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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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258.ルディカと花

「お仕事の事はわかりましたけど……人が入ってきたりしちゃわないんですか?」


 家事や仕事は自分達でやるという方針はわかったが、防犯の面については門番の一人も見えなかった。ここにいる全員を見ても、そこまで武に秀でていそうな雰囲気も無い。

 リエティールが尋ねると、ルディカが誇らしげに胸を張って答えた。


「心配ないわ! この家は魔道具スルートで守られているのよ。 無理に壁や門を越えようとすれば全身大火傷よ! 窓や扉にも仕掛けがあるし、万が一進入されても最終的な逃げ場もちゃんと用意してあるの」


 そう語る彼女の様子は嬉々としており、まるで自分のことのように自慢しているようであった。

 魔道具を作ったのは彼女自身なのだろうかとリエティールが考えていると、フルールが微笑みながらこう言った。


「元々トファルドお義父様が作られたものを、シーちゃんが改良したのよ。 ルディちゃんはシーちゃんのことが大好きだものねぇ」


 その言葉と共に微笑ましい視線を向けられたルディカは、ハッとして顔を赤くすると、


「そ、そんなんじゃないわ! 私はただ、家の技術に誇りを持っているだけよ!」


と慌てた口調で否定する。しかし、キョトンとしているリエティール以外の全員から温かい目を向けられていることに気がつくと、更に恥ずかしそうに顔をふいと背けてしまった。

 そんな中、トファルドが話を本題に戻す。


「兎も角、紹介状を書かねばならんな。 なるべく早く仕上げるが、待っている間は好きに過ごしていてくれてかまわない」


 そう言って彼が席を立つと、隣に座っていたルーフェカも共に立ち上がり、一緒に部屋を出ていった。二人は夫婦であり、同時に主人と秘書のような関係性なのだろう。

 待っている間どうしようかと少し考えてリエティールは、ここに来るまでの間に見た光景を思い出し、幾分か落ち着きを取り戻していたルディカに尋ねた。


「あの、このお屋敷には色々な魔道具があるんですか?」


 この部屋に至るまでの廊下で、少し変わった物がいくつか見受けられたことを考えて、それらが魔道具だったのではないかと思ったのだ。

 するとルディカは頷いて、


「勿論よ。 なんてったって、ここは魔道具師スルーナンが当主の家なんだから」


と答える。その話しぶりも先程のようにどこか誇らしげで、フルールもセルフスも微笑んでいる。どうやらルディカは弟だけでなく祖父のことも好きでいるようだ。ただ、そのことをまた口にすると、同じように機嫌を損ねてしまうと思い、二人はあえて何も言わずにいるのである。


「ちょっと見てみたいです」


「いいわよ、案内してあげる」


 リエティールの言葉にすぐにそう返事をしたルディカは、立ち上がってリエティールについてくるよう手招きする。

 そのまま部屋を出て廊下に至ると、まず目に付いたのは花が生けられた花瓶であった。一見何の変哲もなさそうであるが、描かれた模様の中央には命玉サールがはめ込まれている。


「これは魔道具ですか?」


「ええ、水の魔道具で『潤い(エルツィ)の花瓶』って言うの。 中にある水が常に枯れないように、一定の水位を保つ道具よ。

 ちなみに、このお花はお母様が庭で育てたものよ。 綺麗でしょ?」


 生けられた花は瑞々しく、大きく広がった白い花弁が美しい。リエティールがルディカの言葉に頷くと、彼女は満足そうに笑った。

 すると、彼女は何かを思い出したように手を合わせ、


「そうそう、お花と言えば良い物があるわ。 ちょっとお庭に来て」


と言い、リエティールを連れて庭へと出た。

 庭の花壇では先程フルールに水を貰った花々が、光を受けてキラキラと輝いていた。先程花瓶に生けられていたものと同じ花や、その色違いのもの、種類が違う花など、様々な花がそよ風を受けて静かに揺れている。


「この中に気に入った花はあるかしら?」


 ルディカにそう尋ねられ、リエティールは悩みつつ花をじっくりと眺める。先程の大きな花も立派で綺麗だが、リエティールの気を引いたのは、背の低い、集まって咲く小さな花であった。


「このお花が好きです」


 赤や淡い紫、ピンクに白と、可愛らしい色合いの小さな花が集まって並んでいるそれを指差すと、ルディカがそれについて説明する。


「サトーネね。 小さくて形も綺麗だし、私も好きよ」


 そう言うと、ルディカは徐に屈んでその花をいくつか摘み取り始めた。リエティールは驚いて、


「勝手に摘んじゃっていいんですか?」


と尋ねる。するとルディカは振り返って小さく笑い、


「形を崩さない程度だったら大丈夫よ。 私が小さい頃から気に入ったお花を摘むのを、お母様は知ってるから。 後でちゃんと伝えれば怒られないわ」


と答えた。そうして彼女の片手いっぱいの量を積むと、それを持って再び屋敷の中へと戻る。

 そのまま先程の部屋には戻らず、違う部屋の扉を開ける。どうやらそこはルディカの私室のようで、彼女は花を机の上に一度置くと、小さな飾りのついた箱と小皿を取り出してきてそれを机の上に置いた。

 箱の蓋を開けると中には綿のようなものが敷き詰められており、彼女はその上に花を並べ始めた。


「何をしているんですか?」


「いいから、いくわよ」


 リエティールの問いには答えず、ルディカは花を入れ終えた箱に再び蓋をする。そして何やら箱の側面の部品をごそごそといじると、箱がカタカタと小刻みに震えだした。

 少しして震えが止まると、彼女は再び箱をあける。そして手ではなく道具を使い、花を用意した皿の上に丁寧に取り出していく。花は箱に入れる前と比べると固くなっているようで、気になったリエティールが思わず手を伸ばそうとすると、


「あ、ダメよ! まだ壊れやすいから手で触ったら壊れちゃうわ」


とルディカに静止される。リエティールは慌てて「ごめんなさい」と言って手を引っ込める。そしてルディカの作業の続きを見守った。

 皿の上の花に、ルディカは側にあった小瓶の中の透明な液体をかける。若干粘り気のあるそれを見たリエティールは、ダムイスの魔法薬スタールを思い出し、若干顔を歪めたが、すぐに頭を振って気を取り直す。

 ルディカは液のかかった花を再び道具を使って摘み上げると、光の差している窓辺に持っていき、光に当てる、という作業を繰り返す。

 その途中で彼女はハッとし、


「ごめんね、案内するって言ったのに作業につき合わせちゃって。 少し時間が掛かるから先に戻っていてくれる? 多分、おじい様もそろそろ戻っている頃だと思うわ」


と、リエティールに言った。リエティールは頷き、ルディカを残して元の部屋へと戻ることにした。

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