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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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257.変わり者一家

 女性が屋敷の中に入ってしばらく待っていると、再び同じ女性と、そして他にも男性が一人一緒について戻ってきた。


「お待たせしてごめんなさいね。 今開けるから、どうぞ中へいらっしゃい」


 女性はニコニコしながらそういうと、門の鍵を開けてリエティールに中へ入るよう促す。リエティールは小さくお辞儀をしてから中へ入り、左右を見回す。庭には二人以外他には誰もいない様子であった。


「ようこそ。 私はセイネの父親のセルフスと言うんだ。 まあ、詳しい挨拶はまた改めてしよう。 ここまで来るのに疲れただろう? まずはうちへ上がるといい」


「あ、えっと、リエティールです。 その……お邪魔します」


 慌ててそう名乗り、リエティールはセルフス達の後について屋敷の中へと入っていく。

 明るい色調の外観と同様に、内部も明るく落ち着いた色合いで、ところどころよくわからない装飾品が飾られているという点を除けば、よく整った綺麗な内装であった。

 リエティールは二人に連れられ大きな部屋へと案内される。部屋の中央に大きなテーブルがあり、それを囲むようにソファが並べられている。リエティールはセルフスに言われるままに入り口側のソファに座る。

 セルフスと女性も別のソファに腰掛ける。部屋には他にも若い女性と歳をとった女性、そして正面には高年の男性が腰掛けて待っていた。


「よく来た。 君が手紙に書かれていたリエティールで間違いないな?」


 高年の男性がそう声をかけてきたので、リエティールは「はい」と言って頷く。すると男性は整った白い髭を触りながら快さそうに目を細めると、


「そうか、歓迎しよう。 私はトファルド・イギードロップ。 この家の当主であり、セイネの祖父の錬成術師ミクラルトだ」


と名乗った。微笑む前は厳格そうな見た目であったが、表情を崩し穏やかに話す様子からは、快活で人の良さそうな雰囲気が漂っていた。

 続けて隣に座る同年齢ほどの女性が話す。


「私はルーフェカ、あの子の祖母よ」


 更に隣の横向きの席に座る若い女性が続ける。


「あたしはルディカ。 セイネの姉よ。 よろしくね」


 綺麗な空色の髪をしたルディカと名乗った女性は、はきはきとしておりセイネとはあまり似た雰囲気ではないが、淡い青紫色の瞳は同じ色をしていた。

 ルディカの向かい側には先程の二人が並んで座っており、後に続く。


「先ほども名乗ったが、私はセルフス。 セイネの父だ」


「わたしはフルールっていうの、シーちゃんのお母さんよ。 あなたはシーちゃんと仲良くしてくれたのでしょう? 嬉しいわ」


 セルフスはルディカと同じ爽やかな青色の髪をしており、キリッと引き締まった顔つきも似ている。対するフルールは淡い青紫の髪におっとりとした顔立ちで、セイネとよく似ていた。


「あ、あの、リエティールです。 それと、このこはロエトです。 よろしくお願いします」


 全員の視線を受け、少し緊張しながら、リエティールも改めて名乗り、ロエトも紹介する。お辞儀をして顔を上げると、皆柔らかく微笑んでおり、リエティールの訪れを歓迎してくれているようで、それを見たリエティールの緊張は少しだけ和らいだ。


「手紙には軽く目を通させてもらったよ。 研究機関の見学をするために私の紹介状が欲しい、とあったが」


「は、はい。 その……ダメ、ですか?」


 トファルドの視線に少し気圧されて、リエティールはやや弱気になってそう尋ねる。

 するとトファルドは、リエティールと視線を合わせて少しの間だけそうしてから、次に愉快そうに破顔してこう言った。


「ダメなことは無い! 寧ろ大歓迎だ! 君のような若い子が魔術師ストラや錬成術師の技術に興味を持ってくれるのは嬉しいからな」


 ははは、と笑うトファルドのガラリと変わった態度にリエティールがポカンとしていると、彼の隣に座っているルーフェカが、


「あなた、お客さんを困らせるのはいい加減やめてくださいな」


と、問題児を嗜めるような、困り口調でそう言った。ルディカも呆れた視線を送っており、そうした態度を見る限りトファルドが思わせぶりな態度を取って脅かそうとする事は、どうやら一度や二度ではない、ということが伺えた。


「ありがとうございます」


 安堵に胸を撫で下ろしつつ、リエティールはそう礼を言う。

 そうして一段落ついたところで、いきなりフルールが席を立つと、


「私ってば、うっかりしてたわ。 ちょっと待っててね、エートを入れてくるわ」


と言って隣の部屋へと移動をしていった。他の誰もそれに対して何を言うでもなく、頷きながら見送っていた。そんな光景を見て、リエティールは小さな違和感を抱き尋ねた。


「使用人とかは、いないんですか?」


 普通、貴族と言えば家事などにはそのための使用人を雇っているのが普通だろう。それだというのに、この家には門に門番もいなければ、植物の世話をする使用人も、紅茶を入れるような人物もいないようであった。それがリエティールの感じた違和感であった。


「使用人など、堅苦しいだけだろう。 自分の事は自分でやればいい」


 トファルドが腕を組みながらそういうと、ルディカがそれを冷ややかな目で見ながら、


「そんなこと言って、結局おじいちゃんの仕事は私とお父さんとおばあちゃんの三人で殆どやってるじゃないの」


と反論する。するとトファルドは誤魔化すように笑い、ルディカは更に呆れの色を濃くしため息をついた。


「私は文字を読んでいるほうが落ち着くから、書類仕事をするのは好きなんだよね」


 トファルドをフォローするつもりがあるのか無いのか分からない調子でセルフスが言う。その言葉にトファルドは「だろう?」と言い、ルディカは更に深いため息をついてセルフスを睨んだ。その間で、ルーフェカはただ穏やかな表情で静かにその光景を見守っていた。


「私も、お花のお世話とかお掃除とか、お料理とか大好きだもの。 誰かに任せるなんてもったいないわ


 話が聞こえていたのか、少しして盆を手に戻ってきたフルールがそう言いながら現れてエートを並べていく。鼻腔をくすぐるよい香りが広がり、各々がカップを手に取りそれを楽しむ。リエティールも香りに釣られて一口含む。独特の癖がある味わいだが、程よく甘く飲みやすい。どうやらリエティールが子供であることを踏まえてフルールが事前に味を調えてくれていたらしい。


「お口に合ったかしら?」


「はい、おいしいです」


 リエティールがそう答えると、フルールは心底嬉しそうに「よかったわ」と笑った。

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