202.判別測定器
クリムエートを飲んで一息ついてから、シーはリエティールに持っている素材になりそうなものを見せて欲しい、と言った。
とは言え、リエティールが持っているものはそこまで多くは無い。あるとすれば、王都で売り損ねた大量のレフテフ・ティバールくらいである。
なので、まずはそれの入った袋を床に取り出す。
「こんなに大きいもの、今までどうやって……?」
シーが目を目を丸くして、不思議そうにそう尋ねてきたため、リエティールは若干焦りつつも、
「内緒です」
と、曖昧に笑って誤魔化した。シーはその答えに残念そうな顔をしつつも、すぐに気を取り直して袋の包みを解いた。
「なるほど、レフテフ・ティバールか。 傷も少ないし、毛皮の処理は完璧だね。 命玉もあるし……。
……うん、これだけあるのなら『風圧の衣』を一つ二つは作れそうだ。
全部まとめて、これくらいの値段でどうだろう?」
ティバールの素材をてきぱきと取り分け数えながら、シーは頭の中で計算し、手近にあった適当な紙に値段を書き付けてリエティールに見せた。
そこには乱雑な字ではあるが、買い取りたい部位、それぞれの値段まで詳細に書き付けてあり、あまり詳しくないリエティールでも、ドライグでの買い取り価格よりもいい値段であることは一目で分かるようになっていた。
「大丈夫です。 あの、さっき言ってた……なんとかの衣?ってなんですか?」
了承しつつ、リエティールは気になった言葉を尋ねてみる。
「風圧の衣ね。 風の魔操種の皮を加工してマントの形にして、魔力が流れると周囲に強い風を一瞬起こすことができるものだよ。 高く跳んだり、高いところから飛び降りる時のクッションに使えるんだ。 エルトネ以外にも建築業に携わっている人とかにも人気があるものだよ。 やっぱり消耗品だけどね。
なんなら、買い取り価格から値段を引いて、完成したら一枚君にあげようか? 勿論安くしておくよ」
「えっと、じゃあ……お願いします」
説明を聞いて興味が湧いたリエティールは、その提案に乗ることにした。返事を聞いたシーは手早く計算をしなおし、もう一度リエティールに確認をしてから、買取を確定した。
「じゃあこれはこれで……他にもあるかい?」
「えっと……あ、これは……」
何があるかとごそごそと鞄の内側、もとい空間の中を適当に探っていると、大分前に持っていたあるものを見つけた。魔操種の素材ではないが、特徴があるものなので何かに使えるのではないか、とリエティールはそれを取り出して見せた。
「うん? これは……ああ、なるほどこの匂い、アビシュマだね?」
シーが言う通り、リエティールが取り出したのはアビシュマの葉であった。クシルブで初めて依頼を受注した時、蕾の採集のついでに取っておいたものだ。量はそこまで多くはないが、小さい籠一杯分くらいはあるだろう。
噛むと甘味があり香りが広がる、という特徴があるが、採取した時に一部が切れていたものもあり、取り出すと同時に微かな香りが広がり、シーもその正体に気がついたのである。
「これは、私みたいな魔道具師よりも調香師に売った方がいいよ。 これは魔操種寄せにも使われるし、香水にもなるから、そこそこいい値段で買ってもらえると思う。 蕾は持ってないのかい? あるなら、そっちは調薬師に売れるけど……」
「蕾は、別の依頼で納品したので」
リエティールの答えにシーは納得しつつ、これは相場がよく分からないから、と買取は保留になった。その代わり、この国のドライグであれば、調香師からの需要があるため他の国よりいい値段がつく、ということを教えてもらうことができた。
あとは何か無いかと、リエティールが探して取り出したのは、テレバーにも見せたレビル・ビパックの命玉であった。
取り出して見せると、シーの目が嬉しそうな色に変わった。
「命玉だね! しかも、見た限りだと氷のだろう?」
「見ただけでわかるんですか?」
商人であるテレバーでも本当に氷属性かは疑うような目をしていたので、シーが一目見て氷の命玉だと判断したことに、リエティールは驚いてそう尋ねる。
「まあ、命玉の専門みたいなものだからね。 命玉にはずっと触れてきたし勉強もしてきたから、普通じゃ気にしないようなちょっとした特長とかも分かるし……まあ、一番は感覚で何となくわかるってだけなんだけど。
ちゃんと検査をして確認はするけどね、渡してもらってもいいかな?」
あはは、と笑うシーに、リエティールは頷いて命玉を手渡す。
すると、シーはリエティールが向かっていた机とは別の机の上にある、ガラスでできた器具に近付いていく。リエティールもそれが何か気になったので、後を追って覗き込んだ。
釣鐘型のドーム状のガラスの上に、同じくドーム状の、逆さまにしたものがつながった形をしており、それぞれの上下は皿のような形をした蓋がされている。
上のドームは空であったが、下のドームの中には黒い液体のようなものが薄く敷かれるように入っている。リエティールはそれを一目見ただけでは何なのか理解できなかったが、これが属性を判別するためのものであるなら、と思いついた言葉を呟いた。
「エメレ鉱石……?」
「うん、そうだよ。 見たことある?」
その問いにリエティールは頷き半分首を傾げる。以前テレバーが使っていたのは、小瓶に入っていた普通の小さい鉱石であり、今見ているような液体状のものは見たことが無かったためである。
そんな仕草に、これを見るのははじめてなのだろうと判断したシーは、目の前の物体について簡単に説明した。
「これは属性判別の他に、正確な魔力量を測る機能もあるんだよ。 上の部分に命玉を入れて、ドームの部分にはしっかりと規格に沿った量のエメレ鉱石の粉末とか、他の……特別な調合をした液体を入れる。 そうすると、エメレ鉱石の性質で魔力との反応が起きると、まず属性がわかる。 そして更に、その反応によって液体の体積が変わって、その変化の具合から含有している魔力の量を測定するんだよ」
口で言うより実際に見たほうが分かりやすいだろうと、シーは上のドームの蓋を取って命玉を置こうとした。ところが。
「ん……?」
命玉をまだ置いていないにも拘らずエメレ鉱石が強い反応を示し、シーは不思議そうに首を傾げたのであった。




