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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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219.センクラの町へ

 停留場に着き、リエティールは乗るべきフコアックを探して歩いた。

 セイネから教えられた王都までの道のりには、二つのルートがあった。

 一つは、一つの町を経由していくルートで、こちらはエスロの数が他より多い大き目のフコアックで、値段がやや高いが進むペースが速く、王都まで二日で行くことができる。

 もう一つは二つの町を経由するルートで、こちらは一般的な値段に一般的な速度で進んで行く。経由する町の規模が小さいことから、値段はやや控えめであった。

 始めは一つ目のルートで行こうと考えていたリエティールであったが、そちらへ向かう途中にいくつかの周辺情報が張り出されている掲示板が目に入った。そこに、二つ目のルートで寄る二つ目の町、スドゥーという名前を偶然見かけたのである。そしてそこに書かれていた「星天狼ティラフロー」という無垢種ラミナの名前が目に留まった。

 近付いてよく読んでみると、そのティラフローという無垢種は名前の通り星の輝く夜空のようにとても美しい毛皮を持ち、嘗てそれを目当てにあまりにも乱獲されたため、現在では狩猟が禁止されている保護対象だという。スドゥーの近くにある森が今ではこの周辺にある唯一のティラフローの生息地である、という内容が書かれていた。

 それに興味を持ったリエティールは、一つ目のルートから二つの目ルートへと変更することに決めた。

 フローというと、氷竜エキ・ノガード禁足地オバトでエフナラヴァを襲っていたユンフローを思い出させるが、その当時意識が朦朧としていたリエティールには、トラウマのようなものはあまり残っていないようであった。寧ろ、今は一目見てみたいという好奇心の方が勝っていた。

 そうした経緯で、リエティールはルートを変更し、フコアックへと乗り込んでテイクの町を後にした。


 道中大きな問題は無く、休憩を挟みながら数時間後、フコアックは一つ目の経由地点である町、センクラへと到着した。

 乗客は一人ずつ順に、門でチェックを受けて町の中へと入っていく。リエティールの番になると、門番の兵士はその姿を見て何か気がついたように、リエティールへとこう声をかけた。


「君、この町へは一人で?」


「? はい」


 急にそう訊かれ、不思議に思いながらリエティールが返事をすると、兵士は心配そうな顔になってこう言った。


「なら、暗くなる前に宿に入っているようにするんだ。 特にスラムの方には絶対に近づかない方がいい」


「……どうしてですか?」


 兵士の言葉に、リエティールはこの町にもスラムがあるということを理解してどことなく不快そうな顔になる。そんな彼女の表情を見て、兵士は自分の説明に納得していないどころか訝しげに思われているのではないかと思い、詳しく説明をする。


「ここ最近、人が行方不明になる事件が度々起こっていて……特に若い女性や子ども、年寄りなんかが狙われている。 そしてスラムでの被害が多発している。

 君はエルトネのようだがね、子どもなら十分狙われる可能性がある。 だから、一人で夜間に出歩いたり、スラムの方に近づいたりはしないように」


 それを聞いて、リエティールは兵士が自分を心配してくれているという事は理解しつつも、やはり不快そうな表情をしていた。それは標的がスラムであること、自分より弱いであろう相手を狙った卑劣な犯行であることのせいであった。


「犯人は捕まえられないんですか?」


 そんな不愉快な事件のことを認知しておいて、まさか何もしていないことはないだろう、と思い、兵士に尋ねたリエティールだったが、兵士の微妙そうな表情を見て、そのまさかなのではないかと感じ取った。

 少しの間言いづらそうにしていた兵士だったが、やがて覚悟を決めた顔でこう小さく言った。


「……私個人としては、君と同じくこの事件は早く解決したいと思っている。 家族のことが心配だからね……。

 だが、人員をどう動かすかは上の指示次第。 私はここを任されている以上、その事件がどうなっているかは分からない」


 兵士のその言葉は遠まわしに、事件が解決に向かっているのか、それ以前にしっかり調査が進んでいるのかすらわからない状況である、ということを表していた。

 リエティールはまだ聞きたいことがあると口を開きかけたが、それよりも先に兵士が、


「ほら、君の後にも人がいるんだ」


と言って無理矢理町の中へと進めてきたため、それ以上の話を聞く事は結局できなかった。

 リエティールはもやもやとした気分のまま、まずは宿を探すことにした。その後、ドライグに行けば何かしらの噂話を聞くことができるのではないか、と考えた。

 案内板を見つけておおよその全体図を把握してから、リエティールは宿のある方へと歩き始めた。

 その道中であった。


「……っ!?」


 不意に、重く生ぬるい空気が肌を撫でたような、奇妙で不快な気配を感じ、リエティールは足を止めて辺りを見回した。しかし、周辺に怪しいものは見つからなかった。

 その気配は徐々に弱くなっていったものの、リエティールは警戒を緩めず、残された気配を辿って慎重にそちらへと進んで行く。

 結局、その気配の出所に辿り着く前に分からなくなってしまい、辿ることを諦めざるを得なくなった。

 そうして、引き返そうとしたリエティールは、物陰から彼女の様子を伺う別の存在に気がついた。

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