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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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247.再起

「ぐ、うぅ……」


 強い衝撃による痛みに呻きながら、リエティールは何とか体を起こす。以前あった同様の攻撃と比べれば多少は感じる痛みも少なくなっていた。だが、それでも体の中身が全て揺れるような強い衝撃には違いなかった。

 リエティールは壁にもたれかかりながら自らの脚を見る。外傷などは無く、一見すると何も問題がないように見えるが、確かに異常が生じていた。


ノシオ……」


 自らの体を襲っているものが毒であると、リエティールは確信していた。先ほどの紫色の霧がそれであり、それを吸い込んでしまったが故に、彼女の足先が痺れていたのだ。そのせいで力が上手く入らず、避けられるはずの攻撃も避けられなかったのである。

 リエティールは使いきってしまった予防薬を買い足していなかったことを後悔するが、すぐにそんな暇は無いと思いなおし、麻痺に効く解毒薬を取り出そうとした。解毒薬は瞬時に使えるように、空間の中ではなく鞄の中に直接入れているため、魔法の妨害は受けずに済む。

 だが、魔操種シガムがその行動が終わるまで待っていてくれるはずも無く、彼女が薬瓶を取り出す前に再び根の攻撃が飛んでくる。

 リエティールは咄嗟に腕を構えて防御体勢を取るが、体が軽いため簡単に弾き飛ばされてしまう。飛ばされた先で地面に叩きつけられ、その弾みで取り出しかけていた瓶が遠くへと転がってしまう。


「あっ……」


 上体を起こし、離れてしまった薬瓶を見て思わず声を漏らすが、足の痺れがある状態でそれを追いかけるのは困難であった。

 そうこうしている間にも、魔操種は再び攻撃を仕掛けてくる。リエティールは全身を使ってその場から転がるようにして離脱する。毒の効果が抜けるまでなんとかこの場を凌ぎきらなくてはならない。

 吸い込んだ毒の量はそれ程多くは無く、足の痺れもそこまで強力というわけではないため、毒が抜けるまではそう時間は掛からないであろう。

 ただ、まともに足に力を入れられない状態で逃げ続けるのも難しいことであり、また魔操種が毒の霧を撒き、うっかり吸い込んでしまうなどすればいよいよどうしようもなくなる。

 どうするべきか、ゆっくり思案する時間も与えず、魔操種の攻撃は止むことを知らない。

 とにかく今は耐えなければ、とリエティールは膝立ちの体制で持ち直し、槍を構えて攻撃を只管受け流すように専念する。ここまでで根の数を十分に減らせていたのは不幸中の幸いであった。

 始めはうまく持ちこたえてはいたものの、前からだけではなく後ろからも来る攻撃に、その場から動けない状態で対応するのには苦しさもあった。

 その上、一度膝をついて動きを止めてしまった以上、足が回復したところで素早く立ち上がるのも難しかった。


(やっぱり、魔法を使わないと……)


 状況を打開するには、体を動かさずに自在に使うことのできる魔法が一番適していた。しかし、リエティールの大量の魔力を安易に魔操種に与えてしまえば何が起こるかわからず、判断を悩んでいた。先ほどの毒の霧も、魔力を十分溜め込んだために行うことができたのかもしれないからだ。

 だがいつまでも悩んで入られないと、そう判断して魔法を使おうとした時、


「ホロロロロロッ!!」


と、激しい鳴き声が穴の中に響き渡り、驚いたのか魔操種の攻撃が止まった。

 声の主はリエティールに襲いかかろうとしていた根に噛み付き、そのまま勢いよく噛み千切った。


「ガシャアアアッッ!?」


 油断をしていたところに思いも寄らぬ攻撃を受け、魔操種は悲鳴を上げる。

 その隙に、声の主はリエティールの側に駆け寄ってきた。


「フルル」


「どうして……?」


 声の主はティラフローの親である霊獣種ロノであった。出会った当初に比べればその体ははっきりとしており、先ほどの様子から見ても十分に動けるほど体力が回復しているようであった。

 問いに答えるのは後回しだとでも言うように、リエティールの問いに反応は返さず、体を低くして背に乗るようにと促した。

 リエティールが戸惑いつつもその背にまたがると、霊獣種はその場から素早く離脱し、魔操種から距離をとった。

 その動きは激しいものであったが、以前ウォラに乗ったときと同様に風が周囲を包み込み、振り落とされるようなことは無かった。


「シャアアァ……!!」


 魔操種は霊獣種に対して怒りを剥きだしにしており、そして再び根を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。

 霊獣種はそれを軽々と翻し、続いて襲い掛かってきた根もするりと抜ける。

 リエティールは背に乗りながら、霊獣種の体から魔力が魔操種の方に少しずつ流れているのを確認した。体内で生産される魔力量と大方拮抗しているようだが、僅かに減るほうが勝っている。あまり長引かせると再び弱ってしまうだろう。

 こうして霊獣種が自分を乗せて動けている間に、なんとかして止めを刺さなければならないと、その方法を思案する。先ほどとは違い、霊獣種が攻撃を避け続けてくれるため、落ち着いて考える余裕があった。


「魔法は駄目……やっぱり本体を狙うべき……?

 ううん、でも……あの口をなんとかしないと」


 厄介なのは魔力を吸い込むあの口だ。あの口さえ無効化してしまえば魔法も通常通り使うことができ、霊獣種が消耗することも無いだろう。リエティールは見ていなかったが、状況から判断するに毒の霧を吐き出したのもあの口であろうと考える事は簡単であった。

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