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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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205.不思議なおつかい

「まあ、その話はこのあたりにしておいて、この命玉サールは買い取ってもいいんだよね?

 あ、それとも魔法薬スタールに加工しようか? 命玉の買取額を差し引いて……銀貨一枚、ってところになるけど」


 気を取り直したセイネの言葉に、リエティールは頷いて「それでお願いします」と答えた。すると彼は満足げに頷いて、作業台の方に向かう。

 それからすぐに、彼は並ぶ道具を一瞥して何かに気がついた様子で振り返り、


「すまないけど、一つおつかいを頼んでもいいかな? 勿論、代金と手間賃は払うから」


と言った。


「おつかいですか?」


 セイネの言葉にリエティールが不思議そうに聞き返すと、彼は頷いてこう続けた。


「私はこれから君に貰ったティバールと命玉を加工しようと思うんだけど、エキの魔法薬を作るために必要な素材を切らしているんだ。 普段あまり作ることが無いから、残量を気にしてなくてね……。

 店の場所と名前、それから買うものを書いたメモを渡すから、頼まれてくれないかな?」


 そう言われ、特に断る理由も無かったため、リエティールは快諾してセイネからメモを受け取った。メモには簡易的な地図と「ネットナック」という店の名前、それから素材を表すらしい品番のような文字列が書かれていた。


「いってきます」


「うん、頼んだよ」


 簡単に挨拶をし、リエティールはセイネの工房を後にして、地図の通りに道を進んでいった。

 細い路地が多いが、建物の並びが規則正しくなっているおかげで地図も分かりやすく、リエティールはほど無くして目的地である「ネットナック」に辿り着く事ができた。

 両隣に並ぶ家々とは、セイネの工房ほどとまでは行かないが、暫くの間出入りをしていないのか外壁は砂埃で汚れていて、一線を画した雰囲気を醸し出してはいる。しかし、看板周りだけは綺麗に掃除されており、いかにも変わったものを売っていそうな店、という外観であった。

 リエティールはその雰囲気に気後れしつつも扉を開くと、ドアベルのカランカランという音が響き、やや埃っぽい空気が外へと流れてきた。

 内部はカーテンが締め切られ、小さなランプで照らされており薄暗いが、商品棚が並んでいる様子はリエティールも馴染みのある普通の雑貨屋とにた様子であった。ただ、そこに並んでいるのは雑貨ではなく、魔操種の素材らしきものばかりである。


「客か?」


 リエティールが扉付近でキョロキョロと様子を伺っていると、不意に店の奥から声が掛けられた。リエティールが驚いてそちらを見ると、そこにいたのは撚れた服に黒縁の大きな眼鏡をかけた男性であった。

 気だるそうな雰囲気は、以前宝飾店で会ったユルックにも似ているが、そちらが眠たげな気だるさであったのに対し、こちらはめんどくさそうな気だるさを放っている。

 そんな雰囲気のせいでセイネよりもいくらか年上にも見えるが、顔立ちがそこまで老けているわけでもなく、実際の年齢はそう変わらないのだろう。


「見ない顔だな、冷やかしか?」


 リエティールが口を開くタイミングを逃していると、その男性はやや苛立ちを見せてそう言ってきた。その言葉にリエティールは慌てて首を横に振り、


「いえ、あの、セ……シーさんに頼まれて、魔法薬の素材を買いに来ました」


と言って、持っていたメモを差し出す。知り合いではあるようだが、迂闊に名前を出していいものかわからなかったため、慌てて言い直す。


「セイネんとこのか」


 リエティールの気遣いなど全く意に介さずにそう言いながら、男性はメモを無造作に受け取ると、眼鏡を上げなおして目を通す。それから「ふん」と短く鼻を鳴らすと、


「待ってろ」


と言って店の奥に振り返り、


「カン、来い」


と呼びかけた。

 まだ奥に誰かいるのだろうかと、リエティールはその男性の背中越しに奥を覗くと、そこから現れたのは人間ではなく、不思議な生き物であった。

 その体は雫の形をしており顔は細長く、つぶらな瞳の後ろに小さな耳が立っており、小さく短い手足を精一杯動かし、よたよたと重たそうな体を揺らして、二足歩行をしていたのである。大きさはリエティールの膝くらいの背丈であった。

 ゆさゆさ、という擬音が似合いそうな歩みでその生き物がやっと辿り着くと、男性はその生き物を掴み上げ、もう片方の手で空き瓶を持ち、その空き瓶の中に生き物の細長い口を差し込んだ。

 リエティールはまさか、と思いながらそれを見ていると、彼女の想像通り、男性は生き物を掴んでいる手に力を込めた。それと同時に生き物の口から水らしき液体が噴出し、空き瓶の中を見る見るうちに満たして言った。

 瓶がいっぱいに満たされると、男性はその生き物を引き抜いて床に放り投げた。放り投げられた生き物は数度弾むと、痛みなどは感じていないのか、特に何か反応をするわけでもなく、再び店の奥へと姿を消して言った。


「銀貨一枚」


 リエティールが呆然としてそれを見ていると、男性は瓶を差し出してそう言う。リエティールは数度瞬きをして正気を取り戻し、慌ててそれを受け取ると言われた通り銀貨を一枚手渡した。

 男性はそれを確認すると、


「もういいだろ、帰んな」


と愛想なく言い放ち、リエティールはまだどこか腑に落ちないまま店を出ることになった。

 店を出て、リエティールは扉を振り返り、たった今起こった出来事が何だったのか整理がつかず、首をかしげてからセイネの工房へと帰るのであった。

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