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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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215.風圧の衣作り

 ヒドゥナスを食べ終えたリエティールは、イザルを探しに部屋を出て目を見開いた。

 なぜかと言えば、昨日まで埃っぽい空気が充満していたはずの空間が、すがすがしい空気の満ちた空間へと変わっていたためである。

 見れば、閉め切られていた窓は開け放たれ、明るい日差しと共に澄んだ外気が流れ込んでおり、並んだ商品も商品棚にも、埃は残されてはいなかった。曇っていたランプも綺麗に磨かれ、夜に明るく照らす様が目に浮かぶようであった。

 その変貌振りに暫しの間立ち尽くしていたリエティールは、気を取り直して周囲を見回す。すっかり見通しがよくなった店内だったが、そこにもイザルの姿は無かった。

 店の外へ出ようと扉に手を掛け、押し開くと、その向こうから驚く声が聞こえ扉は途中で止まった。

 空いた隙間からリエティールが覗きこむと、そこには掃除用のブラシを手にしたイザルの姿があった。丁度扉の前に立っていたようで、扉は彼にぶつかって止まっていた。


「あ、ごめんなさい……」


「ああ、いや……」


 リエティールが謝ると、イザルは首を横に振りつつその場から退き、扉を開く。

 扉の外に出て店を振り返ったリエティールは、その変貌振りに再び驚くこととなった。砂埃で薄汚れていた外壁は綺麗に磨かれ、本来の鮮やかな色を取り戻して輝いていたのである。


「お掃除したんですか?」


 リエティールが尋ねると、イザルはどことなく気恥ずかしそうに目を泳がせながら、小さく


「まあ……そう、だ」


と答えた。

 恐らくこれが本来の彼なのだろうが、昨日までの自分の態度を振り返り、リエティールに対してどう対応するべきか戸惑っている様子であった。

 そんな彼に対して、リエティールはにこにこと笑顔になると、


「とっても綺麗で、お店も嬉しそうです!」


と言った。それを聞いたイザルは驚いたように目を丸くして、それから嬉しそうに微笑むと、


「そう、か。 なら、良かった」


と、ほっとしたように呟いた。


 イザルに世話になった礼を述べてから、リエティールはセイネの工房へと向かっていた。頼んでいた「風圧イクッサーの衣」を受け取るためである。

 楽しみゆえか、どこか弾んだ足取りで歩いていると、すぐに工房へとたどり着いた。


「おはようございます」


 そう言いながらリエティールが扉を開けると、奥からもぞもぞと何かが動く声と、言葉になっていないセイネのぼんやりとした声が聞こえてきた。

 何事かと思いリエティールが恐る恐る中へと入っていくと、そこにいたのはソファに寄りかかった状態で大きく欠伸をする、どこからどう見ても寝起きな状態のセイネの姿であった。

 そんな彼は、眠たそうに目を擦りながらリエティールが近くにいることを確認し、


「ふぁ……ああ、ちょっと、待ってて……」


と口にすると、再び大きく欠伸をしてふらふらと立ち上がる。倒れてしまうのではないかと、見ている方を不安にさせるような足取りで洗面台へと向かうと、顔を洗い始める。

 その次に、近くの棚から液体の入った瓶と櫛を取り出し、その液体で髪を濡らしながら、寝癖だらけの髪を整えていく。

 それから程なくして、顔周りの身だしなみを整えたセイネがリエティールの元へと戻ってくる。顔は昨日と同じ様子へと整えられてはいるが、服は寝ている間についたのであろうシワだらけであった。


「お待たせ。 風圧の衣のだよね? 完成はこれからだからもう少し時間を貰うけど、大丈夫?」


「は、はい」


 まるで先程までのことなど無かったかのようにそう話しかけてきたセイネに、リエティールは呆気にとられつつ頷く。

 返事を聞いたセイネは、早速昨日毛皮を入れた桶から毛皮を取り出すと、状態を確かめてからそれを広げて板へと打ちつけた。

 それから何かの魔道具スルートを取り出してそれを毛皮へと優しく押し当てる。セイネが念を込めると魔道具が作動し、ぼんやりとした淡い光を放つ。エリフの魔法で温めているのか、イクスの魔法で風を当てているのか、あるいはその両方かは分からないが、セイネがゆっくりと魔道具を動かしていくと、それを当てていた箇所は綺麗に乾かされていた。

 時間を掛けて全体が乾くと、今度は板から毛皮を外し、乾いて固くなった皮を丁寧に解していく。

 その作業を、リエティールはじっと見つめて見学していた。程なくしてそれに気がついたセイネは、


「やってみるかい? これは君の分だし……」


と、手に持っていた毛皮を差し出しながら尋ねた。

 魔道具作りに興味のあるリエティールは勿論すぐに頷き、セイネから毛皮を受け取り、彼の指示通りにそれを柔らかくする作業に入る。

 じっくり丁寧に作業を進め、固かった毛皮は柔らかい状態へと変わり、その滑らかでふんわりとした触り心地に、リエティールは嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「さて、ここからはまた私の仕事だ」


 リエティールの解した毛皮を受け取り、その状態を満足そうに見てから、セイネは作業台へと戻る。リエティールも後を追い、その作業を邪魔にならないように静かに見守ることにした。

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