204.セイネの秘密
てっきり、シーが実は何か悪いことをたくらんでいたのではないかと思っていたリエティールは、その言葉に目をパチクリとさせ、最後に首を横にかしげた。
そんな彼女の反応に、シー改め、セイネは気恥ずかしそうに頭を掻いて、
「やっぱり、知らないみたいだね」
と苦笑しながらそう言った。
「名誉……って、なんですか?」
彼が何か凄い人物なのであろう事は何となく察していた彼女であったが、具体的に言葉の意味がわからなかったため、いまいちその凄さがピンときておらず、リエティールは首をかしげたままそう尋ねた。
「あんな風に言っておいて、改めて言うのもなんだか恥ずかしいものだけれど……名誉錬成術師っていうのは、国際的に功績を認められた錬成術師のことを言うんだ。
私の師匠である祖父は、世界で始めて命玉の魔力の属性と量を同時に測れる判別測定器を作った人なんだ。
それで私は、それを改良して複雑な手順とコストの削減を実現したことを評価されて、同じく名誉錬成術師の称号をもらった、というわけだよ」
「へぇ……」
リエティールはそう感嘆の声を漏らしつつも、詳しい説明を聞いたところでやはりよく理解しておらず、ぼんやりと判別測定器を見つめるだけであった。
「どうして外ではフードを被っていたんですか? ばれたら大変なことになってしまうんですか?」
「想像してみてごらんよ。 目の前に世界的な品の発明者がいたら、まずびっくりするし、騒ぎになるだろう? そして自分がつくって欲しいものがあれば、それをつくって欲しいと頼み込もうとする人もいる。 ましてや貴族なんかに見つかれば、自分のお抱えにしようと目論む人も少なくないだろう。
私は面倒ごとは嫌いだからね、可能な限り避けたいものだよ」
そう言われ、リエティールはウォンズの王都であったパーティで、国王が姿を現した時の騒ぎを思い出す。あのような騒ぎが町中で起これば、間違いなく大変なことになるだろう。流石に国王レベルの人物ではないが、そこそこの規模の騒ぎになるのだろう。
リエティールはセイネの言わんとすることを理解し、「なるほど……」としみじみと呟いた。
「これって、そんなに凄いものなんですね」
判別測定器に再び目をやりながらリエティールがそう言うと、セイネは頷いてこう言った。
「まあね、私の収入の殆どはそれのおかげってところかな」
その言葉に、リエティールは再び首を傾げる。
「えっと……セイネさん、はこれを売っているんですか?」
リエティールの問いに、セイネは一瞬不思議そうな顔をしてから、やがてその意図を理解したように「ああ」と声を漏らしてから、説明を始めた。
「錬成術師にはイコッサっていう組合……エルトネにとってのドライグみたいなものがあるんだよ。
錬成術師はまず、みんなそのイコッサに登録する決まりがある。 それを通じて、発明品の情報共有をしたりするんだ。
新しいものを発明した人が現れた場合、それを作る権利は最初はその本人しか持っていないことになる。 その発明品の作り方をイコッサに提示して認められれば、他の錬成術師に作成と使用の権利を売ることができるようになるんだ。
僕が作ったこれは、錬成術師にとっては必需品な上、今までのものより使い勝手もコストもずっといい。 だから皆がお金を払って権利を買っていく。 その収入が私に入ってくるわけだ」
リエティールはそれを聞いて漸くセイネの凄さがわかり始め、その目には尊敬の色が浮かんでいた。
「皆に必要とされている……セイネさんって、本当に凄い人なんですね」
「ははは、そんな風に言われると何だか照れるな」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、セイネは恥ずかしさと嬉しさの混じった顔で笑いそう答える。それから、やや真剣な声でリエティールにこう言った。
「私は君の秘密を誰にも言わない。 その代わり、君も私の秘密を誰にも言わない。 これでおあいこ、ってことでいいかな?」
セイネが自身の正体を話したのは、自分だけが一方的にリエティールの秘密を知っているという不公平を失くすためであった。
リエティールは一瞬、たじろぐ様に目を泳がせたが、やがて「はい」と言って了承した。セイネはリエティールの態度にやや不安げな様子を見せていたが、了承の言葉を聞くと安心したように表情を緩めた。
リエティールが躊躇ったのは、自分はちゃんと本当のことを言っていないためであった。
エフナラヴァの命玉を持っている事は確かに重大な秘密ではあるが、判別測定器に異変を起こしたのは自分自身の魔力のせいである、というのが真実であったからだ。
エフナラヴァの命玉は膨大な魔力を持っていても、周囲に放つ魔力は殆ど無い。魔力が外部に漏れてしまうのは、制御が未熟であるためであり、元々魔力を保持する仕組みが備わっている命玉からはそう大量に漏れ出る事は無いのである。
セイネも命玉に詳しいのであればそのことは分かっているはずであろうが、リエティールを気遣って知らないフリをしているのか、あるいは本当にそこまで知っていないのかは定かではない。
いずれにしろあまり躊躇っては余計な不信感を抱かせてしまうと思い、リエティールは素直に同意することにしたのであった。




