふふ、こうして生き生きとした姿がまた見られて私も嬉しいわ」
そんなフルールの言葉も聞こえていない様子でセルフスはロエトに夢中になっている。そんな彼の姿を見るフルールは、本当に嬉しそうにしていた。
それから少ししてセルフスは振り返り、リエティールにこう言った。
「複数の姿を持つ霊獣種はあまりいないんだ。 それというのも、霊獣種は一番最初に得た体に愛着をもつ生き物でね、好んで色んな生き物を吸収することをしないんだよ。 嫌がる霊獣種に無理矢理そうさせようとしても怒らせちゃったりするから、研究もそこまで進んでいなくて……。
ああ、えっと……つまり、何が言いたいかというと、多分研究機関にいったら色々と聞かれると思う。 できれば協力してあげて欲しいんだ」
興奮気味のセルフスはやや顔を上気させ、早口で話し出し、途中でそれを自覚したのか恥ずかしそうにしていた。
「ロエトが嫌がることじゃなければ……」
「フルルゥ」
リエティールの言葉にロエトは鳴き声を返す。ロエトにとってはリエティールの意思は尊重すべきものなので特に異論も無いらしく、同意をしているようであった。
「ありがたい」
リエティールの言葉にセルフスは嬉しそうにそう言った。




