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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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211.食事の準備

 結局、イザルは店主とリエティールの勢いに流されるまま大量の野菜を買うことになった。袋に入れられたそれを抱え、二人は「ネットナック」へと帰った。

 二人は真っ直ぐに店の奥、そしてキッチンへと向かう。

 店での出来事があってから、イザルは相変わらずどこか疲れた表情をしていながらも、心なしか少しだけすっきりとした色も含んでいた。

 キッチンに立つと、イザルは袖を捲くり袋から買ってきた食材を出していく。色とりどりの野菜が次々に並べられていく様子を見て、リエティールがこう尋ねた。


「何を作るんですか?」


 その問いに、イザルは野菜を一通り眺めてから、


「そうだな、まずはオタモ、ムクク、それからクッテルでダラスでも作るか……。

 いや、ニックパンプのプオも作りたいな、ならまずはそっちの下ごしらえからやるか……」


と、最初は答えていたのだが、話しているうちに自分の考えに没頭していった様子で、ぶつぶつと呟き始めた。

 それからリエティールが尋ねていたことも忘れ、イザルは料理を始める。

 まずはニックパンプを取り、それを細かく切り分けていく。ニックパンプは皮が硬い食材であるため、最初に切る時には、イザルは表情こそ澄ましていたものの、腕がプルプルと震え顔には汗まで滲ませていた。

 ようやく切り終え、皮等を取り除いたニックパンプを器に入れ、それをなにやら金属でできた箱のようなものの中へと入れる。


「それは何ですか?」


 リエティールが尋ねると、彼はそこでようやく彼女がいることを思い出した様子で振り返り、


「ああ、これは加熱用の魔道具スルートだ。 中に物を入れると重さが引き金になって作動する。

 ……そうだな、じゃあお前はこれを見ていてくれ。 時々この串で柔らかさを確かめて、柔らかくなっていたら取り出して伝えろ。 それくらいはやってくれるだろ?」


と言った。リエティールはその言葉に頷き、串を受け取ると、中に入れられたニックパンプをじっと見つめた。

 それを見届けてから、イザルは別の野菜の処理を始めるが、程なくして再び振り返ると、


「火傷には気をつけろよ」


とだけ声をかけた。それに対してリエティールは「はい」と返事をする。やりとりは短いものであったが、初対面の時と比べると、イザルのリエティールに対する態度はかなり柔らかいものになっていた。

 もしも店での出来事が無ければ、こうして気を使うことも、そもそも率先して料理内容を考えて調理の手を進めることも無かっただろう。

 リエティールはそんな彼の変化を感じて、小さく嬉しげに笑みを浮かべた。


 イザルが野菜を切る音が響く中、リエティールはふと気になって彼に尋ねる。


「そういえば、ネットナックはどこにいるんですか?」


 前回店に来た時はイザルに名前を呼ばれて奥の部屋から出てきたように見えたが、今この部屋には姿が見えない。


「それなら、浴室にいる。 あいつらは元々水辺の生き物だからな、水の近くにいると作り出す水も質がいいものになる」


 そう言って、彼は店舗へと続く扉とは別の扉を顎で指す。それは腰あたりの高さのスイングドアで、その向こうにはカーテンがかかっている。耳をよく澄ませば、かすかに水の音も聞こえてくるようであった。


「呼べば来るが、今呼んでも困るだけだからな。 見たいなら後にしてくれ」


 その言葉にリエティールは頷き、ニックパンプに串を刺す。串は抵抗無くすっと刺さり、十分に柔らかくなっていることがわかった。


「あ、柔らかくなりました」


 器をそっと取り出しつつリエティールがそう言うと、イザルは一度手を止めて、ニックパンプの器を受け取り小鍋に移すと、それと一緒に一つの道具を手渡した。


「次はそれを使って潰せ。 できるだけ細かく、ペースト状になるまでだ」


「わかりました」


 リエティールはそう返事をし、受け取った道具でニックパンプを潰していく。

 平たい面にいくつも穴が空いたような見た目のそれは潰すことに特化した道具のようで、こうした細かい道具も揃っているところを見ると、イザルが元々料理を面倒くさがるような性格ではなく、むしろ好んでいるのであろうことがわかった。

 潰していると、イザルが何かを焼き始めたようで、キッチンにとても良い香りが充満する。リエティールが食欲をそそられ、思わず小さく感嘆の声を上げていると、


「潰せたか?」


と、イザルが声を掛ける。リエティールが頷いて返事をすると、


「次はこれだ」


と言って、カップに入ったクリムを手渡した。


「それを入れて溶かしておいてくれ。 一気に入れると混ざらなくなるから、少しずつやれよ」


 リエティールは、イザルの指示に従ってペースト状になったニックパンプに少しずつクリムを加えていき、慎重に混ぜていく。

 時間を掛け、しっかりと溶かすと、再びイザルから確認の声が掛かる。リエティールが「できました」と答えると、イザルはそれを渡すようにと言う。

 リエティールが小鍋を手渡すと、イザルは炒めていた、ペースト状になった野菜をその中へと入れていく。そしてそれを火にかける。


「これでプオは完成だ。 他のもすぐできる。 テーブルの方に食器を並べて待ってろ」


 そう言うイザルの顔はどこか満足げで、先ほどに比べてもより晴れ晴れとした表情になっていた。料理をしているうちに気が紛れたのだろう。

 その顔を見て、リエティールはこれが本来の彼なのだろうと思い、彼女もまた微笑を浮かべ、テーブルの準備へと向かっていった。

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