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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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216.魔道具の用途

 セイネはなめした皮を広げると、それを衣の形へ合うように裁断していく。勿論一枚では面積が十分ではないため、リエティールが作業していた合間にセイネも必要な分の皮を準備していた。

 皮の下準備が終わると、彼は次に糸と針を取り出した。糸は淡い黄色に染まっており、それを使い皮を縫い合わせていく。

 リエティールはそれを見て、ふと親代わりの女性のことを思い出した。暇さえあればいつも針と糸を手に服を仕立てていたその姿が、衣を縫うセイネに透けて見え、思わず鼓動が早くなった。


「……ん、どうかした?」


 リエティールの強い視線に気がついたセイネが彼女にそう声を掛ける。リエティールははっとして首を横に振り、潤んだ瞳が見えないように少し顔を背けながら「なんでもありません」と答えた。

 セイネの手つきは女性のように洗練されたものではなかったが、売り物としては十分通用する仕上がりであった。暫く時間を掛けて漸く縫い終わったその縫い目は、まるで模様のように綺麗な曲線を描いていた。


「この糸はオルクレディプっていう虫型の魔操種シガムが吐き出す糸で、イクス属性と相性がいいんだ。

 縫い目も、魔力が効率よく全体へ行き渡るように計算してあるんだよ」


 縫いあがった衣を広げて見せながら、セイネはそう説明した。

 それから次に、彼は留具となる金具を取り出してそれを衣へと取り付けていく。衣が外れないように首元で止めるための金具だが、それには中央に四つの爪がついた丸い窪みがつけられていた。


「それはなんですか?」


 疑問に思ったリエティールがそう尋ねると、彼は命玉サールを手にとってこう言った。


「ここに命玉を嵌めるんだよ。 この部分は特殊な金属が使われていて、嵌めた命玉から魔力を伝達することができるんだ。 ある程度の大きさに対応しながら、嵌めやすく外れにくいように計算されて設計された、大切な部品なんだよ。 命玉をそのまま使うタイプの魔道具スルートでは大抵使われている部品さ」


 そして、セイネは手に持った命玉をその窪みへとあてがう。カチッという小さな音を立てて命玉が爪の間に収まる。すると、命玉はまるで張り付いてしまったかのように、激しく振っても落ちたり外れたりすることが無くなった。どうやらそれもこの特殊な金属のおかげで、魔力と惹かれあうという性質を持っているのだという。


「これで風圧イクッサーの衣は完成だよ。 使うときは衣から風が発生するイメージか、あるいは体を浮かび上がらせるようにイメージすると、魔力が巡って効果が発動する。

 魔力がなくなると命玉が簡単に外れ易くなるから、そうしたら新しいものに変えてね。 その時は必ずこの窪みに填る程度の物を選ぶんだよ。 小さすぎると魔力不足が起きるかもしれないし、大きすぎたらちゃんと嵌らないから」


 風圧の衣をリエティールに手渡しながら、セイネはそう使用方法と注意事項を説明する。それに頷きながら、リエティールは衣を受け取った。

 淡い緑を孕んだ白い毛皮は柔らかな手触りで心地よく、それを縫い合わせる黄色い糸も、機能美重視とは思えないほど見た目の親和性が高い。

 リエティールは早速それを羽織ってみたが、黒いコートの上に淡く温かみのある色の衣はあまり似合わず、リエティールは少しの間悩んだ結果、渋々と言った様子で、コートの内側に身につけることにした。多少動きづらくなるが、暫くすれば慣れるだろう、と割り切るものの、やはりどこか不満そうに小さなため息をついた。

 そんな彼女の様子を見て、セイネも苦笑いを浮かべる。


「完成させる前に染色でもして色を変えれば良かったかな? 気が利かなくてごめんね」


「セイネさんは悪くありません。 作ってくれてありがとうございます」


 謝罪を口にするセイネに、リエティールは首を振って否定し、それから感謝を述べる。折角のかわいらしいデザインが隠れてしまうのは彼女にとっても残念なことだが、有用な効果であることには変わりない。何より風圧で衝撃を殺せるというのは、衝撃だけは防げない彼女にとってかなり役立つもので、相手から見えないというのも場合によっては有効に働くだろう。

 そう前向きに考えながら、リエティールは先ほどのセイネの言葉を思い出して気になったことを尋ねた。


「そういえば、命玉をそのまま使う魔道具と、そのまま使わない魔道具はどう違うんですか?」


 金具の説明をする時に、セイネが「命玉をそのまま使うタイプの魔道具」と口にしていたことである。

 その問いに対して、セイネは「ああ」と言ってから、次のように説明した。


 魔道具には大まかに、命玉をそのまま使うものと、命玉から別のものに魔力だけを移動して使うタイプの二種類があるという。

 今回の風圧の衣のように、エルトネが使う魔道具はほとんどが前者で、その理由はすぐに付け替えができるためである。また、イザルが使っていた加熱の魔道具のように、家庭で使われるような魔道具も、表面に露出させなくても良いためそのまま使用されている場合が多い。

 では、そのまま使わないタイプとはどのようなものかというと、セノが使っていた「ガッセンの耳飾」のようなものである。魔力を移すことのできる素材は決まっており、また加工のために手間がかかることから製作時間が長く値段も割高になる。用途としては、通常の装飾品に見せかけてこっそりと使用する場合が多く、また容姿に気を使うエルトネなどにも人気があるのだという。


 リエティールは今まで見てきた魔道具を思い出しながら納得し、セイネの説明を興味深そうに聞いていた。

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