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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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213.穏やかな夜

 ぽよぽよと弾む体を揺らしながら、浴室から現れた九匹のネットナックが揃った。皆一様に間の抜けた顔をしているが、その首の後ろにはそれぞれ名前が刻まれている。

 リエティールは水の溜まった柔らかい体を面白がってつつきながら、イザルにこう尋ねた。


「ここにいるネットナックは、皆属性が違うんですか?」


 その問いにイザルは頷いて答える。


「ああ、基本属性の七匹と、エニスクラッドを加えた九匹だ。 まあ、その二匹はほとんどいるだけだが、水以外に手間は掛からないからな。 いないよりはいた方がいいだろうと父さんが言っていた」


 そう言って彼が指差した二匹の首の後ろには「フラ」「スク」とそれぞれ書かれていたが、どっちがどっちなのかは、知らないリエティールには全く分からなかった。つっついてみてもぷるんと震えるだけで、反応に差なども無い。


「属性はどうやって見分けるんですか?」


 名前を呼ぶか文字を見れば分かるとイザルは言ったが、そもそもそうして名前をつける前の状態、生まれたばかりのネットナックなどは流石にその方法は使えない。となると、やはり見た目に何の違いも見当たらないネットナック達は、一体どうやって属性を判断されているのか、リエティールは再び疑問に思ってそう尋ねた。

 イザルは思い出すように首を捻り、「聞いた話だが」と前置きをしつつ、次のように答えた。


「ネットナックは研究を専門に行う魔術師ストラ錬成術師ミクラルトが集まる研究機関で飼育と繁殖がされていて、こうして俺達のような民間人へと販売される時には既に属性の判別が終わっているんだ。

 で、その判別方法だが、今の所魔法薬(スタール)を作るときと同じ工程を行って調べる他無いらしい。 実際に適当な命玉サールを用意して、それが溶けるか溶けないかで属性を判別するんだとか。

 だから、基本属性のネットナックはわりと沢山流通しているんだが、光や闇のネットナックは供給が少ないらしい。 うちのはタイミングがよかった」


 てっきり専門の道具を使って調べたりするのだろうと思っていたリエティールは、意外にも原始的な方法で行っているのだということを知り「へえ……」と呟いた。

 話して思い出したのか、イザルは「そういや」と言ってこう続けた。


「たまにどの属性にも当てはまらない奴もいるらしい。

 多分、失われた属性の魔法なんじゃないかとされてはいるが、結局確かめる方法がない以上、その仮説よりも先の研究は進んでいない、という話を聞いたこともあったな」


「それは……例えば、時空エマイトとか、ですか?」


 失われた属性、という言葉に、リエティールは思わず反応する。それがわかったところでどうこうするものではないものの、自分にかかわりのある言葉が出たことで、反射的にそう尋ねてしまったのであった。


「ん、そうだな。 そういうの……ってか、お前は何でそんなことも知ってるんだ? 魔術師でもそこらへんにいるような奴だと、失われた属性について知ってる奴も少ないと思うが……魔法に興味があるのか?」


 驚いた、という様子でそう尋ね返すイザルに、リエティールは大きく頷いて肯定する。自分の正体について疑われるのではないかという心配よりも、今は魔法についての知らない話ができる、という興奮の方が勝っているようで、その目はどこか爛々としている。

 そして、リエティールが鞄に手を入れ、そこから「魔法学習」の本を取り出して見せると、イザルは一層驚きを露にした。


「本、か。 まさかそんなものまで持ってるなんてな」


 イザルの反応に、リエティールはどこか自慢げな表情をする。本を持っていること自体もそうであるが、その本を買ってきてくれたソレアとイップのことも誇らしく思っているためである。

 そんなリエティールの様子を見て、イザルはどう反応したものか、と苦笑を浮かべる。


「そんなに魔法に興味があるなら……まあ、話に付き合ってやってもいい。 専門じゃないが、研究機関について聞いた話くらいならしてやれる。

 でもま、その前に体を洗ってこい。 折角浴室からこいつらをどけたんだからな」


 近くにいたネットナックの鼻先を触りながらそう言うイザルに、リエティールは嬉しそうに頷いてから、本をしまって浴室へと向かった。


 リエティールとイザルの二人が両方とも体を洗い流すと、二人はソファに腰掛けて本を開きつつ話をした。

 魔法の研究機関がある、ということを知らなかったリエティールにとって、イザルのする話は断片的なものであれど、とても興味深く面白いものであった。

 研究機関の本部はこの国の首都にあるということ、錬成術師の組合であるイコッサはその管轄であるということなど、リエティールはどんな話も目を輝かせて聞いていた。

 だが次第に時が経つにつれ、満腹感も相まってその瞼はゆっくりと閉じていき、終いには小さな寝息を立てて、イザルに寄りかかるようにして眠ってしまった。

 それに気がついたイザルは、その体をそっと抱え上げ、自身の使っていたベッドの上にそっと寝かせた。

 そしてその寝顔を見て、


「ほんと、見かけによらない不思議な奴だ」


と呟くと、彼自身はベッドではなく、ソファに横になってその日の夜を過ごした。

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