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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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20.命玉

 覚悟を決めて落ち着いた少女は、氷竜エキ・ノガードに「命玉サール」についてより詳しく教えてほしいと頼んだ。覚悟したからには徹底的に付き合っていくと決めたのだ。氷竜はそんな少女を頼もしげに見つめ、話すのであった。


 命玉は、氷竜が言った通り、命と引き換えに一つだけ生み出される、その生き物の「全て」が込められた宝石のような物体なのだという。命が潰える時、左の眼が変化して零れ落ちるのだという。それは古種トネイクナだけではなく、魔操種シガムも同じ性質を持っているらしい。

 命玉を吸収すると、その生き物が生前持っていた能力、知識、記憶や思考といった、それこそ「全て」が継承される。ただし、継承する側の意識や性格と言ったものは消えず、あくまでも追加される形で身につくのだという。また、身につけた能力はその身の丈に合うまではある程度の制限がかかるらしい。


 そして厄介なのが、継承側にもある程度の条件が存在するということだ。まず前提として、継承側は継承元と同じ性質の魔力を持っている、つまり同種であることが必要である。そうでないと、急激に流れ込む魔力を肉体が異物と判断して拒否反応を起こし、発狂したり自我を失ったりするのだという。

 二つ目に、精神の発達。これが現在子竜が抱えている問題である。自分ではない別の意識を取り込むのだ。精神が未熟であったり衰弱状態であると、これも同じように精神が狂ってしまう。

 この二つの条件をクリアして、初めて継承が成功するのだ。


「待って、魔操種も同じなら、何で大量に数が増えていくの? 命玉が一つだけなら、継承できるのも一度だけなんじゃ……」


 少女が疑問を口にする。魔操種も同じように継承するという点に疑問を覚えたらしい。継承できるのは一度だけのはずなのに、魔操種は古種のように1種1体のような存在ではないというのが何故なのか、ということだ。


『なにも、継承しなければならないわけではないぞ。 我が子も、継承しなくてもこのまま生きていくことはできる。 ただ、我らは一生のうちに生み出せるのが一体だけというだけだ。

 魔操種は子を成すのに、一生に一度というような大量の魔力を必要とはしないからな。 数を増やし、一番秀でたものに継承させるのだろう』


 それを聞いて少女は「あ、そっか」と納得した。勝手に継承しなければ成長できないように考えていたが、別にそのような制限は無いのだ。


『次は、そうだな。 人間ナムフ魔術師ストラについても話しておくか』


 魔術師という言葉に、少女は自分の知っていることを思い出す。

 魔術師は魔法を使える人間のことをさし、それは貴重な人材なのだという。それというのも、人間は生まれつき魔力を持っておらず、成長して得られるものでもないからだという。ではどうやって魔法を使えるようになるのかと言うと、それは女性も知らないようであった。その話をした当時は、もしも魔法が使えたら、などと話をして、結局使えないものの話をしても仕方がないかと、二人してため息をつきつつ苦笑いしたのを覚えている。


『魔術師は、魔操種の命玉を吸収して生まれるのだそうだ』

「え、でも……命玉は同じ種類にしか吸収できないんでしょう?」


 少女は命玉を吸収すると聞いて大層驚いた。たった今、同種でないと正気を失うなどと聞いたばかりであるのに、次には人間が魔操種の命玉を吸収して魔術師になるというのだ。驚くのも無理は無い。


『無論、そのまま吸収すれば唯では済まない。 まだ魔術師がいなかった頃、我は魔法に憧れて精神を壊した人間を何人も見てきた。

 我は人間が壊れていく様を見るのが辛くてな、やめろと何度も言ったのだが、憧れというものはそう簡単に諦められないもののようでな、彼らはずっとどうにかして命玉を安全に吸収できないかと、研究を続けていった。

 だから、初めて彼が掌の上に小さな水を生み出したときは、それは驚いた』

「どうやって……?」


 少女は身を乗り出して尋ねた。


『さあ、詳しいことは分からんが、どうやら命玉を特殊な方法で精錬して薬のような形にして飲み込むらしい。 その過程で、命玉の持つ記憶や思考といった部分が削ぎ落とされ、魔力も大幅に減るという。 精神に及ぶ危険因子を最大限取り除いているのだと。

 安全ではあるが、その分身につく魔力は極僅かで、幾日もかけて小指の先ほどの炎や水を生み出すのがやっとだといっていた。 それに、人間の身体には魔力を取り込んだり保存したりする仕組みがない為に、使うたびに魔力は減っていってしまう。 つまり継続して取り込み続けなければ魔術師ではいられず、成長もできないのだと言っていた。』


 少女はポカンと口を開けていた。氷竜はできるだけ噛み砕いて説明したのだが、少女には想像も及ばない話らしい。ただ、魔術師でいるということが非常に大変であることは理解できた。


「私も、魔術師になれるかな?」

『不可能ではないだろう。

 我が子が成長して、お前がここを離れられるようになったら、詳しい人間を探しに旅立つのも良いかも知れんな』


 氷竜のその言葉に、少女は希望を持った。

 自分も魔法を使えるように慣れるかもしれない。それほど少女をときめかせるものはないだろう。

 そして、もしも炎か光の魔法を極めることができたら。


(おばあちゃんを、ちゃんと弔ってあげられるかも……)


 少女はいつか必ず立派な魔術師になろう、と心に決めたのであった。

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