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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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255.首都へ走る

 翌朝、リエティール達は少し早めに起床すると、宿を出て首都に向けて出発した。

 朝方はまだ活動する人が少なく、人通りも疎らであるため、人目につきにくいということと、ドライグが正式に森の問題が解決したことを発表する妨げにならないように、という考えがあってのことであった。

 しかし、幾ら疎らとは言え人通りがある。大きな霊獣種ロノを連れた少女、という組み合わせは、エルトネでなくても目を引くものであり、嫌でも視線を感じるのであった。


『リー、視線を気にしているのか?』


 周囲を落ち着き無く見回しているリエティールにロエトがそう問いかける。


「うん……やっぱり、霊獣使い( ロノアルト)ってあんまりいないし、目立つみたい……。 それに、ロエトは大きくて綺麗だから、余計に目を引くのかも」


 頷いて困り笑いを浮かべながらリエティールがそう答えると、ロエトは『ふむ』と呟いて何やら思案顔になる。そして、


『ならば、これで多少はマシになるだろうか』


というと同時に、淡く光ったかと思うと、次の瞬間、その姿が変化していた。

 体の色と長く伸びた尾は同じだが、大きさはリエティールの肩に乗れる程度のティルブの姿になっていたのである。

 リエティールも、それを見ていた通りがかりの人々も、突然の出来事に驚いてポカンとした表情でロエトを見つめていた。

 いち早く正気に戻ったリエティールは、ロエトを抱えるようにしてその場から足早に立ち去り、先程の人々が見えなくなったところで足を止めて息を整えた。


「びっくりした……その姿にもなれるんだね。

 確かに、さっきよりは目立たないかもしれないけど、急に変身するのは目立っちゃうから……」


『うむ……軽率だったな。 すまない』


 ロエトも周囲の反応を見て不味かったと感じ、素直に反省していた。鳥の姿ではフローの時よりも表情の変化が少ないが、尾羽が一番下まで下がっていた。

 リエティールもロエトを責めるつもりは無く、「気をつけてね」と言うと抱えていた腕を放した。そしてロエトは数回小さく羽ばたくと、リエティールの肩にとまった。


「町の中ではこっちの姿でいて、外で移動する時は狼の姿になるのがいいのかな。

 戦う時はどっちの方がロエトは戦い易い?」


『そうだな……時と場合によるだろう。 この姿は比較的小さいから攻撃を避けやすい。 狼の姿は地上での戦いが向いている』


 リエティールの問いにロエトが考えながら答える。小さく首をかしげている姿はどこか愛らしい。


「そっか。 じゃあ、判断は任せるね」


 そう言った会話をしながら、リエティール達は町を出る門に到着した。門番にカードを見せると、ロエトの姿に気がついた門番は少し驚いた顔をしていたが、特に問題なく町を出ることができた。

 今回は首都行きのフコアックには乗らず、そのまま街道を歩いて進んだ。それから暫く道なりに行ったところで、後方を振り返り町の入り口が見えなくなったことを確かめる。


「この辺りならもう大丈夫かな」


 リエティールがそう言うと、ロエトも頷いてそれに同意する。そして肩から降りると、再び体が淡い光に包まれ、ティラフローの姿に変化した。

 ロエトが身を低くして、リエティールはその背に跨った。彼女が首周りに抱きつくような姿勢になると、その体の周囲をふわりと風が包み込む。


『行くぞ』


 そう言うと、ロエトは地面を蹴って走り出す。その速さはまさに風を追い越すほどのものであり、周りの景色が一気に後方へと流れていく。大穴から脱出する時のウォラよりも速度は上だろう。元々走ることが得意な狼の体に、風の魔力が合わさることで、地上では負けなしの速度で走ることが可能であった。

 そんな速度が出ているのにも拘らず、ロエトの走る姿はまるでストライドの大きいスキップをしているかのように軽やかで、緩やかな動きであった。それに加えて体を風が包んでいるため、リエティールの体に掛かる負荷は驚くほどに少なかった。


「凄い! これなら首都にもすぐに着くね!」


 跳ぶように過ぎていく景色を見て、リエティールは興奮気味にそう言った。そんなリエティールの反応に、ロエトはどこか誇らしげな表情をしていた。


 そうして、道中に街道を進む何人かの人間ナムフやフコアックを追い越して、まだ太陽が昇りきる前に首都の姿をその目に捉えた。

 ロエトは徐々に速度を落とし、通常の歩行スピードに戻る。街道には多くの人々が行き交っており、その内の何人かは、突然現れたリエティールとロエトの姿を見て驚きを顔に浮かべていた。

 街道から少し離れた場所まで歩き、ロエトは鳥の姿に変身してリエティールの肩にとまる。そして再び街道へと戻り、首都に入街するための列に並んだ。

 列に並んでいると、どこからとも無く魔道具スルート錬成術師ミクラルトらしき名前が耳に飛び込んでくる。リエティールはいよいよ魔術師ストラや錬成術師の本場に辿り着いたのだということを実感し、その目を輝かせて目の前の門を見上げていた。

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