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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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200.遭遇

 二人組の男は錬成術師ミクラルトを軽蔑しているのか、リエティールにわざと聞こえるようなはっきりとした声で悪口を言った。そして同時に、チラチラと様子を伺うような視線を背中に感じたリエティールは、その軽蔑が自分にも向けられていると感じ、無性に苛立ちが募った。


「どうしてそんな事言うんですか!」


 関わらなければいいものを、我慢ができなくなったリエティールはバッと振り向いてそう言い放った。二人組はそれに対してお互いに目を見合わせ、それから明らかに小馬鹿にしたような顔でリエティールを見た。


「なんだぁ? 盗み聞きとはたちが悪いおこちゃまだなぁ?」


「そうだ、それに俺達は事実を言ったまでだ。 あんたに文句を言われる筋合いは無いぜ」


 わざと聞こえるように言っていたことを棚に上げ、男達は薄ら笑いを浮かべてそう言い返す。


「大声で悪口を言うなんて良くないです! それに、錬成術師さん達のことを悪く言わないでください!」


 魔道具スルートに対して強く興味を持っているリエティールは、自身を馬鹿にされたことよりもそれを作る錬成術師を軽蔑している二人組のことが許せなかった。


「ふん、何と言われようとも、あいつらがエルトネに頼って素材を貰わないと何もできない軟弱者って事実は変わらねぇからなぁ」


「できることを頑張って、助け合うのは当然のことのはずです!」


 憤るリエティールとは対照的に、どこ吹く風と全く気にした様子の無い男達は、まるでリエティールの反応を見て面白がっているようであった。

 それがますます気に入らず、リエティールが再び口を開こうとした時、手を叩く軽快な音が響き、


「まあまあ、喧嘩は良くないですよ」


と声が掛けられた。

 三人が振り向くと、そこにいたのは大きなローブを纏いフードを目深に被った人物であった。顔の半分以上が隠れているため外見では判断できないが、背の高さと声の質で、その人物が若い男であることはわかった。


「何モンだ?」


 男の一人が訝しげな顔でそう言うと、フードの人物は口元ににっこりと笑みを浮かべ、


「あなた方の嫌いな錬成術師ですよ」


と答えた。

 二人組は一瞬ポカンとした顔をしたものの、すぐにおかしくて仕方が無いと言った様子で笑い出した。


「はっ! 軟弱者が自分を庇う子どもを見かねて助けに入ったって所か? ああ、感動的だなあ! 涙が出てくるぜ!」


 明らかに馬鹿にした態度でそう言いながら笑う男達に対して、リエティールはますます腹が立ち、拳を震わせて言い返そうとするが、フードの人物は彼女の前にすっと手を差し出した。不思議がって顔を上げてみると、彼は首を横に振った。


「私のことが気に入らないのでしたら、早く依頼の受注へお向かいください。 こんなところで騒ぎ立てていては迷惑になりますよ。 あなたたちの声はとても大きくて、耳に悪いですから」


 フードの人物が笑みを崩すことなくそう言うと、笑っていた二人は笑うのを止め、酷く怒りの篭った目でその人物を睨みつけた。自分が軽蔑していた存在が全く挑発に乗ることもなく、逆に平然と言い返してきたことがよほど癇に障ったのだろう。


「なんだと……? もう一回言ってみろ!」


「ですから、静かにした方がいいですよ。 ほら、周囲の方々も迷惑そうにしていますから」


 フードの人物の余裕な物言いに、我慢ができなくなったのか、男に一人が固く拳を握り、それを勢いよく振りかぶりフードの人物目掛けて振り下ろした。


「あっ……!」


 流石に暴力はまずい、とリエティールが焦って思わず声を漏らすが、当の本人は全く焦った様子もなく、慣れた仕草で右手を前に出すと、男の拳が到達する寸前にその手元が光り、拳の動きが止まる。そして、


「ん、なん……うおぉっ!?」


「なっ、ななな……!」


 ふっと、強い風が巻き起こったかと思うと、男を数メートルほど後ろに吹き飛ばしてしまった。吹き飛ばされなかった方の男も何が起こったのか判らないと言った様子で、慌てて吹き飛ばされた男の方へと駆け寄っていった。


「今の……それは、魔道具ですか?」


 リエティールは驚きつつも、フードの人物の右手をおずおずと指差してそう尋ねる。


「ああ、これはね、『風盾イクスドレイスの指輪』という魔道具だよ。 二つで一つ、隣り合った指に嵌めておく護身用の魔道具でね、二つをくっつけて念じることでその名の通り風で盾を作ることができるんだ。 周りを傷つけずに弾き返すだけだから、気軽に使えて便利なんだよ」


 指輪を近くに差し出して見せながら、男二人組のことなど全く気にしていないと言った様子でそう答えたフードの人物は、ふと「そうだ」と呟いて、リエティールにこう言った。


「君、錬成術師の依頼に興味があるなら、私の工房に来ないかい? 依頼、という形ではないけれど、よければ君の持っている素材を見せて欲しいんだ。 勿論、売ってもいい物があったらドライグで売るより色をつけて買い取らせてもらうよ」


 その提案は、リエティールにとっては嬉しいものであった。素材を買い取ってもらえるというのは勿論、錬成術師の工房に行けば多くの魔道具を見られ、もしかすれば作る過程を見せてもらうことができるかもしれない、と考えたからである。

 リエティールが大きく首を縦に振って二つ返事で了承すると、フードの人物は嬉しそうに笑い、


「よかった、ありがとう。 じゃあついてきて。 道すがら自己紹介もさせてもらうよ」


と言い、二人はドライグを後にした。その背後では、未だに何が起きたのかわかっていない男二人組が混乱した様子で恨み言を喚き散らしていた。

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